上 下
13 / 310

13.失う怖さ。

しおりを挟む
「コリン? 」
 一方、シークはいつまでたっても帰ってこないコリンに首を傾げていた。
 そろそろ小半時(30分)だ。いくらなんでも長すぎる。
 ‥もしかして、迷子?
 いや、迷子になる程入り組んだ森でもなかった。
 まさかね‥。
 でも‥。もしかして‥。
 ‥やっぱり、ペアなんて組むんじゃなかった、って思う。
 失う怖さを知っている。
 これも、ペアを組んでこなかった理由かも‥って思う。
 心配したり、失う怖さにおびえたり‥ペアを組むってことは、怖いこと、苦しいことしかない。
 自分一人なら無理も出来る。だけどペアを組んだら、相手の事を気にかけなければいけない。守らなければいけない。
 自分の意思で組んだわけじゃないけど、‥無理矢理ペアを組ませたコリンに今更ながら怒りの感情が沸き起こってくる。
 しかし、遅い。
 こんな何にもない森で‥。迷子とか有り得ないだろ。
 こんな何にもない森‥
 寧ろ‥って気がする。
 余りにも‥なんてことが無い‥なさすぎる森なんだ。
  入口には警備兵が「ちょっとやり過ぎじゃない? 」って位いて、人の出入りを禁止していた。‥でも、コリンの転移移動であっさり抜けられた。
 厳しく警備しているのであれば、入り口でなくとも、どこかに「敵」が侵入すれば、察知されそうなのに‥今のところ、(察知した)警備兵が動いているという気配もない。
 あるいは‥入ったのは知っているが、取るに足りない‥と放置されているかもしれない。
それは、分からないが確かなのは、この森が何かを隠しているということだ。
 この森は‥見た目通りではない。

 俺は、戦意も殺気もこの森から何も感じなかった。だから、中級以上の魔物はおろか、魔獣もいない‥って思った。
 俺たち「ファイター」が、戦意や殺気で人や魔獣・魔物の居場所を察知するのに対して、コリンは
「魔術士は、魔力で人その他の居場所を察知します。魔術師同士であれば、魔力量も大体わかります。分かるというか‥自分より上、とか下とかわかるって感じですね」
 と言っていた。
 俺が
「じゃあ、居場所が察知出来るのは魔術士‥魔力がある者だけか? 」
 と聞いたら、首を振って
「魔術士が分かりやすいのは確かです。だけど、魔術士以外は分からないわけじゃないですよ。人には、例えそれが僅かでも‥それぞれ魔力がありますから。魔力を持た無い人間っていうのはいないんです」
 って言った。驚く俺に、コリンは魔力についての説明をしてくれた。
「魔法を使える使えないは別にして‥ですけどね。量が少なすぎて使えない人もいるし、量が十分でもそれを使う術を持たない人もいる。‥魔力量が十分にあるけど、魔術士の職紋が出ないって人は、それですね。その人は、その代わり怪我の治りが人より早かったりしますよ。シークさんもこのタイプですね、多いって程ではないですけど、シークさんにも魔力はありますよ」
 その話に更に驚いた。
 今まで誰からもそんな話聞いたことが無かったから。
 でも、魔術士と組んでいるファイターなら常識として知っていたことなのだろう。
 ‥父とは、そんな話をするまでに死に別れた。
 俺が、視線だけで話の続きを促すと、小さく頷いたコリンが
「人だけじゃなく、それは、野生動物でも同じです。魔力があるから、居場所がわかるんです。
 ましてや魔物や魔獣なんかは魔力が豊富だからいたらすぐわかりますね。‥魔力の種類で種族なんかも分かりますよ。あとは‥大体の魔力量なんかも種族によって決まっていますよ」
 と話を続けた。
 そんなコリンが
「ここにはいない」
 って言ったんだから、ここにはいないんだろう。

 でも‥本当はどうだったんだろうか。

 魔力を感じない人間や魔物、魔獣って本当にいないのだろうか?
 いないじゃなくて、‥いるけど分からないってこと、本当にないんだろうか?
 あの魔術も使える剣士‥あいつはどうだったんだろうか?
 あいつは、‥全然戦意も殺気も出していなかったと思う。父さんが、「魔法使い」だって思っていたから。そうでなければ、母さんを前衛に出したりしない。
 そして、‥母さんも迷うことなく、「対魔法使い」の対応をした。
 母さんもコリンみたいに、‥魔法使いとしてどっちが上か‥みたいなのが分かった‥とっさに、察知しただろう。
 同等もしくは、ちょい下位。
 母さんはそう判断した。。
 ‥格上の魔法使いだって分かったら、母さんは手を出さなかった。
「これは、‥危ない。兎に角相手の出方を見ましょう」
 っていって、長期戦に移行するってのが、いつものパターンだった。
 とにかく相手の様子を見て、隙を突きましょうって。先制攻撃を仕掛けるのを辞めただろう。
 先制攻撃‥あの、味方に魔術士の場所を知らせるために投げるカラーボールは、コリンによると
「魔力差があり過ぎると、相手に当たりもしない」
 らしいから。
 きっと(確認したこともないし、今からも確認する術はないが)母さんもその辺りの事を知っていただろう。
 母さんは、どちらかというと用心深い方だった。
 母さんが迷わず先制のカラーボールを投げたってことは‥。

 魔力量を偽れて、戦意も殺気も消せる戦士がいる‥(今はまだ推測だが、だ)。
 ‥父さんや母さんたちの戦士や魔術士としてのレベルは‥今となっては分からない。今の俺が、父さんのレベルを超えているだろうってことは‥でも、分かる。そして、コリンが母さんよりずっとレベルが上の魔術士だろうってことも。
 だけど、それでも‥当たりたくない敵だ。
 コリンと当たらせたくない敵だ。

「コリン‥一体どこに行ったんだ‥」
 俺は、視線をざわざわと葉擦れの鳴る森の奥に移して、もう一度呟いていた。

「? 僕を呼びました? 」
 ひょこ、っと繁から金茶の髪が頭を出した。
「コリン! 」
 つい、頭に血が上った。
「心配しただろうが!! 」
 目を吊り上げて思わずさけんでしまった俺に、コリンはキョトンとする。
「え? ちゃんと言って出ましたよ? それに、僕無敵だからそうそう危ない目になんて遭いませんよ? 」
 コリンが首を傾げる。
 キョトンとした‥心外っていう風な顔をしている。
 ‥甘い!
「何を言ってるんだ! 」
 かっとなった俺が叫ぶと、
 コリンは、額に皴を寄せて、苦しそうにふ、っと微笑んだ。
「自分の身位自分で守りますって。それは、寧ろお願いします。変に心配とかしないでください」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈 
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

エロゲ世界のモブに転生したオレの一生のお願い!

たまむし
BL
大学受験に失敗して引きこもりニートになっていた湯島秋央は、二階の自室から転落して死んだ……はずが、直前までプレイしていたR18ゲームの世界に転移してしまった! せっかくの異世界なのに、アキオは主人公のイケメン騎士でもヒロインでもなく、ゲーム序盤で退場するモブになっていて、いきなり投獄されてしまう。 失意の中、アキオは自分の身体から大事なもの(ち●ちん)がなくなっていることに気付く。 「オレは大事なものを取り戻して、エロゲの世界で女の子とエッチなことをする!」 アキオは固い決意を胸に、獄中で知り合った男と協力して牢を抜け出し、冒険の旅に出る。 でも、なぜかお色気イベントは全部男相手に発生するし、モブのはずが世界の命運を変えるアイテムを手にしてしまう。 ちん●んと世界、男と女、どっちを選ぶ? どうする、アキオ!? 完結済み番外編、連載中続編があります。「ファタリタ物語」でタグ検索していただければ出てきますので、そちらもどうぞ! ※同一内容をムーンライトノベルズにも投稿しています※ pixivリクエストボックスでイメージイラストを依頼して描いていただきました。 https://www.pixiv.net/artworks/105819552

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

腐男子ですが、お気に入りのBL小説に転移してしまいました

くるむ
BL
芹沢真紀(せりざわまさき)は、大の読書好き(ただし読むのはBLのみ)。 特にお気に入りなのは、『男なのに彼氏が出来ました』だ。 毎日毎日それを舐めるように読み、そして必ず寝る前には自分もその小説の中に入り込み妄想を繰り広げるのが日課だった。 そんなある日、朝目覚めたら世界は一変していて……。 無自覚な腐男子が、小説内一番のイケてる男子に溺愛されるお話し♡

転生先のぽっちゃり王子はただいま謹慎中につき各位ご配慮ねがいます!

梅村香子
BL
バカ王子の名をほしいままにしていたロベルティア王国のぽっちゃり王子テオドール。 あまりのわがままぶりに父王にとうとう激怒され、城の裏手にある館で謹慎していたある日。 突然、全く違う世界の日本人の記憶が自身の中に現れてしまった。 何が何だか分からないけど、どうやらそれは前世の自分の記憶のようで……? 人格も二人分が混ざり合い、不思議な現象に戸惑うも、一つだけ確かなことがある。 僕って最低最悪な王子じゃん!? このままだと、破滅的未来しか残ってないし! 心を入れ替えてダイエットに勉強にと忙しい王子に、何やらきな臭い陰謀の影が見えはじめ――!? これはもう、謹慎前にののしりまくって拒絶した専属護衛騎士に守ってもらうしかないじゃない!? 前世の記憶がよみがえった横暴王子の危機一髪な人生やりなおしストーリー! 騎士×王子の王道カップリングでお送りします。 第9回BL小説大賞の奨励賞をいただきました。 本当にありがとうございます!! ※本作に20歳未満の飲酒シーンが含まれます。作中の世界では飲酒可能年齢であるという設定で描写しております。実際の20歳未満による飲酒を推奨・容認する意図は全くありません。

[完結]堕とされた亡国の皇子は剣を抱く

小葉石
BL
 今は亡きガザインバーグの名を継ぐ最後の亡国の皇子スロウルは実の父に幼き頃より冷遇されて育つ。  10歳を過ぎた辺りからは荒くれた男達が集まる討伐部隊に強引に入れられてしまう。  妖精姫との名高い母親の美貌を受け継ぎ、幼い頃は美少女と言われても遜色ないスロウルに容赦ない手が伸びて行く…  アクサードと出会い、思いが通じるまでを書いていきます。  ※亡国の皇子は華と剣を愛でる、 のサイドストーリーになりますが、この話だけでも楽しめるようにしますので良かったらお読みください。  際どいシーンは*をつけてます。

【完結】侯爵家令息のハーレムなのに男しかいないのはおかしい

みやこ嬢
BL
【2020年12月20日完結、全69話、小話9話】 アデルは王国を裏で牛耳るヴィクランド侯爵家の跡取り息子。次世代の人脈作りを目標に掲げて貴族学院に入学するが、どうもおかしい。 寄ってくるのは男だけ! 女の子は何故か近付いてこない!! それでも将来のためと信じて地道に周囲との親交を深めて籠絡していく。 憧れの騎士団長との閨のレッスン。 女性が苦手な気弱同級生からの依存。 家族愛を欲する同級生からの偏愛。 承認欲求に飢えた同級生からの執着。 謎多き同級生との秘密の逢瀬。 これは、侯爵家令息アデルの成長と苦難の物語。 あやしい話にはタイトルの横に*を付けてます

処理中です...