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12.朝の運動って位の感覚だったんです。

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 翌朝。コリンは、詮索魔法を広範囲で展開させた。
「どうだ? 」
 森の入り口近くに、中型の魔物も、‥人の気配もない。森の入り口の前にいたが、あれは、立ち入り禁止場所だから、見張り番の兵士って奴だ。
 コリンが首を振る。
「やっぱりいません」
 森の外回り‥入り口の辺りから徐々に奥に奥にと詮索を広げていく。
 森の最奥に‥
 ‥人だ。
 一人二人‥何人かいる。
 魔術士系だ。
 シークさんの苦手な‥。
 剣士も兵士もいるけど、‥これは、大したことがなさそうだ。
 嫌な相手は、魔術士系の二人だけだな。
 逆に、魔術士系の二人さえ叩けば、そう難しい相手じゃない。
 なら、僕がちょちょっと叩いとけばいい話なんじゃないだろうか? 
 わざわざシークさんの手を煩わすことでも、なくない?

 同じ魔法使い同士なら、僕の方がランクは上だ。ちょっと朝の運動程度でかたがつく。

 シークさんたち、戦闘系の人たちは、殺意や戦意といった気配を察知するのは長けているけど、殺意や戦意を出さない魔術士系の気配を察知することが苦手だ。
 ‥これは何も、シークさんに限ったことではない。
 戦闘系の人はみんなそうだ。
 ただ、シークさん程のクラスになってくると、それがやけに気になる‥ってだけの事で、並みの戦闘系の人たちだったら、気にもしないくらいの事なんだ。
 一瞬の遅れが、一瞬の攻撃の遅れとなるから‥。

 シークはスピード重視型のファイターではないから、そう影響はない。だけど、スピード重視‥スピードonly先手必勝型の短時間での勝負をスタイルとするスタミナが無いタイプのファイターには、これは致命傷となる。  
 だから、そんなタイプは、前衛に魔法使いを置いて、先に魔法使いに相手の魔法使いを攻撃させ、位置情報の把握を先に行う。その後、攻撃が始まればすぐに、魔法使いは後衛に引っ込む‥そういうスタイルをとる。
 ‥魔法使いを捨て石の様に扱うのは‥俺は嫌だな。
 常日頃からシークもそのスタイルを嫌悪していた。
 一方魔法使いは
「私たちは戦わないから構わないんです。相手の魔法使いの位置だけファイターに教えたら、後はさっさと引くだけです。私たちの仕事はそれって割り切ってますから、捨て石にされてる‥とかは思わないですよ? 」
 って、ケロッとした顔をしているんだ。
 最初の一撃の怖さを、シークは知っている。
 魔法使いVS魔法使いなら、いい。お互いに、カラーボールぶつけ合って、後衛のファイターに場所を教えているだけだから。
 だけど、魔法使いがカラーボール投げた相手が、一手目から攻撃してきたら? ‥魔術士の職業紋を剣士の職業紋に進化させた「魔術も使える剣士」なら、間違えなくそうしてくるだろう。
 一撃目は、危険なんだ。
 だけど、‥そのことをペアでもない魔法使いに説いて聞かせる意味は‥きっとお互いにないのだろう。
 ‥人といると気を遣う。
 シークが今までソロで依頼を受けて来たのには、そんな理由もあった。


 魔術士の職業紋を剣士の職業紋に進化させた「魔術も使える剣士」

 あれは、‥本当に敵に回したくない。
 かって、目の前で自分の母親を魔術も使える剣士に殺された‥あの記憶が頭から離れることはない。
 ファイターである父親のサポートをする為に最初の一撃‥カラーボール的な一撃を放った母親に、魔術も使える剣士‥ローブをすっぽりかぶった一見魔法使いにしか見えなかったあいつ‥は一撃目から、攻撃魔法を撃ってきて‥母親にそれは命中した。
 そして、奴はローブを脱ぐと、剣を抜き親父に向かって来た。
 ‥すっかり冷静さを失った親父は、‥もう散々だった。
 そして‥俺は、目の前で両親を殺された。
 物陰でそれを、‥俺は震えながら見ていることしかできなかった。
 奴の目は、だけど俺に気付いていた。気付いていたが、にや、っと‥体の芯まで凍る様な冷たい視線で俺を見ると、奴は、他の仲間と一緒に去っていった。
 あの顔と‥凍える様な目は、今でも覚えている。
 ‥5歳だった俺より、10程しか変わらないような若い戦士だった。


 コリンが例えば、そのタイプに当たったらって思うと、‥怖い。
 きっとコリンは自分が言わなくても、俺を守るために一撃目を撃つだろう。確かに、コリンは普通よりずっと強い。誓約士だから、一歩目からの不意な攻撃にやられるということもないだろう。
 だけどそれは、相手の先手攻撃に間に合ったらの話だ。
 相手が先制攻撃をする前に、コリンが誓約執行で相手の動きを止めれば‥次の手を用意する「隙」が出来る。だけど、コリンの誓約執行前に、相手から先制攻撃を受けたら‥。まあ、‥そんな人間そうはいないだろう。それこそ、そんなことが出来るのは中級以上の魔物位だ。そんなものは、そうそういない。
 いや、例えいたとしても、コリンは無意識に半径5m以内に近づいた敵を攻撃する。
 俺は乾いた笑いを浮かべた。
 ‥コリンは自分なんかいなくたっていい位、優秀だ。
 まさに、チートって言っていい位だ。
 だけど、その時シークは忘れていたんだ。
 コリンの自動攻撃が、「但し、人間は除いて」だったということを‥。


「僕、ちょっと行きたいところがあるんですけど‥ここで待っていてもらえませんか? 」
「何処に行くんだ? ‥単独行動は止せ」
「‥ちょっと用をたしに‥」
 わざと、言いにくそうに言うと、
「‥行ってこい。早く帰ってこい」
 真っ赤になったシークさんが、そっぽを向いた。
 可愛い。‥好き。

「ん~。とにかく、雑魚は倒しておくか。後は、シークさんがあの二人に見つからないうちに‥一人でも、倒しておきたい。事情をきかないといけないから、殺しはしない。
 手加減しないといけない‥から、余計に集中力がいる。
 できれば、一人で戦いたい。
 シークさんを気にしてたら‥かえって、集中力が、ね」
 コリンは、ローブを脱いで近くの枝に引っ掛けると、森の奥に向かった。
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