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恋愛相談
しおりを挟む騎士の仕事が終われば、カーネリアンはリナリアに会いに行く。
直接会いに行くというよりは、教会帰りのリナリアの目に付くような道を、偶然を装って通るのだ。
リナリアは必ず見つけて、隣に並んでくる。
おそらく、彼女と一番仲がいいのはカーネリアンだ。
愛しいリナリアの隣を歩けることは、幸福なことだが、カーネリアンも人並みな男性であるから、それ以上の欲もある。
恋人でもないのに、独占欲ばかり大きくなってしまう。
そろそろ、先々のことまで考えなければならないと思い始めていた。
家族で暮らす家に帰ると、姉に来客を告げられた。
カーネリアンの家は、ついこの間、姉の夫が訪問したばかりで、姉が嬉しそうにしている。夫はまた仕事で街を出てしまったが、まだ余韻が残っているようで、家の雰囲気は明るい。
玄関から部屋に入ると、見覚えのある、うねる髪が振り向いた。
「お邪魔しています、カーネリアン」
生き生きとして、笑顔で出迎えたのは、フリージアだ。
カーネリアンは突然のことで驚いたが、愛想よく挨拶を返した。
「やあ、フリージア。珍しいどころの話じゃないな。こんな時間に、何か?」
「まだそんなに遅い時間じゃないわ」
「もうすぐ日も暮れるだろう。急ぎの用事?」
「急ぎっていうか……だってこの時間じゃないと、カーネリアン家にいないじゃない」
「外だとまずい話題なのか?」
カーネリアンはフリージアの向かいのソファに腰掛け、神妙に聞く。
フリージアは慌てて、「重たい話題じゃないのよ」と首を振った。
「恋愛相談に乗りにきたのよ!」
ふふん、と得意げに言われ、カーネリアンの思考は一瞬停止する。
「相談しに来たんじゃなくて、相談に乗りに来たの?」
「そうよ!」
「……なんでそんな発想になったのさ」
「だって、カーネリアンはリナリアのこと好きよね? まさか好きじゃないわけないでしょ?」
「……」
カーネリアンは黙り込む。意味が分からない。
一応、あからさまに好意を示さないようには、気をつけているのだが、断言されてしまうのは初めてだ。
ランスと話す時でさえ、からかいも口にされないように、ある程度会話は誘導している。
フリージアは、カーネリアンの態度から気付いた訳ではないだろう。
誰か意中の相手が他にいる場合は別として、一緒にいれば誰もがリナリアを好きになると、彼女は本気で思っているのだ。
「とりあえず、何を思って行動に移したのか、経緯を教えてほしいんだけど」
「カーネリアン、私はね、リナリアとまた仲良くしたいの。それで、カーネリアンにも協力してほしいのよ」
「それが何で恋愛相談?」
「リナリアの一番近くにいるのは、カーネリアンでしょ。私にも原因があるけど、リナリアは喋れないから、そんなリナリアを理解して、ずっと支えてくれる存在が必要よね。そろそろ、お仕事をするか、お嫁に行くことを考えていたらね、リナリアには絶対に幸せな結婚をしてほしい、って思ったの」
「……それで?」
「でね、ぽっと出の人より、カーネリアンがリナリアをお嫁にもらってくれたほうが、絶対いいと思う。だからカーネリアンに頑張ってもらおうと、恋愛相談に乗りに来たわけ。私が二人の仲を取り持てば、気持ちが満たされたリナリアが私に心を開いてくれる、っていう寸法」
「随分押し付けがましい恋愛相談だなあ……」
強引で割りと無茶苦茶な計画に、カーネリアンは苦笑する。リナリアの相手に選ばれるのは光栄だし、フリージアがカーネリアンを応援してくれるのは嬉しく思う。
だが、そんなに上手くはいかないだろう。
「リナリアの気持ちが大事だろう」
カーネリアンは、リナリアから恋愛対象として見られている自信は全く無い。
下手なことをして、例えばそういった目でリナリアを見ていると、本人に気付かれて、嫌われてしまうかもしれない。
リナリアが優しいことは知っている。カーネリアンの恋情が露見したとしても、戸惑うかもしれないが、嫌悪を顕わにすることはないような気がする。
それでも、リナリアがカーネリアンを見つけて駆け寄ることが無くなることを想像すると、今の関係を壊したくないと思う。
「それに、結婚って飛躍しすぎだよ。恋人になるのも難しいと思うよ」
「全く問題ないわ」
「どこからくるんだよその自信……」
自信満々に答えるフリージアは、リナリアの気持ちを知っているから、ためらいはない。
厳密に言えば、カーネリアンはリナリアへの好意を肯定してはいないのだが、フリージアの勢いは止まらない。
「外で会ったら、リナリアにばれちゃうでしょ? だからわざわざ家に来たの。安心して、二人の邪魔はしないわ! ただ、私の好感度も上げたいから、忘れないでね!」
結局カーネリアンは、強く拒否することは出来なかった。
(まあ、少し様子を見るか……)
結婚云々はさて置き、リナリアとフリージアのことは、わだかまりが無くなればいいとは思っていた。
二人の和解が、解呪に繋がることに期待する。
「じゃあ、用事も済んだし、帰るわね。また度々作戦会議しましょう」
フリージアは意気揚々と立ち上がり暇を告げた。
すると、会話を聞いていたとしか思えないタイミングで、カーネリアンの姉が、横から会話に入ってきた。
「ごめんね、少し話が聞こえたのだけど」
実際に聞いていたらしい。
別に、声を潜めていたわけでもないので、聞こえても仕方がないのだが、確実に聞き耳を立てていただろうなと、カーネリアンは姉に対して、少しだけ不服に思った。
「フリージアちゃん……影ながら応援するわ。いつでもいらっしゃい。でもね、いい人がいたら、フリージアちゃんも自分の恋をつかまなくちゃ駄目だからね」
「お姉さん……ありがとうございます。頑張りますから、見ていて下さい!」
カーネリアンを置いて二人は盛り上がっている。
「水を差すようで悪いけど、家の人が心配するよ」
カーネリアンがやんわり告げると、姉が「リアン、送ってあげなさいね」と玄関まで追いやってきた。
なんだかいつも、送るように言われている気がする。
「言われなくてもそうしますよ……」
カーネリアンは半ば投げやりに答えた。
帰り道、フリージアは良く喋るので、新鮮だった。
リナリアともいつか、こんな風に会話を出来る日が来るだろうかと、希望を抱いた夜だった。
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