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二人目の加護
しおりを挟む神仕えは一目見ただけで理解した。
フリージアは、加護を受けている。
彼女を愛した神様がいたのだ。
フリージアのことも、昔から知っているが、加護を感じたことはない。
リナリアのように生まれ持ったものではなく、後天的なものだろう。
前に会った時は分からなかった。
つまり、フリージアと会っていなかったここ数日ということになる。
その気配は酷く弱々しい。あまり力の強い神様ではない気がした。
リナリアに加護を与えた神様のほうが、余程強く感じる。
その点でも合点がいく。
(だからリナリアは、呪いを受けたにも関わらず……)
恐らく、加護を与えてはいなくても、神様の存在はフリージアのすぐ側にあったのだろう。
とある神様に愛されたフリージアが、リナリアの言葉に、深く傷ついていた。
フリージアの落ち込みように、神様はリナリアを恨んだ。
そして、リナリアを呪ったのだ。
今までは見守るだけだったフリージアには、加護を与えて。
まずはフリージアの話を聞こう。神仕えはそう思った。
彼女の話はやはり、リナリアのことだった。
リナリアと仲直りしたいが、どうすればいいかわからないという。
少女の無垢な悩みに、微笑ましい気持ちになる。
この純粋さが、好かれる所以だろう。
神仕えは、真摯に相談に応じた。
きっと、リナリアと仲直り出来ると、願いも込めて言う。
我が儘に振る舞うが、母思いで根が優しいリナリアと、リナリアに向き合おうとするフリージアは、良い友人になれる。
本心からの言葉を告げて、励ました。
フリージアは大分気を持ち直したようだった。
次に、神仕えは自分が感じ取った加護について、誤解の無いよう、丁寧に伝えた。
「私に加護なんてつかなければ、リナリアは呪われなかったんだね」
フリージアは、自分のせいでリナリアが呪われたと思ったようだ。
「どうすればいい? リナリアに声を返したいの」
泣き腫らした彼女の目から、また涙がこぼれる。
リナリアに嫌われることも辛いが、あの美しい声を奪うなど、あってはならないことだと、フリージアは思った。
「リナリアと仲良しになればいいんですよ」
リナリアが、フリージアを害する存在でなければいいのだ。
神様の怒りが鎮まるまで、フリージアはかわらず、リナリアのことを好きでいればいい。
願わくは、呪いが解けたそのあとも。
「貴女もとても優しい子ですね。リナリアと同じです」
神仕えがフリージアの頭に手を乗せ、優しく撫でる。
フリージアはぐっと堪えようとしていたが、また涙が滲んだ。
リナリアと同じだと言ってもらえるのも、フリージアにとっては嬉しいことだった。
この時は神仕えも、フリージアも知らなかった。
呪いの噂がねじまがり、広がっていることに。
リナリアの声が出なくって三日が過ぎていた。
彼女は教会に行かず、母の側にいる。
言葉が話せないということは、いざというとき、何も伝えられないということ。
母に何かあったら、どうしよう……リナリアはしきりにそればかり考えていた。
「リナリアったら。私は大丈夫なのよ? 貴女のほうが大変なのに……」
母が謝るので、リナリアは首を振った。
しばらくカーネリアンと会っていない。
こんなに長いのは、カーネリアンが旅行に行って以来だ。
また暗い思考がリナリアをのみ込む。
もし、カーネリアンがフリージアのことを好きだとしたら、今のリナリアを見てどう思うのか。
好きな子をいじめた、と怒るのか。
いい気味だ、と嘲るのか。
(カーネリアンがそんなこと、するわけないけど……)
明日は教会へ行こう。
そう心に決めて、リナリアは音の出ない吐息を出した。
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