銀杖と騎士

三島 至

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【第一章】一度目のアレイル

不仲

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 先に訓練場に到着していたフィリアンティスカを見つけた時、アレイルは緩みそうになる表情を引き締めるのに必死だった。

 口元により一層力を込めて、何とか騎士隊副隊長の顔を保つ。ヴァレル・エンフィスでいる時は、顔を隠していたとはいえ、毎日思うままに好きな気持ちを言葉にしていたから、今でもフィリアンティスカの顔を見ると、つい口が開きそうになってしまう。
 それに加えて、今日の彼女はいつにも増して愛らしかった。一応人前だからと、アレイルは婚約者の事を「殿下」と呼んだのだが、フィリアンティスカといえば、その鈴のような声で、「レイ」と呼び掛けてきたのだ。
 呼ばれた瞬間愛しさが溢れて、どうにもならなかった。ましてや、愛称で呼んでくれないの? (意訳)とまで言われては、自分も呼ばない訳にはいかないだろう。
 そもそも、お互いの呼び方はアレイルから提案した事であるし、否は無かった。フィリアンティスカが約束を守ろうとしてくれている事にも、喜ばずにはいられない。

 婚約者を前にすると、頭が緩くなってしまう自覚はある。
 アレイルは王女の事が愛しくて堪らなかった。
 この可愛い人と結婚出来るという奇跡に、改めて己の幸せを噛み締めていた。

 そうこう浮かれていたら、いつかの早朝訓練のように、アレイルの剣は手から弾き飛ばされていた。

(まずい、気を抜き過ぎた)

 さすがにこれには、自分でも呆れる。
 気落ちしたフィリアンティスカを見かねて、自ら試合を望んだというのに、無様な所を見せてしまった。
 開始直前は、確かに気合を入れていたのだ。だが、先ほどの幸福感をうっかり反芻してしまい、気が緩んでしまった。

(姫様が見ているのに、情けない……)

 軽い自己嫌悪に陥っていたアレイルだが、試合が終わった直後、周囲からは感嘆の声が上がった。
 剣を拾っていると、「凄い迫力だったな……」「さすがは副隊長だ」「剣の打ち合いが速過ぎて目で追えなかった」……という騎士達の声が耳に入ってくる。
 浮かれ過ぎて、あっさり剣を落とした自分を称えられる事は、かえって気まずかった。
 ダグラスを見上げると、彼は「お前らしくないな」と苦笑して、さり気なくフィリアンティスカへ視線を流した。全てお見通しのようだった。

「申し訳ありません」
「今は別にいいさ。いいところを譲ってやれなくて悪かったな」
「いいえ、それは……私の実力不足ですから」
「いつものお前なら、一本取られていたかもしれん」

 ダグラスにも気をつかわれて、余計気分が沈んでしまう。
 勝てるとまでは言わなくても、せめてもう少し粘りたかった。この試合が、王女の気に召したとは思えない。
 フィリアンティスカと顔を合わせ辛いと思ったのは、初めてだった。
 それでも一試合終えたのだから、何か言わなければと、アレイルは剣を収めて、フィリアンティスカの元へ歩み寄る。
 だが王女に辿り着く直前、アレイルとフィリアンティスカとの間に小柄な影が立ち塞がった。
 行く手を阻んだのは、自分と同じ翡翠の瞳を持つ、妹のリシェアーナだ。
 彼女は興奮気味に、言葉を挟んでくる。

「お兄様、とてもお強いのですね! 私、初めて見ました!」

 リシェアーナは、曇りの無い笑顔をアレイルに向けていた。両手を合わせて、瞳を輝かせた彼女は、高揚からか、頬を染めている。
 妹に褒められるのは、純粋に嬉しかった。しかし……

「殿下の前だ、控えろ」

 さすがに、王女の前に立つのはいただけない。
 横で給仕するか、後ろで控えるのが彼女の仕事だ。

 アレイルが注意した途端、リシェアーナは一気に青ざめた。
 まるでこの世の終わりのような表情だった。指摘されて初めて失敗に気が付いたのだろう。
 彼女はさっと王女の前から避けると、即座に頭を下げた。但し、アレイルに対して。

「申し訳ありません……お兄様……」
「謝るのは俺に対してじゃない」

 思わず言うと、リシェアーナは瞳に涙の膜を張らせた。
 アレイルは内心慌てる。そこまできつく言ったつもりは無かったが、リシェアーナは今にも泣きそうだった。
 言い過ぎたかと、アレイルは謝ろうとしたが、その前にリシェアーナは勢いよく王女に向き直って、兄から顔を背けた。

「…………し、失礼いたしました、フィリアンティスカ様」

 リシェアーナは小刻みに震えながら、王女に謝罪する。
 その声からは、詫びているというよりは、屈辱に震えているような印象が窺えた。
 嫌々言わされているような感じだ。

「構わないわ」

 フィリアンティスカはあっさりと許した。こちらは余裕そうである。
 彼女はどこか機嫌が良さそうだった。侍女を見る目が、随分と柔らかい。仲の良い妹を見るような眼差しだ。
 実際、アレイルとフィリアンティスカが結婚したら、リシェアーナは義妹になるので、間違いでは無いのだが。
 少なくとも、リシェアーナに悪感情を抱いているようには見えなかった。
 ……ヴァレルに対する時とは大違いである。

 一方、許しを得て顔を上げたリシェアーナは、憮然とした表情を隠せていなかった。
 二人のやり取りを見ていて、アレイルは気付く。

(あれ……もしかして二人、仲悪い?)

 正確には、リシェアーナが一方的にフィリアンティスカを嫌っているような印象であった。
 アレイルは、リシェアーナが王女の侍女になった詳しい経緯すら知らないので、二人の仲についても、今初めて認識した。

 身内贔屓を抜きにしても、リシェアーナはよく出来た妹である。
 見目良し、性格良し、普段は礼儀正しい淑女だが……今日は少し、暴走気味に見えた。
 普段は大人しいリシェアーナが、「この人が嫌いだ」と顔に出すのは珍しい。
 フィリアンティスカとの間に、何かあったのだろうかと気にかかる。

 不敬で罰せられそうなものだが、逆にフィリアンティスカは、リシェアーナの未熟さ故の態度を楽しんでいるようだった。
 好きな人の思考回路は良く分からないが、彼女の寛容さに、アレイルはひとまず感謝した。

 フィリアンティスカが楽しそうなら、それはそれで嬉しいのだが、いかんせん身内の態度は正さなくてはならない。

 思考が一巡りして、アレイルはようやく王女に声を掛ける。

「フィスカ。退屈ではありませんでしたか」
「どうして」
「……負けてしまいましたので」

 言ってから、自意識過剰な発言をしてしまっただろうかと思う。
 これでは、勝って欲しいと期待されていたと、自惚れているかのようだ。王女はアレイルが勝とうが負けようが、どうでも良かったかもしれないのに。

「相手は隊長だもの。簡単には勝てないでしょう。十分見ごたえがあったと思うけれど」
「……お気に召したのなら、良かったです」
「リシェアーナも言っていたけれど、レイは強かったと思うわ」

 アレイルは王女との会話継続記録を続々と更新している事に、長年の片想いが報われるような心地を味わっていた。
 フィリアンティスカが当然のように織り交ぜる「レイ」という呼び名を聞くと、試合に負けた事実など些事に思えるから、とことん恋とは人を腑抜けにするな、と思う。

 その腑抜けの横では、リシェアーナの目つきが段々険しくなっていった。
 ひしひしと伝わる強い視線に気付かぬはずも無く、アレイルは不機嫌な妹を窘めるつもりで、小さな溜息とともに、困り顔を作って見せた。

「……リシェアーナ」

 アレイルの短い注意に、リシェアーナは怯えたように肩を揺らす。どうにも反応が過剰だ。
 近頃、妹との距離感が難しい。昔はもっと無邪気に懐いてくれたものだが、最近の彼女は、兄の顔色を窺ってばかりである。

(……俺ってそんなに怖いかな?)

 やや気まずい雰囲気の中、アレイルは今もどんどん溜まっている、仕事の事を思い出した。
 本来ならば、騎士塔でダグラスへの報告を済ませた後、すぐに騎士の仕事を片付けて、今度は魔術師塔へ行くはずだったのだ。副団長のマキアス始め、ディアン・アロンストにも、今回の会議で決まった内容を知らせなくてはならない。

 アレイルでいる時間と、ヴァレルでいる時間は、どちらも短く、交互でせわしなく動いている。フィリアンティスカに釣られて来てしまったが、実はあまり長居している場合では無かった。もたもたしていると、魔術師団の方の仕事を徹夜で行う事になってしまう。
 しかし、このままリシェアーナと別れるのも気がかりだったので、アレイルは小声で、リシェアーナに告げた。

「リーシェ。久しぶりに、今度ゆっくり話そう」

 昔よく使った幼い呼び名で、自分は怒っていないと、言外に伝える。
 リシェアーナが勢い良く顔を上げた。

「お兄さ……」
「フィスカ、私はもう戻らなければなりません。短い時間でしたが、会えて良かった」

 リシェアーナが何か言いかけていたが、声が重なって、彼女の言葉を遮ってしまう。アレイルはとにかく急いでいたので、すぐに暇を告げた。

「もう行くの?」

 来たばかりじゃない、と言いたげな王女に、アレイルも同感だった。

(俺ももっと姫様と一緒に居たいんだけど、現実問題、仕事が……)

 アレイルは苦渋の思いを悟らせる事なく「はい」とだけ答えると、ダグラスにも事務仕事に戻る旨を伝えて、頭を下げた。

「手合わせしていただき、有難うございました。私は戻って仕事を片付けてきます」
「ああ。忙しいのに、わざわざ悪かったな」

 ダグラスは部下に返事をした直後、「余計な事を言ってしまったか」というような顔をして、王女の顔色を窺っていた。だがフィリアンティスカがダグラスの発言を気にした様子は無い。

「それでは、私はこれで失礼します」

 アレイルはもう一度別れを告げると、足早に、騎士塔へ続く廊下へと向かって行った。





 ※

 石で作られた、長い階段を駆け上がる。
 物凄い速さで、しかし颯爽と通りすぎる副隊長の姿を捉えた騎士達は、その珍しい様子に目を剥いた。

 ほんの少し前に、ダグラスと共に階段を降りていったアレイルが、今度は一人で騎士塔を上がっていく。それだけで彼の多忙さは見て取れた。
 いつになく急いだ様子のアレイルに、誰も声を掛ける事は無く、彼は騎士隊副隊長室に辿り着いた。

 アレイルは続きになった自室に足を踏み入れると、真っ先に棚に手を伸ばす。しまわれた魔術書を取り出して、中からぞんざいにローブを引っ張り出しながら、爪先は既に地面を叩いていた。
 風が巻き起こり、光と共に消える最中、フードを目深に被って、騎士の制服もきちんと隠す。
 次に視界が開けた時、そこはもう魔術師塔の廊下だった。

「ただいま皆の衆~! 会議でお疲れの団長だよ~」

 バン! と音を立てながら、魔術師塔の執務室の扉を開ける。
 室内には、今朝と変わらぬ団員達が詰めており、各々がヴァレルを振り返った。
 ちょうどヴァレルの目の前に立っていたディアンが、「おや、遅かったですね、団長。会議が長引いたんですか?」とのんびり返してくる。

「あっ、ディアン。またしても、ちょうどいいタイミングで来たね~」

 彼に用事があったのだ。「探す手間が省けて助かる」と、ヴァレルはディアンの腕を掴んで、逃がさないようにした。
 隣国ロッドエリアからの使者の応対を、ディアンに任せるつもりだと伝えるためである。
 ディアンは、面倒事の予感がしたらしく、「えっ……嫌だな……何ですか?」と顔を引きつらせている。

「マキアス君にも伝えとかないと。マキアスく~ん、出ておいで~」

 部下を引っ張りながら、マキアスが頻繁に篭りきりになっている、資料部屋に近づいていくと、中から不服そうな声が聞こえてきた。

「……団長、僕を犬か何かだと思っていませんか」

 むすっと顔をしかめて、資料の束を抱えたマキアスが、内側から扉を開けた。

「マキアス君の事は、腹心の部下だと思っているよ~」

「普通、腹心の部下に向かって『出ておいで~』なんて間抜けな声かけませんよ」

「まあまあ、いいじゃない細かい事は」

 いつもの調子のヴァレルに、マキアスは「はあ……」と声とともに大きな溜息を吐く。
 ヴァレルは軽口を叩きながらも、さり気なくマキアスの表情を窺った。
 今朝の彼は、少しだけ様子がおかしかったから、何か変化は無いかと、気になったのだ。
 フードで隠した目でじっと見詰めたが、特に変わった所は見られない。
 やはり、自分の気のせいだろうか。朝は偶然、彼の調子が悪かったのかもしれない、と結論づけて、ヴァレルは本題に入った。

「今回の議題は、以前にもちょっと触れた、ロッドエリアからの使者の件が、主だったんだけど――」

 途中で流れてしまったが、騎士隊の魔物討伐の件も、もれなく伝える。
 話しながら、椅子を三つ、床に引き摺り持ってきて、その一つに腰掛けると、手振りで、ディアンとマキアスにも座るよう勧めた。
 二人はヴァレルの報告に耳を傾けつつ、無言で席についた。

 聞かされた魔物討伐の現状と、進展の無い会議の内容に、ディアンは難しそうな顔をして、マキアスはより一層、不機嫌そうに目を細めた。

「――それで接待役に、魔術師団からは、ディアンに出てもらおうかと」

「……団長が多忙なのはよく存じていますけど、団長が無理なら、普通は副団長が適任なんじゃないですか? いや、別に面倒だなあとか思っていませんけどね」

 顔に「面倒くさい」と貼り付けたディアンが、横目でマキアスを見る。
 ディアンも本気で断りたい訳では無いだろうが、彼なりに、歳若い副団長の顔を立てようと、気をつかっているらしかった。

「そうしたいのは、やまやまなんだけどね。団長の俺も極秘任務があってさ。当日不在になっちゃうし、副団長のマキアス君くらいは魔術師塔に残しておいた方が良いかと思って」

「はあ……別に、僕は構いませんけど。アロンストさん、団長の代わりにお願いします。……というか団長、極秘任務なら言っちゃ駄目なんじゃないですか?」

 マキアスはディアンの心配りに気付いた上で、さして気にしていない、という素振りを見せた。

「まあ仕方ないか……ところで、騎士隊からは誰が来るんです?」

 諦めて役割を引き受けたディアンが、途中だった話を再開させるよう促す。

「騎士隊の副隊長だよ。アレイル・クラヴィスト」

「えっ」

 ヴァレルの軽い返事に、マキアスは何故か酷く驚いて、裏返った声を上げた。

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