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僕と彼女と夏のおわり/Bルート
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雲ひとつない夜空に打ち上げられた花火の下で、僕と彼女は初めて手を繋いだ。
指先から伝わる体温は温かく、柔らかい。勇気をだして僕から繋ごうと思ったのに、彼女の方から手が伸びてくるなんて。
僕はといえば、緊張しすぎて彼女の顔すら見れなくて、空を見上げるばかりだった。
このまま気持ちを伝えてみようか。こんなチャンス、二度とない。
いつの間にか積もりに積もったこの想いを彼女に伝えたい。自分勝手だとわかっていても、閉じ込めておくには大きくなりすぎた。
息を吸って、息を吐く。
それだけのこと。簡単だ。
まわりは煩いはずなのに、僕の心臓の方が煩いみたい。ドキドキ、してる。何度も繰り返される三文字がでてこない。
ちらりと見た横顔はたしかに綺麗だった。彼女の頬を赤く染めてみたい。照れるという感情が、僕に向けられる瞬間が。
「………………すきだ」
彼女が、僕を見る。閉じていた唇が開き、風で髪が靡くそれさえも。
――綺麗だ。
◆Bルート
彼女の頬が赤く染まる。本当にしっかり聞こえたのかと不安になった僕は、もう一度口を開いた。
「き、聞こえた?」
「………………う、うん。聞こえた」
ごめんでもいい。何か言ってほしかった。
だけど彼女はあろうことか、僕ではなく花火に視線を向けている。
なんだ、振ってすらくれないのか。
仕方なく僕も花火を見た。振る価値もないのならこの手を離せばいいのに。
変に期待するからやめてくれ。
そう感じても振り解けない僕は弱虫だ。
花火はあっという間におわり、人混みが一斉に動きだす。ようやく唇を開いた彼女は、小さな声でぽつり、帰ろっかと言った。
なんとなく彼女を送る流れで駅に着くと、そのまま改札を通り電車を待つ。時間をずらしたからか思ったほど人はいない。僕達を繋ぐ手はまだそのままだ。
黄色い線にほんの少し爪先を乗せるように立ったまま、数秒間沈黙する。
「私も、すきだよ」
「…………………………え?」
僕は彼女の方に顔を向けた。もう完全におわったと思っていた恋心にまた光が灯る。
まだすきでいていいんだ。
僕は嬉しくなってつい、早口になる。
「あ、ぼ、僕もすき。また来年もきみと花火を見たい」
彼女は僕に優しく微笑みかけると、再び前を向いてしまう。ホームに電車が通過する直前、前方に腕が引っ張られるような気がして、そして。
「あれ?」
彼女は忽然と姿を消した。
いったい何があったのだろうか。ついさっきまで隣にいたはずの彼女がどこにも見当たらないと焦った僕は、線路の下や向こう側を懸命に視線で探した。
だが、いないのだ。どこにもいない。消えてしまった、僕の愛しい人。
それはもうパニックになった。もしかして電車に轢かれたりしてないだろうか。誰かに誘拐されたりしてないだろうか。もしかして、彼女の存在すらも幻だったんじゃ。
色々と、思考を巡らせた。
でも、だけど、そんなわけがない。
僕は正常だし、人は急に消えたりしない。そうだよそうなんだ。だから僕は正しいよ。おかしくなんてない異常じゃない大丈夫だ僕は絶対に。それにこれが夢だった、なんてはずもないし、仮に夢だったとしても目が覚めれば彼女はいる。だから怖がる必要もなければ取り乱す必要もない。そうだろう?
「とりあえず、帰ろう」
怪しい男がいると通報される前に。
「だ、大丈夫。明日になれば、彼女だって」
ようやく家に着いた僕は、彼女の手の柔らかさを思いだす。僕がすきだと伝えたら彼女もそれに答えてくれた。
やっと、やっと言えたのに。
僕は着替えもせずにベットに仰向けになると、そのまま深い眠りについた。
◇
頭が痛い。昨日はどうしたんだっけ。
たしか彼女に告白して、彼女もそれに答えてくれて。それで、ええと、なんだっけ。
ぼんやりとした意識の中、重い腰を上げ、コップ一杯の水を飲む。
ああ、喉が渇いた。
僕はもう一杯水を飲もうと蛇口を捻る。すると、誰かがインターフォンを勝手に押した。
「………………はい」
玄関のドアを開けるとそこには宅配のお兄さんが立っていて、僕宛ての荷物が届いていると教えてくれた。何かを注文した覚えなどないのだが、決められた箇所に印鑑を押してお兄さんとさよならをする。
大きくてずっしりとしたダンボールがひとつ。まるで人間でも収納されているような。
僕はそれを開封すると、心臓がどくんと高鳴った。
「あ、ああ………………ここにいたのか、きみ」
それはもう大切に抱きかかえた。これ以上崩れないように。
「まったく、いままでどこに行ってたんだ? 心配しただろう」
綺麗な髪を撫でながら僕は彼女に語りかける。
昨日の出来事は夢ではなかったんだと安堵しながら。
「ああいいんだ、怒ってなんかないさ。こうしてまた僕に会いにきてくれたんだ。これからはずっと、ここにいてくれるんだろう?」
彼女と話しているととても心が穏やかになり、いまならすべてを許してしまいそうになる。僕の昨日の行いも、彼女ならきっと許してくれる。
僕は彼女の唇にそっと口付けをした。
柔くて甘い、僕の果実。
疲れて眠りこけているのか閉じたままの目蓋にもキスをすると、ダンボールごとベットまで運んでいく。
「ほら、そんなところで寝てないでこっちへおいで。一緒に眠ろう」
きもちを伝えてよかった。心からそう思う。
錠剤を適当に口に放り込むと、僕は満面の笑みで仰向けになり、目を閉じた。
指先から伝わる体温は温かく、柔らかい。勇気をだして僕から繋ごうと思ったのに、彼女の方から手が伸びてくるなんて。
僕はといえば、緊張しすぎて彼女の顔すら見れなくて、空を見上げるばかりだった。
このまま気持ちを伝えてみようか。こんなチャンス、二度とない。
いつの間にか積もりに積もったこの想いを彼女に伝えたい。自分勝手だとわかっていても、閉じ込めておくには大きくなりすぎた。
息を吸って、息を吐く。
それだけのこと。簡単だ。
まわりは煩いはずなのに、僕の心臓の方が煩いみたい。ドキドキ、してる。何度も繰り返される三文字がでてこない。
ちらりと見た横顔はたしかに綺麗だった。彼女の頬を赤く染めてみたい。照れるという感情が、僕に向けられる瞬間が。
「………………すきだ」
彼女が、僕を見る。閉じていた唇が開き、風で髪が靡くそれさえも。
――綺麗だ。
◆Bルート
彼女の頬が赤く染まる。本当にしっかり聞こえたのかと不安になった僕は、もう一度口を開いた。
「き、聞こえた?」
「………………う、うん。聞こえた」
ごめんでもいい。何か言ってほしかった。
だけど彼女はあろうことか、僕ではなく花火に視線を向けている。
なんだ、振ってすらくれないのか。
仕方なく僕も花火を見た。振る価値もないのならこの手を離せばいいのに。
変に期待するからやめてくれ。
そう感じても振り解けない僕は弱虫だ。
花火はあっという間におわり、人混みが一斉に動きだす。ようやく唇を開いた彼女は、小さな声でぽつり、帰ろっかと言った。
なんとなく彼女を送る流れで駅に着くと、そのまま改札を通り電車を待つ。時間をずらしたからか思ったほど人はいない。僕達を繋ぐ手はまだそのままだ。
黄色い線にほんの少し爪先を乗せるように立ったまま、数秒間沈黙する。
「私も、すきだよ」
「…………………………え?」
僕は彼女の方に顔を向けた。もう完全におわったと思っていた恋心にまた光が灯る。
まだすきでいていいんだ。
僕は嬉しくなってつい、早口になる。
「あ、ぼ、僕もすき。また来年もきみと花火を見たい」
彼女は僕に優しく微笑みかけると、再び前を向いてしまう。ホームに電車が通過する直前、前方に腕が引っ張られるような気がして、そして。
「あれ?」
彼女は忽然と姿を消した。
いったい何があったのだろうか。ついさっきまで隣にいたはずの彼女がどこにも見当たらないと焦った僕は、線路の下や向こう側を懸命に視線で探した。
だが、いないのだ。どこにもいない。消えてしまった、僕の愛しい人。
それはもうパニックになった。もしかして電車に轢かれたりしてないだろうか。誰かに誘拐されたりしてないだろうか。もしかして、彼女の存在すらも幻だったんじゃ。
色々と、思考を巡らせた。
でも、だけど、そんなわけがない。
僕は正常だし、人は急に消えたりしない。そうだよそうなんだ。だから僕は正しいよ。おかしくなんてない異常じゃない大丈夫だ僕は絶対に。それにこれが夢だった、なんてはずもないし、仮に夢だったとしても目が覚めれば彼女はいる。だから怖がる必要もなければ取り乱す必要もない。そうだろう?
「とりあえず、帰ろう」
怪しい男がいると通報される前に。
「だ、大丈夫。明日になれば、彼女だって」
ようやく家に着いた僕は、彼女の手の柔らかさを思いだす。僕がすきだと伝えたら彼女もそれに答えてくれた。
やっと、やっと言えたのに。
僕は着替えもせずにベットに仰向けになると、そのまま深い眠りについた。
◇
頭が痛い。昨日はどうしたんだっけ。
たしか彼女に告白して、彼女もそれに答えてくれて。それで、ええと、なんだっけ。
ぼんやりとした意識の中、重い腰を上げ、コップ一杯の水を飲む。
ああ、喉が渇いた。
僕はもう一杯水を飲もうと蛇口を捻る。すると、誰かがインターフォンを勝手に押した。
「………………はい」
玄関のドアを開けるとそこには宅配のお兄さんが立っていて、僕宛ての荷物が届いていると教えてくれた。何かを注文した覚えなどないのだが、決められた箇所に印鑑を押してお兄さんとさよならをする。
大きくてずっしりとしたダンボールがひとつ。まるで人間でも収納されているような。
僕はそれを開封すると、心臓がどくんと高鳴った。
「あ、ああ………………ここにいたのか、きみ」
それはもう大切に抱きかかえた。これ以上崩れないように。
「まったく、いままでどこに行ってたんだ? 心配しただろう」
綺麗な髪を撫でながら僕は彼女に語りかける。
昨日の出来事は夢ではなかったんだと安堵しながら。
「ああいいんだ、怒ってなんかないさ。こうしてまた僕に会いにきてくれたんだ。これからはずっと、ここにいてくれるんだろう?」
彼女と話しているととても心が穏やかになり、いまならすべてを許してしまいそうになる。僕の昨日の行いも、彼女ならきっと許してくれる。
僕は彼女の唇にそっと口付けをした。
柔くて甘い、僕の果実。
疲れて眠りこけているのか閉じたままの目蓋にもキスをすると、ダンボールごとベットまで運んでいく。
「ほら、そんなところで寝てないでこっちへおいで。一緒に眠ろう」
きもちを伝えてよかった。心からそう思う。
錠剤を適当に口に放り込むと、僕は満面の笑みで仰向けになり、目を閉じた。
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