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真鶴瑠衣

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侵食

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ぐちゃぐちゃ、ぐちゃぐちゃ、音を出して溢れていく。私のこうしたいという欲望を、苺くんが叶えてくれる。
私と苺くんの関係ってなんだろう。
私の欲望を叶えるものと叶えてもらうもの?
それともセフレ?
苺くんは瑛麻のなのに、最後までしようとしてる。
瑛麻が知ったら悲しむね。今度こそきらわれちゃうかもね。

「………………ぅあ………………っ」

苺くんの、大きくて、全然入らない。
ていうかむり。むりむりむりむりむり。裂ける。股が裂ける。私、初めてなのに、股を開く相手を間違えた?

「い、ちご、く……っ、いた」
『力を抜いてください。あまり力むとゴムが破けますよ』
「ひう……っ、そ、それは困るう!」

狭い個室で苺くんにぎゅっとしがみつきながら、必死に呼吸をするだけの時間。ここはあくまで学校の女子トイレであり、ある日突然アプリの世界から飛びだしてきた美少年と性行為を行う場所ではない。

『言っておきますけど、貴女の愛して病まない伊織はこのくらいの大きさです。だけど貴女はこれで満足しなかった。つまり伊織のでは満足できないということです』

床に落ちているディルドを踏みながら、苺くんは伊織を罵倒する。

『もしもこれできもちよくなってしまったら、もう伊織とのえっちできもちよくなんてなれないですよ。いいんですか?』

呼吸をするので精一杯の私は、苺くんの問いに答えられない。

『ああもう仕方がないですね。まだ半分も入っていませんけど動きますよ?』

きつく蓋をされた穴が空気を吸うと、再び穴が塞がれる。
繰り返し、繰り返し、ひたすらに同じ動作をしているだけなのに、私の身体は酷く震えだす。

「ひゃあああっ」
『煩いなぁ……ほら、さっきよりも入っていく。凄い勢いで濡れていってるのがわかりますか?』

いやというほどわかった。
痛かったはずの苺くんのそれが、どんどん身体に馴染んでいく。
それが全部入る頃には、私の中はぬるぬるで、ぐちゃぐちゃになっていた。

「あんっ、ああっ、ああァ~~~♡♡♡♡」
『まったく、声を抑えなさいと、言っているのに』
「はぁぁん♡♡♡♡」
『出しますよ、………………んっ』
「ああ~~~~んんんんんッ♡♡♡♡」

どうしよう、どうしよう。
苺くんの上で、苺くんに抱きつきながら、苺くんがいっちゃった。
ねえどうしよう♡♡♡♡♡♡♡♡
どうしたらいいの、私♡♡♡♡♡♡♡♡
苺くん苺くん苺くうん♡♡♡♡♡♡♡♡

『またね、瑞穂』




身体中が痛かった。そりゃそうだ。あんなに激しいことをしておいて、どこも痛くならないはずがない。今になって思い返してみれば、かなり大きな声で喘いでいた気がする。誰にもばれてないといいのだが。
一時間目をサボってしまった。今までサボったことなんてなかったのに。
いや、だからだろう。誰も私を責める人などいなかった。クラスの人も先生も、皆私を心配していた。
寝坊したとかサボったとか、そういうマイナスな理由は一ミリも出てこなかった。それは私の日頃の行いがいいからだ。
ああなんて退屈でつまらない人達なの。誰も私を咎めないなんて。
何をしてるんだ、早く席に着け!
そんなふうに怒ってほしかった。
おおよくきたな、大丈夫か? 先生、心配したんだぞ。具合が悪いならむりしなくていいからな。
じゃなくてさ。
鞄を机の横にかけると、私は苺くんとの情事を思いだしていた。
苺くんのそれはディルドよりも大きくて、きもちがいい。やっぱりやるなら猫より生身の男の子でしょう。
大丈夫、これは浮気じゃない。黙っていればわからない。伊織は優しいから何も言ってこないよ。世の中には知らなくていいことが沢山あるんだから。

「瑛麻、ご飯食べよー」
「……あ。ごめんあたし、ちょっと食欲なくて」

お昼休みになり瑛麻に声をかけると、瑛麻の顔色が悪いことに気が付いた。
風邪だろうか。

「そういえば今日、樹くんは?」
「えっ……な、なんで?」
「なんでって。いつも一緒にいるじゃん。もしかして樹くんも体調悪いの?」
「そ、そう……だね……うん。樹の風邪がうつったみたい」

なんだろう。瑛麻の様子がなんか変だ。そもそも風邪って、画面を通してうつったりするのかな。だとしたらかなりやばいと思うんだけど。

「病院に行った方がいいんじゃ」
「だ、大丈夫! 寝れば治るから!」

寝れば治る。そう言って笑った瑛麻の笑顔は私から見てもへたくそで、結局次の日瑛麻は学校にこなかった。
その次の日も、その次の日も。
流石に私も心配になって、瑛麻に連絡をした。だけど返事はこなくて、既読すら付かないまま。
瑛麻、大丈夫かな。家まで行ってみようかな。もしかしたら部屋で倒れているかもしれないし。
一度不安になると止まらなくて、考えなくていいことまで考えてしまう。
心配しすぎなんだと思う。わかっていても考えずにはいられない。




学校がおわると同時に私は瑛麻の家へと走った。何度か足がもつれて転びそうになりながらも、なんとか瑛麻の家の前に着いた。
インターフォンを押してみる。反応はない。
ドラマだとこういう時、なぜか玄関は開いていて、こっそり中に入ってみるとそこには……という展開が王道だ。
なので私は玄関が開いてないことを祈った。
祈ったがだめだった。つまり玄関は開いていた。開いていたら気になって入ってしまう。まさに〇キブリホイホイ。

「え、瑛麻ぁ? 入るよぉ?」

入るな。
そう頭の中で自分に自分でツッコミを入れながら、瑛麻の家へと足を踏み入れる。
瑛麻の部屋は玄関入ってすぐの階段を上ってすぐのところだ。本当に倒れてないといいのだが。
念のため、ドアをノックする。反応はない。寝ているだけならいいけど。

「瑛麻、入るよ?」

入るな。
そう頭の中で以下省略。そっとドアノブに手をかけると、ゆっくりと開けてみる。
窓際にぴたりと寄せたベットに瑛麻はいた。すやすやと寝息を立てて眠っているようだった。
だが、ベットを囲うようにしていたのは苺くんと樹くんだ。
私は酷く驚いた。
苺くんだけならまだしも樹くんまで出てきているなんて。
もしかしたら伊織も出てこれたりするのだろうか。

『あ、瑞穂』
「い、樹くん……」
『やっほう。瑛麻の様子を見にきたのー?』
「う、うん」

怖くて何も聞けずにいると、樹くんはいつもと変わらぬ笑顔で私に話しかけてくる。
対して苺くんはこちらに視線を向けると、にこりと王子様のような爽やかなスマイルを送ってきた。
どうやらこの異様な空間に冷や汗が止まらないのは私だけらしい。

『瑛麻ならぐっすり眠っているよー』
「か、風邪なの?」
『うーん。風邪だったらいいんだけどねえ』

意味深な言い方。風邪じゃないならなんだというのだ。もしかしてインフルエンザとか。

「か、風邪じゃ、ないの?」
『風邪ではないねえ』
「瑛麻は本当に大丈夫なの?」
『うふふ。瑞穂ってば、そんなに瑛麻のことが気になるの?』
「あ、当たり前でしょ。瑛麻は私の友達なんだから」
『優しいんだ。でもごめんね。多分もう、起きないよ』
「へ?」

多分もう、起きないよ?
もう起きないってどういう意味?

「お、起きないってどういう意味? 瑛麻は寝ているだけだよねえ? それとも何か、重い病気……っ」
『頭の中がお花畑なんだねえ、瑞穂はー。ま、想像も付かないか。しょうがない、しょうがない』
『樹、あまり焦らさずに教えてあげたらどうですか』

わからない、わからない。二人にはわかっているみたいだけど、私には何もわからないから、私にもわかるように粉々に噛み砕いて言ってほしい。いったい瑛麻はどうしたの?

『瑛麻はねえ、こう、頭の中が侵食されちゃったんだ』
『このアプリはとても危険なんです。ただでさえプレイヤーの脳が影響を受けるのに、瑛麻は私と樹、二人を選んでしまった』

アプリは危険?
瑛麻が二人を選んだから?

『苺だけで満足してればよかったのに、オレのことまでほしがってさ。二兎追うものは一兎も得ずって言うじゃん。ほんとそれ。ばかみたい』

今、瑛麻のこと、ばかって言った?
樹くんが?
嘘。

『貴女もじきにこうなりますよ。とはいえ、だいぶ脳がやられているみたいですけど』

私もこうなるの?
こうやって、瑛麻みたいに寝たきりになって、目が覚めなくなって。

『最初は眠気から。だんだん起きれなくなってきて、寝すぎて頭がぼんやりして、ある日急に起きなくなるの』
『私はちゃんと言いましたけどね。だから私を選ばなくてもいいと。それなのに瑛麻は、それでもいいからとどちらも手放そうとはしなかった』
「え……ま、まって。選ばなくてもいいってどういう意味? だって、一度選んだらアンインストールできないんでしょう? いくらこっちが手放したいと思ったって、できないんじゃないの?」
『誰がそんなこと言いましたか? 私達は所詮アプリです。お互いが繋がりを切ることを承諾すれば、簡単に繋がりは切れますよ』
「嘘。だって、私だって伊織から離れようとした。スマホを壊そうとしたり、スマホを変えたりして、それでも全然だめだったのに」

そうだよ、伊織は私から離れようとはしなかった。だから私は伊織が怖いと感じていたのに。

『……なるほど。つまり、伊織は承諾しなかったということですね』

伊織が私と離れることを許さなかったから?
そんなに執念深いなんて聞いてないよ。

『それとさあ、伊織は瑞穂が大好きだった猫の生まれ変わりじゃないからね?』
「え」
『あんなの、いいように言いくるめられただけっしよ。そう言っとけば瑞穂は離れていこうとしないと思ったから。結構オレ達も賢いんだよねえ』

私が伊織を選ばなければ。よりにもよって、伊織なんかを選んだ私がばかだった。
そんなようなことを言われたような気がする。
伊織は私の伊織じゃなかった。
そりゃそうだ。猫の生まれ変わりがアプリのキャラクターだなんて誰が信じるの。
とはいえ、アプリのキャラクターが現実世界に出てくるなんてこともありえない話なんだけど。

『あ、そうそう。オレがなんで起きてるかってね。安心してよ、今は瑛麻との接続切ってるから』
「……なんの話?」
『あれ、もしかして気付いてなかった? オレはね、瑛麻の感情と同期することができるんだ。だから瑛麻が笑えばオレも笑うし、瑛麻が泣けばオレも泣く。だけどこれは流石にねえ。オレも寝たきりにはなりたくないし』

薄情者。仮にも瑛麻のパートナーのくせに、自分は危うくなりたくないからって。

『あ、ちなみに私の固有能力は人の夢の中に入ることです』

にこにこと自慢げに手を上げて言う苺くんのことは放っておくとして、私はこの状況に絶望した。
どうしたら瑛麻への負担が軽くなる?
そんなの簡単だ。こうなった原因を取り除けばいい。こうなった原因。つまり樹くんと苺くんが消えればいい。
幸い、苺くんは消えてもいいと思っているみたいだし、負担は一人でも減った方がいいに決まっている。

「ねえ、苺くん」
『はい』
「さっき苺くんは、私を選ばなくていいって言ったよね」
『ええ、言いました』
「なら早く消えてよ」
『ちょっと瑞穂!』
「あんた達の所為で瑛麻がこうなってるんでしょう。なら、あんた達が消えればいい」




消えればいい。瑛麻を傷付けるやつは全部。本気でそう思ったんだ。

『……もう手遅れですよ。いまさら私達が消えたところで、瑛麻はもう目覚めない』
「そんなのやってみなきゃわからないじゃない!」

思わず叫んでいた。やってもいないのに決めつけるなんて許さない。私は強く唇を噛み締めると、苺くんを睨みつけた。

『やってみたんですよ』
「は?」
『ここにいる瑛麻は二週目の瑛麻です。一周目の瑛麻は私と繋がりを切ったあとも目を覚ますことなく朽ちました。むしろ、繋がりを切らない方がいいらしい。今、ここにいる瑛麻は、たしかに私達に毒されてこうなりましたが、私達がいるから生かされている』

ここにいる瑛麻は二週目の瑛麻?
朽ちましたってどういうこと?
まさか死んだってこと?
じゃあ、むりにでもこいつらを消そうものなら瑛麻も死んじゃうってこと?
わからないよそんなんじゃ。そんな言い分、私が納得できるはずがないでしょう。ばかじゃないの、ばかじゃないの。

『大丈夫だよ、瑞穂。オレ達はただ瑛麻の傍にいて、その小さな命が消えないように、定期的に生気を注いであげてるからね』
「生気を注ぐ?」
『うん。こんなふうに、清らかに眠っている瑛麻の唇にキスをして、舌を捩じ込ませて、股を開いて、濡れさせて、オレや苺の熱をたっぷり注いであげるんだ。そうすればまた命は繋がっていく。大丈夫、オレ達の精液で瑛麻が妊娠することはないし、病気になったりもしないよ』

それってつまり、寝ている瑛麻の身体を使って性行為をするってことだよね。それって犯罪なんじゃないの?
なんていうか、きもちわるい。
意識のない瑛麻を犯したところで、きもちいいのはあんた達だけじゃない。
そんなことで瑛麻の命が繋がっていくとか意味がわからないよ。
きもちわるいから触らないで。瑛麻を穢さないでよ。
樹くんは瑛麻の手をとると、手の甲に優しくキスをした。
それはあまりにも不快で汚く、歪な行為に思えた。

「……やめて……やめてよ……瑛麻に触らないで……」

大好きな瑛麻。私の親友。
それでもいいなんてどうして思えたの。

『樹、そろそろしてあげないと』
『んん、もうそんな時間?』

瑛麻の柔らかな太股に樹くんの手が伸びる。ぱっくりと足を開脚させると、頭を低くしてそこに沈めて。

「や、やめてって言ってるのに……っ」
『だけどもう何回もやってるし。瑛麻だってちゃんと濡れてるよ』

そういえば、枕の隣にティッシュ箱があるね。ベットの下に白いパンツが落ちてるね。それ、瑛麻のだよね。てことは履いてないんだ。いつでもできるように。

『ん……瑛麻ってば、もう濡れてきた』

瑛麻のを舐める音が艶めかしくて聞きたくない。それなのに視線がそこから外せなくて、この部屋から逃げることもできなくて。
私はなんて弱いんだろう。友達を助けることすらできないなんて。
濡れるからって、きもちいいわけじゃないんだよ。

『瑞穂さんも身体が疼きますか?』
「わ、私は別に」

苺くんがネクタイを緩めながらこちらへと向かってくる。
逃げなきゃ。頭ではわかっていても、足が一歩も動いてくれない。
このままじゃだめ。だめなのに。
金木犀の匂いがする。この匂いはだめ。私はこの匂いを嗅ぐと、頭がおかしくなる。

「……や……っ」

苺くんの手が私の頬に触れる。人ではないくらいに冷たい手。

『怖がらないでください。ちゃんと貴女のこともきもちよくしてあげますから』

そうじゃない。そんなこと、私は望んでない。
ちがうのに抗えない。この手を振りほどいて、その綺麗な顔をぶん殴ってやりたいと思っているのにそれができない。
ちらりと瑛麻の方に視線を向ければ、今にも瑛麻に入れようとする樹くんの姿が見えた。
いやだ、いやだ、瑛麻! 瑛麻!
恐怖で声が出なかった。声ではなくて涙が出た。

『余所見しないで、私を見て』

触れる唇。捩じ込まれる舌。軋むベット。喘ぐ樹くん。
いやなのに、そこばかり舐められれば濡れてしまう。そして苺くんのが私の中に。
一度許したそれは簡単に奥へと入っていく。入れて、出して、入れて、出して。繰り返す度に身体中がぞわぞわした。

「あっ、あああっ、ひう、……っ」
『ああもう、奥まで咥えこんでる。一度やっただけでこんなにゆるゆるになって……厭らしい人』

私は苺くんとやりにきたんじゃないのに。樹くんはもうおわったのか、枕の隣にあるティッシュで色々と拭いていた。
ああ……私の瑛麻が……汚れちゃった。
悲しくてまた、涙が出た。
必死に腰を振る苺くんの奥にいる瑛麻に手を伸ばしながら、私は自分の無力さに絶望した。
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