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「もう我慢できない!」
窓から差し込む日の光に目を眩ませながら、ロメオはセリムがいつものように入れてくれたコーヒーを飲んでいた。
口から鼻に抜ける焼けた豆の香ばしい香りが今日もまた充実した日々が送れることを予感させてくれる。すると、窓の向こうから大きな声とともに、ぼふっぼふっという少々間抜けたような音が聞こえてきた。
王都のきらびやかな街の窓ならともかく、こんな人里離れた森の中に立っている家の窓からでは曇っていて何が起こっているかよく見えない。
それでもセリムの黄金のような金髪が上下にぶんぶんと揺れているのがわかった。
いつもならば、セリムは朝起きてすぐに玄関横で干している薪を割ったのちに、薪割りの音で起きるロマンのために家の建っている小さな丘のすぐ下に流れる川から汲んできた水を沸かして目覚めのコーヒーを入れて、その後裏手にいる馬に干し草を上げているはずである。
(なにかあったのか?)
気になって裏手のドアを開けると、そこにはライオンのたてがみのように燃える金髪を揺らして、もともと白鳥の羽のように白い顔をさらに白く(というか青く)染め上げ、頬を熟れた赤リンゴのように紅潮させ、物語に出てくるようなエメラルドのようにキラキラとしたライトグリーンを瞳をぷるぷると濡らして、たった今森を2、3周走ってきたように肩を上下させたセリムの姿があった。
「どうした?馬のえさやりは終わったのか?」
なにやらそこら中に散乱している干し草を踏みしめながらこちらを見ながら何も言わず立ち尽くしているセリムに右手を伸ばす。
指の腹で真っ赤な頬をぐにぐにともてあそぶとまるで生まれたばかりの赤子のように熱い。そのまま金糸のような髪がかかった耳に指を向けると、打って変わって氷のように冷たくかじかんでいる。頬で伝わった熱を耳で溶かすように真珠のような耳たぶをくにくにつまんでから、ゆっくりと顔のラインをなぞっていく。
その指が顎の先に届くかどうかというところで、それまで顔を硬直させながらただただ透き通るような緑の瞳を湿らせるだけだったセリムがハッと我に返ったように顎を引くと、パシッとロメオの手を左手で払った。
「セリム、どうしたっていうんだ一体?」
セリムは物心ついたころに父がある日突然連れてきた少年で、初めて会った日からずっと一緒に生きてきた。3年前に父が王都に行くといったっきり帰ってこなくなってからというもの、身の回りのありとあらゆることを全部セリムがやっていてくれている。
ロメオは父から直接セリムを連れてきた理由を聞いたことはなかったが、物語に出てくる騎士には常に従者がつきものだったので、きっとロメオが近い将来騎士となるときのための従者として用意してくれたのだろう。実際セリムも父がいなくなってから今日までロメオが何も言わずとも身の回りのありとあらゆることをこなして、一度として愚痴をこぼすことも命令に逆らうこともなかった。
それがあたりまえだったのだ。今まで、ずっと。
そんなセリムが馬のえさの干し草をあたりに散乱させ、あまつさえ自分の手を払いのけた。そんなことがこの世にあっていいのだろうか。
セリムはぷっくりとした唇をきゅっとしめて、何事か小さくつぶやいてからライトグリーンの瞳をまっすぐロメオに向けた。
「……もう我慢できない。うんざりだ!」
そういい放ちセリムは足早に森へと走っていった。ロメオはただ茫然と立ちつつくしてセリムのきらきらと輝く黄金が日の届かない深い森の中に消えていくのをただひたすらに目で追うことしかできなかった。
窓から差し込む日の光に目を眩ませながら、ロメオはセリムがいつものように入れてくれたコーヒーを飲んでいた。
口から鼻に抜ける焼けた豆の香ばしい香りが今日もまた充実した日々が送れることを予感させてくれる。すると、窓の向こうから大きな声とともに、ぼふっぼふっという少々間抜けたような音が聞こえてきた。
王都のきらびやかな街の窓ならともかく、こんな人里離れた森の中に立っている家の窓からでは曇っていて何が起こっているかよく見えない。
それでもセリムの黄金のような金髪が上下にぶんぶんと揺れているのがわかった。
いつもならば、セリムは朝起きてすぐに玄関横で干している薪を割ったのちに、薪割りの音で起きるロマンのために家の建っている小さな丘のすぐ下に流れる川から汲んできた水を沸かして目覚めのコーヒーを入れて、その後裏手にいる馬に干し草を上げているはずである。
(なにかあったのか?)
気になって裏手のドアを開けると、そこにはライオンのたてがみのように燃える金髪を揺らして、もともと白鳥の羽のように白い顔をさらに白く(というか青く)染め上げ、頬を熟れた赤リンゴのように紅潮させ、物語に出てくるようなエメラルドのようにキラキラとしたライトグリーンを瞳をぷるぷると濡らして、たった今森を2、3周走ってきたように肩を上下させたセリムの姿があった。
「どうした?馬のえさやりは終わったのか?」
なにやらそこら中に散乱している干し草を踏みしめながらこちらを見ながら何も言わず立ち尽くしているセリムに右手を伸ばす。
指の腹で真っ赤な頬をぐにぐにともてあそぶとまるで生まれたばかりの赤子のように熱い。そのまま金糸のような髪がかかった耳に指を向けると、打って変わって氷のように冷たくかじかんでいる。頬で伝わった熱を耳で溶かすように真珠のような耳たぶをくにくにつまんでから、ゆっくりと顔のラインをなぞっていく。
その指が顎の先に届くかどうかというところで、それまで顔を硬直させながらただただ透き通るような緑の瞳を湿らせるだけだったセリムがハッと我に返ったように顎を引くと、パシッとロメオの手を左手で払った。
「セリム、どうしたっていうんだ一体?」
セリムは物心ついたころに父がある日突然連れてきた少年で、初めて会った日からずっと一緒に生きてきた。3年前に父が王都に行くといったっきり帰ってこなくなってからというもの、身の回りのありとあらゆることを全部セリムがやっていてくれている。
ロメオは父から直接セリムを連れてきた理由を聞いたことはなかったが、物語に出てくる騎士には常に従者がつきものだったので、きっとロメオが近い将来騎士となるときのための従者として用意してくれたのだろう。実際セリムも父がいなくなってから今日までロメオが何も言わずとも身の回りのありとあらゆることをこなして、一度として愚痴をこぼすことも命令に逆らうこともなかった。
それがあたりまえだったのだ。今まで、ずっと。
そんなセリムが馬のえさの干し草をあたりに散乱させ、あまつさえ自分の手を払いのけた。そんなことがこの世にあっていいのだろうか。
セリムはぷっくりとした唇をきゅっとしめて、何事か小さくつぶやいてからライトグリーンの瞳をまっすぐロメオに向けた。
「……もう我慢できない。うんざりだ!」
そういい放ちセリムは足早に森へと走っていった。ロメオはただ茫然と立ちつつくしてセリムのきらきらと輝く黄金が日の届かない深い森の中に消えていくのをただひたすらに目で追うことしかできなかった。
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