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その5 陶晴賢 大内義隆VS臥亀(がき)一族の信天翁(あほうどり)(一)
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その5(一)
「何で俺がーー!何もやってねえ!助けてくれーー」
屈強な男たちにひきずれられるように連行されていく男が喚いていた。
夕立が落ちてきて、雨の匂いが立ちこめる中・・・
男たちはみなびしょぬれになっていた。
「どうしたのでございましょうか」と卜伝。
「さて、わかりませぬが・・・・亡くなった義興様が刺客に襲撃されて以来
この平和な山口でも・・・とくに大内屋敷の近辺の警備は厳重を極めております」
興房が少し声を落として言った。
「刺客?いったいだれが・・・」卜伝は顔を曇らせた。
「あのような生き様をされた方ですから・・・怨んでいるものは数知れず・・・
検討もつきませぬ。ただ厄介なのは、これを請け負ったのが臥亀がき一族
であるということ・・・」
陶興房と塚原卜伝は屋敷に戻ると、庭に面した縁側にすわった。
夕立もあがり、頬をなでるように涼しい風が吹いてきた。
五郎が上半身裸になり、木刀を振り続けていたが・・・、
「あっ、気が付きませんでした。おかえりなさいませ」
と言い、そこを去ろうとしたが・・・
興房は、
「続けい!卜伝殿に見ていただこう」
「はっ!」と五郎は、嬉しそうに・・・また木刀を振り始めた。
再び興房は、臥亀一族についての話をつづけた。
その内容は・・・
臥亀一族とは、中国山地の山深いところに生息する謎の忍びの一団であったそうな。
特定の主君に仕えるというのではなく、金で仕事を請け負うというのが特徴であった。
誰の指図も受けずこの戦国の世を生き抜くことを矜持とし・・・
請負金は途方もなく高いが、
請け負った仕事は十に一つもしくじることはない。
また決して秘密を漏らすことはないという。
さらに彼らは天運というものを信奉しており、
三度襲撃しても相手が生き残った場合には、
「天が生きることを命じている」とし、二度と同じ相手を狙うことはなく
しかも、その場合・・・金をそっくり依頼主に返すので
刺客の依頼は絶えることはなかったそうである。
その臥鬼一族に生まれると・・・過酷な運命が待ち受けていた。
生まれた赤ん坊はすぐに性器の少し上の部分に、
「臥」の文字の焼き印を押された。
これに耐えられず、死亡する赤子も多数。
弱き者は臥鬼一族には必要ないということである。
また生まれて一定期間がたったところで・・・
棟梁おかしらが決めた日に、一晩野原に放置するということも行われた。
徘徊する狼や野犬などの獣に食われることもあった。
運のないものもいらないということである。
このようなことを伝えた後、
「義興様は二度の襲撃をすんでのところでかわし、天寿を全うして
畳の上でお亡くなり申した。・・・ただ、三度目の襲来が、
もしやして・・・義隆様にということで、このものものしさになって
いるのです」と言った。
「なるほど」と卜伝。
その時、家来の一人が庭先から興房の元にやってきて、
なにやら耳打ちをして去っていった。
興房が声を低くして
「先ほどの連行された男・・・尼子(大内氏と敵対する大名)の息のかかった
草(敵国に潜入した後、嫁などを娶ったりして、その土地に一般庶民として
馴染んで暮らしながら諜報活動などを行う忍びのこと)ではないかと・・・」
「うーむ」と難しい顔する卜伝。
五郎は躰から滝のような汗を流し、一心不乱に木刀を振り続けていた。
卜伝は、顔をあげて、その姿を見て・・・
「五郎殿、少し相手してしんぜよう」と言うと、
「は、はいっ!」と目をきらきら輝かせる五郎であった。
赤い夕空にカラスの鳴き声が広がっていた。
「何で俺がーー!何もやってねえ!助けてくれーー」
屈強な男たちにひきずれられるように連行されていく男が喚いていた。
夕立が落ちてきて、雨の匂いが立ちこめる中・・・
男たちはみなびしょぬれになっていた。
「どうしたのでございましょうか」と卜伝。
「さて、わかりませぬが・・・・亡くなった義興様が刺客に襲撃されて以来
この平和な山口でも・・・とくに大内屋敷の近辺の警備は厳重を極めております」
興房が少し声を落として言った。
「刺客?いったいだれが・・・」卜伝は顔を曇らせた。
「あのような生き様をされた方ですから・・・怨んでいるものは数知れず・・・
検討もつきませぬ。ただ厄介なのは、これを請け負ったのが臥亀がき一族
であるということ・・・」
陶興房と塚原卜伝は屋敷に戻ると、庭に面した縁側にすわった。
夕立もあがり、頬をなでるように涼しい風が吹いてきた。
五郎が上半身裸になり、木刀を振り続けていたが・・・、
「あっ、気が付きませんでした。おかえりなさいませ」
と言い、そこを去ろうとしたが・・・
興房は、
「続けい!卜伝殿に見ていただこう」
「はっ!」と五郎は、嬉しそうに・・・また木刀を振り始めた。
再び興房は、臥亀一族についての話をつづけた。
その内容は・・・
臥亀一族とは、中国山地の山深いところに生息する謎の忍びの一団であったそうな。
特定の主君に仕えるというのではなく、金で仕事を請け負うというのが特徴であった。
誰の指図も受けずこの戦国の世を生き抜くことを矜持とし・・・
請負金は途方もなく高いが、
請け負った仕事は十に一つもしくじることはない。
また決して秘密を漏らすことはないという。
さらに彼らは天運というものを信奉しており、
三度襲撃しても相手が生き残った場合には、
「天が生きることを命じている」とし、二度と同じ相手を狙うことはなく
しかも、その場合・・・金をそっくり依頼主に返すので
刺客の依頼は絶えることはなかったそうである。
その臥鬼一族に生まれると・・・過酷な運命が待ち受けていた。
生まれた赤ん坊はすぐに性器の少し上の部分に、
「臥」の文字の焼き印を押された。
これに耐えられず、死亡する赤子も多数。
弱き者は臥鬼一族には必要ないということである。
また生まれて一定期間がたったところで・・・
棟梁おかしらが決めた日に、一晩野原に放置するということも行われた。
徘徊する狼や野犬などの獣に食われることもあった。
運のないものもいらないということである。
このようなことを伝えた後、
「義興様は二度の襲撃をすんでのところでかわし、天寿を全うして
畳の上でお亡くなり申した。・・・ただ、三度目の襲来が、
もしやして・・・義隆様にということで、このものものしさになって
いるのです」と言った。
「なるほど」と卜伝。
その時、家来の一人が庭先から興房の元にやってきて、
なにやら耳打ちをして去っていった。
興房が声を低くして
「先ほどの連行された男・・・尼子(大内氏と敵対する大名)の息のかかった
草(敵国に潜入した後、嫁などを娶ったりして、その土地に一般庶民として
馴染んで暮らしながら諜報活動などを行う忍びのこと)ではないかと・・・」
「うーむ」と難しい顔する卜伝。
五郎は躰から滝のような汗を流し、一心不乱に木刀を振り続けていた。
卜伝は、顔をあげて、その姿を見て・・・
「五郎殿、少し相手してしんぜよう」と言うと、
「は、はいっ!」と目をきらきら輝かせる五郎であった。
赤い夕空にカラスの鳴き声が広がっていた。
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