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#5 最愛に気づく男
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しおりを挟む予想外のタイミングで嫌な話題になった。返す言葉が浮かばない。
「あの……浅野さんが退職されると聞きました。それは私がいるから居づらくなったのでしょうか?」
仕事を変えて過去を忘れようとした。もう一度同じことをしてもおかしくない。
「…………」
浅野さんは荒く息を吐くだけで答えてはくれなかった。この質問に答える気はないのだろう。
「すみません……休みたいですよね。部長には早退するって私から言っておきますから」
耐えられなくなって仮眠室を出ようとしたとき浅野さんの掠れた声がする。
「……今は動けそうにないから、少し寝たら帰る。悪いけど部長にそう伝えといて」
「分かりました……起こしに来た方がいいですか?」
「僕にそんな気を遣わないでよ」
荒い呼吸でもその言葉だけははっきり聞こえた。近づくな、関わるなと言われている気がした。
「君はもう仕事に戻るんだ」
「はい……」
私は立ち上がってドアノブに手をかけた。外に出る前に浅野さんを振り返ったけれど、一度も目を開けることなく引き止めようともしない。
「お疲れ様です」
そう言って外に出た。
今の浅野さんのそばに私がいたら体調を悪化させるだけなのかもしれない。
浅野さんは午後に早退した。
仮眠室で寝ていたからか髪を少し乱してフロアに戻ってくると、荷物を持ってフラフラと帰っていった。会社の近くまで優磨くんが迎えに来るのかもしれない。
あれ以来優磨くんとも連絡をしていないから浅野さんのことを聞きづらいし、今の状況も連絡しにくかった。
定時に退社して玄関ホールを歩いていたとき「足立さん!」と呼ばれて振り向くと、今江さんがホールを横切って私の元へ走ってきた。
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