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第2章
第24話
しおりを挟む俺はリビングの椅子から一歩も動かずに、アルゼオが準備するのを終わるのを待っている。風呂の用意も着替えやなんかも全部してくれる。騎士団から帰ってきたばかりでそんなことをさせているというのも気が引けるが、アルゼオが言うのだから甘えておく。
「アオハ、準備ができたぞ」
それが当然だというように抱っこされて連れていかれる。慣れたら案外便利なものだ。アルゼオが足というのも悪くないな。
「そういえば、お前はどこも痛くないのか」
「ああ、アオハのおかげで今回は一番楽だった」
「良かった。オルスタも心配していたぞ」
「では次に会ったときに礼を言わないとな」
服を脱がせながら、俺の痛々しいとでもいうか、赤く滲んだ無数の歯形を見て話している。
「そんなに深くないから思い詰めるな」
「アオハは知らないだろう。獣人の牙は鋭い」
知っている。話していても、ものを食べていても時折見える犬歯が尖っていることを。何より俺は噛まれているんだ。アルゼオが力加減したのかもしれないが。
「他のやつもあんな風になるのか?」
「……知らん」
「はぁ?」
そう言って答えてはくれなかった。それに心なしかふてくされたような声音でもあった。俺の体を洗い流す手つきもあまり優しくない。
「いた、痛いっ……」
「他の奴にあまり興味をもつな…」
「他のって……そんなに話してたか」
俺の背中を洗い流している最中なのに、長い尻尾が腕に巻き付いてきたり、アルゼオが肩に顔を埋めてきたり、その上すりすりまでしている。獅子が猫科だというのは知っているが、これでは本当にただの猫だ。
「わかった。こらからは気をつける」
「ん"るる……」
喉を鳴らして、それでいいと返事をされる。アルゼオの気分はよくわからないが、そのうちわかるようになればいいなとは思うようになった。
「アルゼオ、洗うのならしっかり洗ってくれ」
「そうだな」
さっきとは一変して陽気になっている。俺も人の手で綺麗になれるのはいい気分だ。
その後は一緒に湯に浸かって、逆上せそうになったところを上げてもらった。さすがに体は自分で拭くくらいはした。だけど着替えはアルゼオに任せた。万歳なんてして服を着たのは一体何年ぶりかと考えた。
こんな生活をするなんて誰が想像しただろうか。大きなベッドで大の男と並んで寝るのももう当たり前になった。ただ今日はアルゼオが後ろから俺を抱き締めて寝ているのはいつもと違った。
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