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第1章 

第6話

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「俺が聞きたいのはお前があの森にいた理由だ」
「ふん…」

 もちろん聞かれると思ってはいたが、いざ話すとなると変に緊張してしまう。

「俺は日本という国にいた。仕事を終えて家の鍵を開けたら俺の足下が光って、目を閉じたんだ。それで……次に目を開けた時には周りが木ばっかりで、あの場に落ちてきたというのが正しいのだろうな」
「なるほどな、経緯についてはわかった。実は、お前がこの世界に来たのには理由があるんだ。今はまだ話すことはできないんだが」

 先ほどまでの空気とは一変し、なんともいえない重たい空気に変わった。

「なんだ」
「先に聞いておこう。お前は、帰りたいと思うか?元の世界に」

 アルゼオと目が合う。俺から何を読み取ろうとしているのかわからない顔をしていた。

「そうだな、俺にはやらないといけないことがあるんだ。今すぐにでも会いたい人がいる。だが、その様子だとすぐには返してはくれないんだろう?だったらひとまず、ここで生きていくしかない」

 俺の答えを聞いて、奴がどう思ったかは知らない。俺がここに来たのは、俺を使いたいと考える奴らがいるからだろう。あれもこれも考える余裕がない今は、むしろ奴の言うことを聞いた方がいい。

「礼を言う。こちら側の事情が済むまでは、面倒をかけるかもしれないが……いや、きっとかけるだろう。だからこそ不便のないように努めよう。昨日も言ったように、いつ何を食べても構わないし、入浴も自由にしてくれて構わない。ただ、この家からはしばらく出してやれないが」
「俺を拾ってくれたことには感謝するがあくまで仕方なくだ」

 奴は申し訳ないと沈んだ顔をしていたが、俺もそこまで気にしている訳じゃない。確かに言ってみれば被害者かもしれないが、気を遣われ過ぎても俺が疲れる。

「じゃあ、次は俺が聞いてもいいか」
「答えられることならいくらでも」

 そうしてお互いに質問を投げ合い、話が終わるまで湯に浸かっていた。



 気になっていた冷蔵庫もどきについては、電気ではなかった。代わりに魔法を使っているらしい。中の温度を保つために中に魔方陣を設け、魔力を流し続ける仕組みのようだ。元の世界でいう家電製品のようなものは、ほとんどこの仕組みでできている。
 1日が24時間、7日で1週間という太陽暦もある。あとは、俺の黒髪について聞かれたり、奴が騎士団でどんな存在なのかも聞いた。

 風呂からあがると昨日の残りのカレーとちょっとしたサラダを食べた。昨晩は部屋に目を向ける余裕がなかったが、今木のスプーンを口元に運びながら、この家にはあまり生活感がないということに気づいた。これから俺はこの家で実質軟禁状態の生活をすることになる。日本にある俺の家とこの家は大して変わらないが、あまりにも不自然な感じがして落ち着かない。

 それから奴のことだが、体術や剣術だけでなく魔法も使えるとは。信じようと思っているわけではないが、この世界で生きていく上で奴を信用するにはまだ情報が足りない。
 それに、こいつは興味のあることにはしっかりと喋るが必要なこと以上は自分から話すことをしない。要するに無口だ。表情はわかりやすいが、感情にあわせて顔を動かすことをしない。まあ、ちょうどいい距離感といえばそうだが。
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