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援助要請
宣布作戦 弐
しおりを挟む「それは一理あるな。ただ、使いに来た者が若手ばかりでは、滓国への交渉をするのが至難の業だろう。」
セチャンの言葉は全くもってその通りだった。ハヨンは滓国に無事辿り着くことに気を取られていたが、その後の交渉が本来の目的なのだ。
まだまだ己の視野が狭いことをハヨンは痛感する。
「であれば交渉力に長けた者と、兵士に顔が知られていない者の方がいい。」
リョンヘが両者の意見を尊重した結論を出したことに、ハヨンは少しほっとした。
「なら、私が行けばいいんじゃないかしら?私は四獣だから、滓国への説得力も増すし、四獣の特徴的な見た目も隠しやすい。何より、この場の兵士以外は知らないでしょうし。」
ムニルが即座に名乗りを上げる。その場にいた者も、賛成なのだろう。各々、近くにいた者と短く意見を交わすものの、頷いている。
「そうだな。滓国への使者の一人は、ムニルで決定しよう。他の者も決めていこうと思うが、誰か外交に携わった者などはいないか。」
リョンヘの言葉に、ちらほらと推薦、自薦する者たちが現れた。やはりと言うべきか、この場でも最年長のセチャンは推薦の数が多かった。
セチャンが加わることは確定となり、後は若手から中堅の兵士が三人選ばれた。
「皆頼んだぞ。そして、四獣の皆には別の任務がある。」
リョンヘの言葉にハヨンは居住まいを正す。ハヨンが四獣として役割を持つのは初めてのことである。
「滓国に使者が到着するまでに、四獣が実在するということを広めるんだ。滓国へ四獣がいることの証明になるし、燐国の民には吉報である上に、俺達に付く者も出てくるだろう。」
「具体的には何をすればいいんだ?」
珍しくソリャが質問した。前回の戦を経てから、彼は四獣の力について否定的な言動が少なくなっている。彼の中で何か変化があったのだろう。
「困っている人がいたら、四獣の姿で助ける。単純だが、印象に残りやすい方法だろう。ただ姿を見せるだけでは、印象が弱すぎる。それに、王城から無理な勅命が続いているのだから、民の生活は困窮している。俺はずっと、そのことが気になっていたんだ。」
人から人への噂話は、凄まじい速さで伝わっていく。伝説の四獣が国の危機を救いに来たと、人々は希望を見出すだろう。
その一方で、ハヨンは酷く気が張り詰めていた。なぜなら、己が朱雀だと知ってから日が浅く、姿を変える練習はしていたが、まだムニルが水を自在に操るように、火を扱うことは難しかった。
(もっと練習しないと…)
剣や体術、戦法、そして四獣の力と、ハヨンは課題が山積みのように思えた。
「大丈夫、後で私と練習しましょう」
隣に座っていたムニルは、ハヨンの表情が険しくなったのを悟ってか、そっと囁いた。
彼の人の機微への聡さには毎回驚かされる。
「ありがとう」
ハヨンもそう囁き返すと、彼は笑みを浮かべて頷いた。
不安が少し解消されたところで、ハヨンはもう一度、話に集中する。
「あとは王城側についていたとしても、本意ではない者は沢山いるだろう。危険ではあるが、それぞれの伝手を頼り、こちら側につくよう呼びかけていくしか無い。」
偽の情報ではあるが、リョンヘ王子による暗殺と、ヒチョル王崩御、王族内の分裂等、短期間で情勢が目まぐるしく変化した。貴族は長いものに巻かれるような選択をせざるを得なかっただろう。
そして平民であれば、さらに得られる情報は僅かで、王城からの勅命は絶対だ。彼らは王城の不可解な行動も知らないかもしれない。
しかし、先日の戦で孟以外の郡からも逃れて来た民はおり、不満や不信感が募っていることは事実だろう。
国を守る伝説の四獣が、リョンヘと共に行動していることや、事実知れば、民衆も動き出すことは間違いない。
ハヨンは縁のある人物について考え、大きな後ろ盾があることに気がついた。
(どうしてすぐに気づかなかったんだろう…!)
とはいえ、イルウォンは多くの人間を操っているため、彼らも既に手中に収められている可能性もある。慎重に物事を見極めなければいけない。
(上手く交渉しなければ…)
相変わらず、ハヨンのやるべき事は山積みだった。
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