華の剣士

小夜時雨

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火蓋は切って落とされた

そして目を覚ませ

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 ムニルは彼女の様子がおかしい、とは思っていたのだ。しかし彼女はいつも冷静で真面目で、強かった。だから大丈夫だろうと思い込んでいた自分が憎かった。
 慌てて彼女に駆け寄ろうとしたが、今自身が龍の姿であることを思い出した。あいにくこの姿では木々の中を素早く移動できない。体をくねらせて何とか近づき、水を吐き出す。あたりの火が少しの間だけ収まったが、再び勢いを取り戻した。一度火を弱めたことで、ようやく彼女がいることを確認できたが、何しろこの熱気と乾燥ではムニルの水の力を用いても、なかなか手間取るだろう。 
 ムニルは意を決して火の海に飛び込む。じゅう、と肌の焼け焦げる独特の匂いがしたが、青龍の力なのか、それほど熱さは感じなかった。

「ハヨン!ハヨン!しっかり!」

 ムニルはそう叫んだつもりだったが、竜の姿では声にならない。金属を震わせるような音が、辺りに響く。ようやく彼女の姿が見えた。彼女の背には一本の矢が刺さり、その周囲は焦げていた。一人の歩兵が近くで倒れている。どうやらハヨンがかばったのか、目立った傷はない。ただ、この熱気と煙と操られていたことからの反動でか意識を失っていた。

(どうしよう…。この姿では運べないわね…。)

 意識を失い、力が入っていないこの状況で、ムニルの背に跨るのは無理がある。その上、他の仲間がこの山から無事に撤退するまでは、龍の力で助けなければならない。しかし、変身するにはかなりの体力を消費する。仮にハヨンを人間の姿で仲間に引き渡したとしても、その後共に撤退しながら火を消せるのかどうか、ムニルは分からなかった。

(ああーっ、もう!やるしか他にないわね!)

 安定した幸せな生活、と言うものをしたことがなかったムニルは、始めは王子に恩を売って、それなりの生活を手に入れようと思っていた。しかし、今ではハヨンやリョンヘを仲間として大事に思っているし、ソリャにはどことなく兄弟のような感情を抱いている。それに孟の城で共に過ごした仲間たちのことも失いたくない。無茶だし、賭けに近いとわかっていても、両方を守りたいと動いている自分に、昔とは大違いだと笑いたくなる。

(ハヨン、もう少しの辛抱だから…!!)

 ムニルはそう心の中で語りかけ、人の姿に戻ろうとする。しかしその時、まばゆい光が視界を遮った。ムニルは思わず目を閉じる。突風で炎が巻き上げられ、顔が熱かった。なんとか目を開けると、目の前で倒れていたハヨンの姿がない。

(ハヨン…!?)

 焦って辺りを見渡していると、ばさばさと羽音が聞こえる。つられて頭上を見上げ、目にしたものにムニルの心の臓は早鐘のように激しく打つのだった。
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