華の剣士

小夜時雨

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人は恋に踊らされる

誤解 弐

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「ハヨン、あなたに恋人が出来たと聞いたのですが本当ですか?」

  執務中、ハヨンは突然リョンヤンにそう問われて思わず体をこわばらせた。

(ここでも噂になってるのか)

  思った以上に噂が広まりつつあることに、ハヨンは頭が痛くなる。その上、その噂の相手は、紛れもなくリョンのことで、リョンヤンの双子の弟だ。
  リョンヘ王子が、変装して市井へと赴くのは城内でも有名だが、どのような変装をしているのかを知っている者は数少ない。そして例え兄弟であれど、リョンのことを教えてはいけないだろう。

「いえ。おそらく私が親しくなった芸人のことを、そう勘違いしている人が多いのでしょう。」

  あまり長々と話しても怪しまれると思い、ハヨンは簡潔に答えることにする。

「そうだったのですね。いや、聞いた時は驚きました。あなたは仕事一筋の人だと思っていたので。」

  リョンヤンがすんなりと信じたことにほっとする。兵士たちはこの手の話を面白がるので、一度話し始めると、収集がつかなくなるのだ。

「はい。私としても、白虎の隊員として、この身を捧げるつもりですので、このような噂が広まるなど、思ってもみませんでした。」

  ハヨンも初めはリョンと二人で話すことで、あらぬ噂を立てられるのではないかと抵抗があった。しかし、リョンと関わっていくことで、周りを巻き込んでいくような人柄や、それでいて己の責務に誠実な姿を見て、親しくなりたいと思ったのも事実だ。
  ハヨンはリョンに惹かれている。しかしそれは、下女のように激しい嫉妬に駆られたり、街の娘のユナのように、憧れの存在と感じるようなわけでもない。
  今まで恋愛をしたこともないハヨンだが、これは恋ではない、と思っている。

「身を捧げる…。それはとてもありがたいことです。しかし、もしハヨンに恋人が出来ることがあれば、その時は私にも教えてください。あなたは私の大事な臣下の一人です。何か噂になれば、心配になるので。」
「はい。」

  ハヨンはリョンヤンの専属護衛だが、城に来てまだ日も浅い。親密かどうかと訊かれても、ハヨンはすぐに肯定できる自信がなかった。
  しかし今、リョンヤンはこうやってハヨンの私生活についても訊ねた。これは、自身が一人の大切な臣下となれたのだ、と初めて自覚できた。ハヨンはこんなにも気にかけてもらえることに、驚くと同時に、嬉しさがこみ上げる。思わず頬を緩めそうになったが、慌てて引き締めるのだった。




  
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