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温かいもの
ただいま
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「二人とも話はそこまででとりあえず座ったらどう?ちょうど夕飯が出来上がったところなの。」
チャンヒは木椀に料理を盛り付けたものを机に並べる。確かに煮物は湯気が立っていて、できたてのようだ。
「今日はハヨンの好きなものを作ったの。たくさん食べなさいよ。」
「うん、ありがとう。」
3人は手を合わせてから食事を始める。しばらく食器が触れ合う音だけが響く。ハヨンは今日一日歩き続けていたので、腹も空いていた上、ここ何日か他所での生活だったので、慣れ親しんだ味が口の中に広がることでほっとした。
「城にはいつから行かなければならないの?」
「4日後だね。入隊式は一週間後なんだけど、向こうの寮の片付けとかしなきゃならないし。」
家からの距離も考えるとどうしても住み込みで勤めることになり、そうすればおのずと荷物も多くなる。きっと入隊直後は疲れきって荷物の整理もままならないだろう。だとすれば忙しくなる前に片付けをした方が楽に決まっている。
「しかしまぁ、年月っていうのは早いものだな。この間までまだほんのガキだった癖に、もう娘になって、兵士になるんだからなぁ。」
「ヨウさん、何だかおじいさんみたいなこと仰いますね」
珍しくしみじみとしているヨウにハヨンはからかい半分で返事をする。
「いや、お前はもう、俺の娘同然だからな。子供が旅立つ時はこんなものかと思っていたところだ。」
ヨウは燐にも故郷にも妻子はいない。どうやら数少ない弟子達を代わりに自分の娘、息子のように思っていたようだ。
「そうですね。時が過ぎるのは早いものです。ハヨンが剣士になりたいと言った頃からあっと言う間だったように感じます。あの頃はこんなに小さくてヒョロヒョロだったのに」
とチャンヒは手でハヨンが小さい頃の背丈を表す。
「今じゃ女の人にしてはずいぶんと背が高いものね。それにたくましいし。何か運んで貰うときは、村の男の人よりハヨンに頼った方がいいくらいよ。」
以前チャンヒに頼まれて村の男が荷物を運ぼうとしたが重すぎて諦めかけたことがある。しかし、ハヨンが運べるといいはり、村の連中が疑い半分で任せたところ、無事目的の場所まで運んだのだ。
「それにしても若衆(若い男たちのこと)に運べなかった荷物を軽々とハヨンが担ぎ上げたときのあいつらの顔は…。なかなかに面白かったな。」
にやにやと思い出し笑いをするヨウを見て、ハヨンは少し恥ずかしくなった。
「やめてくださいよ、私が鍛練を怠らなかっただけで…。」
「しかしな、普通はあんな重いもん普通の女では持ち上げられんわ。」
「そうよ。せっかく収穫した野菜をどうやって運ぼうかすっかり困っていたもの。ハヨンがそんなに力持ちだなんて知らなくて、私も唖然としたわ」
思わず驚きと悔しさが混じった若い男の顔と、母の驚愕した顔を思いだし、ハヨンは吹き出しそうになった。そしてそんなハヨンに、余裕たっぷりといった様子で戦っていたヘウォンはいったいどれくらいの強さなのか。全くはかりしれない男だ。
「最初は性別についてとやかく言われるかもしれんが、お前の腕前をみれば何も言えんだろうな。」
「うーん、出来るだけ早くそうなるように頑張ってみます。」
ハヨンは微笑みながらそうこたえた。
チャンヒは木椀に料理を盛り付けたものを机に並べる。確かに煮物は湯気が立っていて、できたてのようだ。
「今日はハヨンの好きなものを作ったの。たくさん食べなさいよ。」
「うん、ありがとう。」
3人は手を合わせてから食事を始める。しばらく食器が触れ合う音だけが響く。ハヨンは今日一日歩き続けていたので、腹も空いていた上、ここ何日か他所での生活だったので、慣れ親しんだ味が口の中に広がることでほっとした。
「城にはいつから行かなければならないの?」
「4日後だね。入隊式は一週間後なんだけど、向こうの寮の片付けとかしなきゃならないし。」
家からの距離も考えるとどうしても住み込みで勤めることになり、そうすればおのずと荷物も多くなる。きっと入隊直後は疲れきって荷物の整理もままならないだろう。だとすれば忙しくなる前に片付けをした方が楽に決まっている。
「しかしまぁ、年月っていうのは早いものだな。この間までまだほんのガキだった癖に、もう娘になって、兵士になるんだからなぁ。」
「ヨウさん、何だかおじいさんみたいなこと仰いますね」
珍しくしみじみとしているヨウにハヨンはからかい半分で返事をする。
「いや、お前はもう、俺の娘同然だからな。子供が旅立つ時はこんなものかと思っていたところだ。」
ヨウは燐にも故郷にも妻子はいない。どうやら数少ない弟子達を代わりに自分の娘、息子のように思っていたようだ。
「そうですね。時が過ぎるのは早いものです。ハヨンが剣士になりたいと言った頃からあっと言う間だったように感じます。あの頃はこんなに小さくてヒョロヒョロだったのに」
とチャンヒは手でハヨンが小さい頃の背丈を表す。
「今じゃ女の人にしてはずいぶんと背が高いものね。それにたくましいし。何か運んで貰うときは、村の男の人よりハヨンに頼った方がいいくらいよ。」
以前チャンヒに頼まれて村の男が荷物を運ぼうとしたが重すぎて諦めかけたことがある。しかし、ハヨンが運べるといいはり、村の連中が疑い半分で任せたところ、無事目的の場所まで運んだのだ。
「それにしても若衆(若い男たちのこと)に運べなかった荷物を軽々とハヨンが担ぎ上げたときのあいつらの顔は…。なかなかに面白かったな。」
にやにやと思い出し笑いをするヨウを見て、ハヨンは少し恥ずかしくなった。
「やめてくださいよ、私が鍛練を怠らなかっただけで…。」
「しかしな、普通はあんな重いもん普通の女では持ち上げられんわ。」
「そうよ。せっかく収穫した野菜をどうやって運ぼうかすっかり困っていたもの。ハヨンがそんなに力持ちだなんて知らなくて、私も唖然としたわ」
思わず驚きと悔しさが混じった若い男の顔と、母の驚愕した顔を思いだし、ハヨンは吹き出しそうになった。そしてそんなハヨンに、余裕たっぷりといった様子で戦っていたヘウォンはいったいどれくらいの強さなのか。全くはかりしれない男だ。
「最初は性別についてとやかく言われるかもしれんが、お前の腕前をみれば何も言えんだろうな。」
「うーん、出来るだけ早くそうなるように頑張ってみます。」
ハヨンは微笑みながらそうこたえた。
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