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己の覚悟
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「そうか…」
男はそうつぶやいた後、考えごとをしているのか黙り込んでしまった。鍛冶屋は殺されるかもしれないと覚悟はしていたものの、気にくわないから殺してしまえ!と言った激情型の人間ではなかったことがわかってほっと胸を撫で下ろした。
しかし、次に男がとった行動で鍛冶屋はぎょっとした。何とその場に腰を下ろしたのだ。
「どうされましたか」
ここに目当てのものは無いと答えたのに、その場に居座ると言うことは決まっている。
「あなたが作ると言わぬなら、私はここから動かぬ」
とそう一言言ってそのまま目を閉じて黙り混んでしまった。まるで巨像のようにぴくりとも動かず、その安定した姿勢や静かな表情は、先程までの荒々しい怒りのこもった瞳とは正反対のものだった。
本来の姿はこちらなのだと鍛冶屋は悟った。何がそんなにも彼を動かしているのか。それは恨みや憎しみ、そういった暗いものなのは、長年の積み重ねから手に取るようにわかる。
自分は小さな存在だが、彼を踏みとどまらせるよう努力する義務がある。私は本来は刀鍛冶なのだから。
不思議なことに、先程まではどうやってこの場を乗りきろうとそればかり考えていたが、鍛冶屋として自分がどうありたいのかを思い出すと、不思議と恐怖は薄れた。自分が彼にできることがある。これはもしかするとただの老婆心かもしれない。
それでもあの日のことを繰り返さぬためなら。鍛冶屋はそう決心するのだった。
男はそうつぶやいた後、考えごとをしているのか黙り込んでしまった。鍛冶屋は殺されるかもしれないと覚悟はしていたものの、気にくわないから殺してしまえ!と言った激情型の人間ではなかったことがわかってほっと胸を撫で下ろした。
しかし、次に男がとった行動で鍛冶屋はぎょっとした。何とその場に腰を下ろしたのだ。
「どうされましたか」
ここに目当てのものは無いと答えたのに、その場に居座ると言うことは決まっている。
「あなたが作ると言わぬなら、私はここから動かぬ」
とそう一言言ってそのまま目を閉じて黙り混んでしまった。まるで巨像のようにぴくりとも動かず、その安定した姿勢や静かな表情は、先程までの荒々しい怒りのこもった瞳とは正反対のものだった。
本来の姿はこちらなのだと鍛冶屋は悟った。何がそんなにも彼を動かしているのか。それは恨みや憎しみ、そういった暗いものなのは、長年の積み重ねから手に取るようにわかる。
自分は小さな存在だが、彼を踏みとどまらせるよう努力する義務がある。私は本来は刀鍛冶なのだから。
不思議なことに、先程まではどうやってこの場を乗りきろうとそればかり考えていたが、鍛冶屋として自分がどうありたいのかを思い出すと、不思議と恐怖は薄れた。自分が彼にできることがある。これはもしかするとただの老婆心かもしれない。
それでもあの日のことを繰り返さぬためなら。鍛冶屋はそう決心するのだった。
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