上 下
77 / 87
三章 中央区

次の目的地へと

しおりを挟む

 避難所から戻って来た城悟達が連れて来たのは、篠崎という二十代後半の男性だった。彼は避難所に残っていた最後の『ホープ』持ちで、避難所の人々からの信頼も有るようだ。
 そして、彼に簡単な食事を渡してそれを食べ終わった後、俺達は話を始めた。

「私もそろそろ避難所の暮らしに限界を感じていたんだ。避難所を取り仕切る理事長や校長達、彼等が無茶なことばかり言うせいで口論になってね……丁度良いタイミングだったよ」

 酷く疲れた顔をした篠崎さんはそう語った。

「篠崎さん、堅持を連れて行った俺を恨んでますか?」

 真面目に働く者が減れば、それだけ負担は増えてしまう。しかも『ホープ』持ちとなれば、大きい影響となるだろう。

「いや……正直言って堅持君が離れた事については良かった、と思ったよ。堅持君は若い。こんな所で使い潰されて死ぬには早い、そう思っていた」

 その言葉に俺は顔を顰める。

「……なら、何故城悟にそう言わなかったんですか?」

「痛い所を突くね、自分可愛さだよ。そうは思っていても、これ以上負担が増えるのは避けたいと考えてしまった。だから堅持君が離れる後押しをしなかった」

 篠崎さんは嘘を言っているようには思えない。これだけ疲労しているのを見れば、気持ちは分からなくも無い。
 これだけで完全に信用するわけでは無いが、第一印象は合格だろうか。まあ、今回の俺ら口を出す立場では無いのだが。

「俺はそれが聞きたかっただけなんで。後は堅持と話を進めて下さい」

 そう言って俺は場を離れる。その俺の行動に城悟と孝が驚いているのは、俺が指示を出すと思っていたのだろうか。

 ……今回、俺は権限の許可以外するつもりはないからな?




 そうして離れ、俺は駐車場へ向かった。そして、そのまま車のボンネットに乗りその上に胡座を掻いて座る。この状況じゃなきゃ持ち主が怒鳴りつけて来そうな行為だが、その持ち主はもうここには居ないだろう。

 そんな俺が座る車の脇に、爺さんが寄ってきて話しかけてくる。

「意外じゃのう。てっきりお主があれこれ口出しをするものだと思っておったわ」

「俺にも考えが有るんだよ。俺はこれから拠点を持ち、人手を集めるつもりだ。だが……その人や領域の管理、全て俺がやれる訳が無いし、それに時間を取られて自分の目的を疎かにしたくは無い」

 俺は話を続ける。

「だから、今の人員で信頼出来る城悟と孝に今回は任せる事にした。まあ、今回は詫びも兼ねてるから俺の思惑通りに行くかは分からないけどな」
 
 爺さんは顎髭を触りながら話す。

「ふむ。早瀬、荻菜の嬢ちゃん達は完全に信用してないのかのう?」

「当然してないな。早瀬はまだどこか決め兼ねてる様子があるし、荻菜さんは……」

 俺は昨日の荻菜さんとの一件を思い出す。

「何か有ったか?」

「いや、何でもない。それと、城悟と孝でさえ完全に信用している訳じゃないぞ?」

 爺さんはそこで溜息を吐く。

「昔からの友人位、信用してやれば良かろうに……」

「世界がこんな状況なんだ。いつどこで野心が芽生えるかなんて分からない。もし完全に信用していて裏切られたら、もう立ち直れ無いかもな」

「随分と悲しい奴だのう」

「そういう意味では、爺さんを一番信用してるぞ?いつ勝手に死にに行くか気が気じゃないが、野心で俺と敵対する事は無さそうだ。それに、魔物が現れてからなんだかんだで一番付き合いも長いしな」

「ふむ……複雑な気分じゃのう」

 そこで会話は止まり、俺と爺さんは口を開かないまま過ごす。そして……暫くしてから、爺さんとは顔を合わせずに口を開いた。

「爺さん、まだ死ぬなよ。これでも頼りにしてるんだからな」

「何も言わずに居なくなったりはせん。安心しろ」

 爺さんはそう言って笑う。だが、俺は爺さんの言葉を聞いて思う。

 ……死なない、とは言わないんだな。未だに、死に場所を求めるって決意は変わらないのか。俺としては厄介な決意だよ本当に。



 支配領域、それに仲間も増えた。全て順調に行っているのだが、何故か俺の心が満たされることは無い。
 俺は、昔からこうだったのだろうか?それとも、魔物が現れてからどこか感情が欠落したのだろうか?
 それなら、もし……沙生さんとまた会えて、世界から魔物が消えた時には、俺は満たされるのだろうか。


 
 ……何考えてるんだか。まだ拠点も無くスタートラインに立っても居ないんだ、今はただ目的へと着実に進むしか無い。
 いつか、生きてて本当に良かった、幸せだ——そう心から思える事を願って。



♦︎



 その後、領域の管理権限は篠崎さんと、孝の仲間二人の三人に与えられる事に決まった。孝の仲間二人がここに残る事を希望し、それを孝が承諾したからだ。
 そして受け入れる人に関しては、何故か俺と似たような方針に決まったそうだ。三人とも余程嫌な思いをしたのだろう、堅吾はもう少し緩和するよう渋ってはいたが、説得されて結局折れる事になった。

 まあ、学校を取り仕切っていた連中は絶対に受け入れない、という点に関しては全員意見が一致したようだった。そうなると避難所に残るのは、校長達や自分勝手な連中。そんな集団が、崩壊するのはすぐだろう。


 
♦︎



 そして、——五月も終わりが見えてきた頃。
 灰間 暁門達は堅持 城悟、御渡 孝を含む五名の仲間を加えて移動を始める。

 目的地は新潟駅を挟み反対側の北口方面。商業施設が多く、民家が少ない……食糧に期待できない過酷な環境だ。

 そこで彼らを待つのは、生き残った人々か、それとも魔物の群れと悲惨な景色なのか——。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

旦那様、どうやら御子がお出来になられたようですのね ~アラフォー妻はヤンデレ夫から逃げられない⁉

Hinaki
ファンタジー
「初めまして、私あなたの旦那様の子供を身籠りました」  華奢で可憐な若い女性が共もつけずに一人で訪れた。  彼女の名はサブリーナ。  エアルドレッド帝国四公の一角でもある由緒正しいプレイステッド公爵夫人ヴィヴィアンは余りの事に瞠目してしまうのと同時に彼女の心の奥底で何時かは……と覚悟をしていたのだ。  そうヴィヴィアンの愛する夫は艶やかな漆黒の髪に皇族だけが持つ緋色の瞳をした帝国内でも上位に入るイケメンである。  然もである。  公爵は28歳で青年と大人の色香を併せ持つ何とも微妙なお年頃。    一方妻のヴィヴィアンは取り立てて美人でもなく寧ろ家庭的でぽっちゃりさんな12歳年上の姉さん女房。  趣味は社交ではなく高位貴族にはあるまじき的なお料理だったりする。  そして十人が十人共に声を大にして言うだろう。 「まだまだ若き公爵に相応しいのは結婚をして早五年ともなるのに子も授からぬ年増な妻よりも、若くて可憐で華奢な、何より公爵の子を身籠っているサブリーナこそが相応しい」と。  ある夜遅くに帰ってきた夫の――――と言うよりも最近の夫婦だからこそわかる彼を纏う空気の変化と首筋にある赤の刻印に気づいた妻は、暫くして決意の上行動を起こすのだった。  拗らせ妻と+ヤンデレストーカー気質の夫とのあるお話です。    

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

性欲排泄欲処理系メイド 〜三大欲求、全部満たします〜

mm
ファンタジー
私はメイドのさおり。今日からある男性のメイドをすることになったんだけど…業務内容は「全般のお世話」。トイレもお風呂も、性欲も!? ※スカトロ表現多数あり ※作者が描きたいことを書いてるだけなので同じような内容が続くことがあります

冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい

一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。 しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。 家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。 そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。 そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。 ……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──

【完結】では、なぜ貴方も生きているのですか?

月白ヤトヒコ
恋愛
父から呼び出された。 ああ、いや。父、と呼ぶと憎しみの籠る眼差しで、「彼女の命を奪ったお前に父などと呼ばれる謂われは無い。穢らわしい」と言われるので、わたしは彼のことを『侯爵様』と呼ぶべき相手か。 「……貴様の婚約が決まった。彼女の命を奪ったお前が幸せになることなど絶対に赦されることではないが、家の為だ。憎いお前が幸せになることは赦せんが、結婚して後継ぎを作れ」 単刀直入な言葉と共に、釣り書きが放り投げられた。 「婚約はお断り致します。というか、婚約はできません。わたしは、母の命を奪って生を受けた罪深い存在ですので。教会へ入り、祈りを捧げようと思います。わたしはこの家を継ぐつもりはありませんので、養子を迎え、その子へこの家を継がせてください」 「貴様、自分がなにを言っているのか判っているのかっ!? このわたしが、罪深い貴様にこの家を継がせてやると言っているんだぞっ!? 有難く思えっ!!」 「いえ、わたしは自分の罪深さを自覚しておりますので。このようなわたしが、家を継ぐなど赦されないことです。常々侯爵様が仰っているではありませんか。『生かしておいているだけで有難いと思え。この罪人め』と。なので、罪人であるわたしは自分の罪を償い、母の冥福を祈る為、教会に参ります」 という感じの重めでダークな話。 設定はふわっと。 人によっては胸くそ。

修行マニアの高校生 異世界で最強になったのでスローライフを志す

佐原
ファンタジー
毎日修行を勤しむ高校生西郷努は柔道、ボクシング、レスリング、剣道、など日本の武術以外にも海外の武術を極め、世界王者を陰ながらぶっ倒した。その後、しばらくの間目標がなくなるが、努は「次は神でも倒すか」と志すが、どうやって神に会うか考えた末に死ねば良いと考え、自殺し見事転生するこができた。その世界ではステータスや魔法などが存在するゲームのような世界で、努は次に魔法を極めた末に最高神をぶっ倒し、やることがなくなったので「だらだらしながら定住先を見つけよう」ついでに伴侶も見つかるといいなとか思いながらスローライフを目指す。 誤字脱字や話のおかしな点について何か有れば教えて下さい。また感想待ってます。返信できるかわかりませんが、極力返します。 また今まで感想を却下してしまった皆さんすいません。 僕は豆腐メンタルなのでマイナスのことの感想は控えて頂きたいです。 不定期投稿になります、週に一回は投稿したいと思います。お待たせして申し訳ございません。 他作品はストックもかなり有りますので、そちらで回したいと思います

最強魔法師の壁内生活

雅鳳飛恋
ファンタジー
 その日を境に、人類は滅亡の危機に瀕した。  数多の国がそれぞれの文化を持ち生活を送っていたが、魔興歴四七〇年に突如として世界中に魔物が大量に溢れ、人々は魔法や武器を用いて奮戦するも、対応しきれずに生活圏を追われることとなった。  そんな中、ある国が王都を囲っていた壁を利用し、避難して来た自国の民や他国の民と国籍や人種を問わず等しく受け入れ、共に力を合わせて壁内に立て籠ることで安定した生活圏を確保することに成功した。  魔法師と非魔法師が共存して少しずつ生活圏を広げ、円形に四重の壁を築き、壁内で安定した暮らしを送れるに至った魔興歴一二五五年現在、ウェスペルシュタイン国で生活する一人の少年が、国内に十二校設置されている魔法技能師――魔法師の正式名称――の養成を目的に設立された国立魔法教育高等学校の内の一校であるランチェスター学園に入学する。

処理中です...