上 下
76 / 87
三章 中央区

対立する者達 19

しおりを挟む
 いつの間にか眠っていたのか、窓を見ると外が明るくなっていた。だが昨日の事は詳細に覚えてるし、どこか腑に落ちない部分も有る。だが忘れると言った以上、この件で荻菜さんに話を振るつもりはない。

 俺が休憩室を出ると、すぐ隣の部屋で早瀬と荻菜さんが机に突っ伏しながら眠っていた。休憩室にはもう一つソファーが有ったが、俺が昨日近づくなと言ったので誰も使わなかったのだろう。

 悪い事をしたか……と思ったが、俺は昨日早瀬がした発言を思い出す。

 いや、やっぱり自業自得だな。早瀬が酔って変な事を言うのが悪い。俺はそう思いながら、昨日の宴会を行っていた場所へと向かった。



 そして俺が宴会会場跡地に着くと、その場は酷い有様だった。酒瓶や缶、それに食べた後の容器が至る所に散らばり、そんな場所で男達は床に寝転がって眠っていた。ただ、爺さんはあれだけ飲んでいたにも関わらず、その姿は無い。

 昨日の罰として後で早瀬に片付けさせるか。……それより、城悟の奴は領域の事を考えたのか?俺には潰れて寝ているようにしか見えないが。

 酒瓶を枕にして眠る城悟。俺はその酒瓶を足で蹴って抜く。すると、枕を失った頭がそのまま床に落ち、城悟は後頭部を打ち付ける。

「痛え!」

 その痛みで飛び起き、後頭頭を摩る城悟。俺は呆れながら話しかける。

「おい城悟、随分と気持ちよさそうに寝ていたようだが、領域の事は考えたんだろうな?」

 城悟は俺と目を合わせる。

「何かと思ったら暁門のせいかよ……領域の事については、孝にも意見聞きながらちゃんと決めたぞ」

 どうやら騒いでただけでは無かったようだ。それに俺は安堵する。

「なら、どうするか教えてくれ」

「おう。オレは——」

 そうして、俺は城悟の方針を聞いていく。俺は任せると言った以上、それを否定したりせず相槌をうつ。

「——って方向で行こうと思う。な、なあ……これで良いと思うか?」

「俺に意見を聞いても仕方がない。これは城悟が避難所を後腐れなく去る為にする事だ。だから、お前が納得出来るかどうかだろ」

「分かっちゃいるんだがよ……」

 城悟の表情は暗い。だが、その答えは俺の方針と似たようなものだった。
 信頼出来る者二人を領域の権限を渡して管理してもらい、女子供はほぼ無条件、男は軽く話した上で働く気が有れば領域内に入れるかを判断する。
 領域内での行動に問題が有れば忠告。更に忠告が三回蓄積した時点で領域を追放処分とされる。
 魔石集めに関しては、希望者の除き男達で平等に交代制とする。
 ……子供は分かるが、城悟は女性に優しいんだな。何処かの俺の方針とは少し違うようだ。

 管理する者達は、城悟や孝が一月以上も避難所に一緒に居たんだし、問題無いだろう。だが、結局は管理する者に魔が指せば、領域の運営なんて簡単に崩壊する。
 俺がその人を見てから決めるが、今のうちに脅しておくのも効果は有りなんだが……。



 そして——城悟と孝、それと孝の仲間達は説得の為に避難所へと向かった。中には二日酔いのやつも居たが、大丈夫か?流石に死なれるのは困るぞ?

 城悟達に俺が付いて行かなかったのは、色々と問題行動もしたのも有り、反感を買う恐れが有ったからだ。俺としては嫌なら学校に残れで良いと言ったんだが、城悟も孝もそれに苦笑いしていた。

 それと昨日の誤解については、あの後爺さんと荻菜さんによるフォローが有ったそうで俺への誤解は解けた。

『灰間の小僧は威張っとるが、そんな命令を出すだけの度胸は無い。いざ言おうとしても、尻込みするのが目に見えとるのう』

 ……と爺さん。そもそもそんな命令しないからな?俺はそこまで飢えてないぞ。




 城悟や孝が避難所へ向かった後、俺はレジの台に座り宴会の片付けをしている早瀬を見ていた。
 早瀬が起きてすぐ彼女は俺に対して謝罪。そして平謝りしてくる彼女に、俺は怒る気も失せてしまった。そうして——片付けだけ指示を出し、今に至る。

「ふん、ふふーん」

 鼻歌混じりにゴミを片付けている早瀬を見ながら、俺は考える。

 俺と会う前、早瀬がどのように生きていたかは聞いた事がない。
 だが『ホープ』に目覚めている以上、死を感じるような状況に陥った筈なんだが……それを微塵も感じさせない態度は演じているのか?もし素なので有れば、早瀬の精神力は鉄壁なんだろうな……。



 俺は早瀬が掃除している場を離れ、渦の外へと出る。外は五月の晴れ日で、気温が高くて暑く感じるほどだ。
 これ程世界が大変な事態になっていても、それは人間の問題で地球には関係無いんだろうな……って何を考えているんだか。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第二章シャーカ王国編

彼女をイケメンに取られた俺が異世界帰り

あおアンドあお
ファンタジー
俺...光野朔夜(こうのさくや)には、大好きな彼女がいた。 しかし親の都合で遠くへと転校してしまった。 だが今は遠くの人と通信が出来る手段は多々ある。 その通信手段を使い、彼女と毎日連絡を取り合っていた。 ―――そんな恋愛関係が続くこと、数ヶ月。 いつものように朝食を食べていると、母が母友から聞いたという話を 俺に教えてきた。 ―――それは俺の彼女...海川恵美(うみかわめぐみ)の浮気情報だった。 「――――は!?」 俺は思わず、嘘だろうという声が口から洩れてしまう。 あいつが浮気してをいたなんて信じたくなかった。 だが残念ながら、母友の集まりで流れる情報はガセがない事で 有名だった。 恵美の浮気にショックを受けた俺は、未練が残らないようにと、 あいつとの連絡手段の全て絶ち切った。 恵美の浮気を聞かされ、一体どれだけの月日が流れただろうか? 時が経てば、少しずつあいつの事を忘れていくものだと思っていた。 ―――だが、現実は厳しかった。 幾ら時が過ぎろうとも、未だに恵美の裏切りを忘れる事なんて 出来ずにいた。 ......そんな日々が幾ばくか過ぎ去った、とある日。 ―――――俺はトラックに跳ねられてしまった。 今度こそ良い人生を願いつつ、薄れゆく意識と共にまぶたを閉じていく。 ......が、その瞬間、 突如と聞こえてくる大きな声にて、俺の消え入った意識は無理やり 引き戻されてしまう。 俺は目を開け、声の聞こえた方向を見ると、そこには美しい女性が 立っていた。 その女性にここはどこだと訊ねてみると、ニコッとした微笑みで こう告げてくる。 ―――ここは天国に近い場所、天界です。 そしてその女性は俺の顔を見て、続け様にこう言った。 ―――ようこそ、天界に勇者様。 ...と。 どうやら俺は、この女性...女神メリアーナの管轄する異世界に蔓延る 魔族の王、魔王を打ち倒す勇者として選ばれたらしい。 んなもん、無理無理と最初は断った。 だが、俺はふと考える。 「勇者となって使命に没頭すれば、恵美の事を忘れられるのでは!?」 そう思った俺は、女神様の嘆願を快く受諾する。 こうして俺は魔王の討伐の為、異世界へと旅立って行く。 ―――それから、五年と数ヶ月後が流れた。 幾度の艱難辛苦を乗り越えた俺は、女神様の願いであった魔王の討伐に 見事成功し、女神様からの恩恵...『勇者』の力を保持したまま元の世界へと 帰還するのだった。 ※小説家になろう様とツギクル様でも掲載中です。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

幼馴染達にフラれた俺は、それに耐えられず他の学園へと転校する

あおアンドあお
ファンタジー
俺には二人の幼馴染がいた。 俺の幼馴染達は所謂エリートと呼ばれる人種だが、俺はそんな才能なんて まるでない、凡愚で普通の人種だった。 そんな幼馴染達に並び立つべく、努力もしたし、特訓もした。 だがどう頑張っても、どうあがいてもエリート達には才能の無いこの俺が 勝てる訳も道理もなく、いつの日か二人を追い駆けるのを諦めた。 自尊心が砕ける前に幼馴染達から離れる事も考えたけど、しかし結局、ぬるま湯の 関係から抜け出せず、別れずくっつかずの関係を続けていたが、そんな俺の下に 衝撃な展開が舞い込んできた。 そう...幼馴染の二人に彼氏ができたらしい。 ※小説家になろう様にも掲載しています。

転生したら武器に恵まれた

醤黎淹
ファンタジー
とある日事故で死んでしまった主人公が 異世界に転生し、異世界で15歳になったら 特別な力を授かるのだが…………… あまりにも強すぎて、 能力無効!?空間切断!?勇者を圧倒!? でも、不幸ばかり!? 武器があればなんでもできる。 主人公じゃなくて、武器が強い!。でも使いこなす主人公も強い。 かなりのシスコンでも、妹のためなら本気で戦う。 異世界、武器ファンタジーが、今ここに始まる 超不定期更新 失踪はありえない

漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?

みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。 なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。 身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。 一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。 ……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ? ※他サイトでも掲載しています。 ※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。

異世界に転生したので、とりあえず戦闘メイドを育てます。

佐々木サイ
ファンタジー
異世界の辺境貴族の長男として転生した主人公は、前世で何をしていたかすら思い出せない。 次期領主の最有力候補になるが、領地経営なんてした事ないし、災害級の魔法が放てるわけでもない・・・・・・ ならばっ! 異世界に転生したので、頼れる相棒と共に、仲間や家族と共に成り上がれっ! 実はこっそりカクヨムでも公開していたり・・・・・・

処理中です...