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一章 見捨てられた地方都市と『希望の力』

避難所崩壊 5

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 その後俺は沙生さんと別にされ、留置所として使われる牢屋の中へと入れられた。流石に監視をつけるほどの人手は無いようで、ここには俺一人。

「そういえばここは警察署だったな。確かに俺のような奴を監禁するのには便利だ」

 自虐気味にそう吐き捨てる。『武器作成』が成長すれば牢屋の鉄格子を壊すこと位出来ると思う。だが、それがいつになるか分からない。

「正直言って、そんなに時間を無駄にしてられないな」

 出来るだけ早くここを脱出し、沙生さんを助けて警察署を離れる。俺は有り余っている時間を脱出手段を考えることに費やすと決めた。

 そして黒薙が俺を嘲笑う顔が思い出される。それだけで怒りがこみ上げ、ぶつけようの無い感情が溢れてくる。
 絶対に、あいつが俺を利用しようとした事を後悔させてやる。どんな手段を使っても、必ずだ。

 俺の中の黒い感情。それは……もう誰にも止められない所まで来ているのだった。



♦︎


 警察署の一階ロビー。

 そこでは黒薙達が入り口に立ち、避難民達に集まるように指示していた。集まった避難民達は何が起こるのか分からず首を傾げているが、そこにはやはり危機感は感じられない。

「黒薙さん、集まりました」

 取り巻きの男が黒薙に耳打ちをする。黒薙は集まった避難民達を見て、口角を上げてほくそ笑む。
 そして、黒薙は口を開く。

「おい避難民ども、よく聞け。リーダーを引き継いだ村田の野郎が死んだそうだ」

 避難民達にざわめきが起こる。黒薙は気にせずに話を続ける。

「それにより警察の組織は崩壊した。もう、お前らを守ってくれる連中はいねぇって事だ」

 そこで一人の男性が前に出て発言する。

「な、なら黒薙さん、あんた強いんだろ!?俺達を守ってくれよ!」
「「「そうだ!俺(私)達を守ってよ!!」」」

 黒薙は眉間に皺を寄せる。

「あぁ?なんで俺がテメェらを守らねぇといけねぇんだよ」

「ち、力が有るなら、弱者を守るのは人としてとうぜ——」

 その瞬間、黒薙が前に出た男性の顔を思い切り殴りつける。

「テメェらバカだな!何で守られるのが当然だと思ってやがる!状況を考えろよ!タダ飯食らいで生かしても損しか無いような連中を守るわけねぇだろうが!」

 黒薙は話を続ける。

「……これからここは、俺の物になる。ここに有る物全てが俺の物だ!食糧も建物も、武器も人も!だが、誰にも文句は言わせねぇぞ? テメェらは俺の命令に従え、それ以外は絶対に許さねぇ。もし、少しでも命令に背いたり抵抗してみろ。その時は……村田みたいに死ぬ事になるぜ」

 黒薙は周囲を見渡すように睨み付ける。
 そこに集まった人々は誰もが口を閉じ、話そうとする者はいなかった。怯えている者、涙を目に浮かべている者、顔が青褪めている者。反応はそれぞれだった。

「まずはそうだな……おい、お前。今すぐ食糧取ってこいよ」

 黒薙が顎で指示を出したのは、前に出て発言した男性だった。

「え……あ、あの。私は喧嘩なんてした事がなくて……」

 その発言を受けて黒薙は男性へと近寄っていく。そして、その男性の首を思い切り手で力を込めて掴む。

「か……カハッ……」
 
「言ったばかりじゃねぇか。命令に従えねぇ奴は殺すって。丁度良い、テメェは見せしめだ」

 黒薙の目が細まり、既に掴んでいた手に更に力を込めていく。

「ァ……こヒュ……カ……」

 男性の顔は青褪めていき、そして白目を剥く。

 誰もその行動を止める勇気はない。もし止めたら自分がやられるのを理解したからだ。

 そして——男性の体から力が抜け、手がぶらりと下がる。


「おい、男共。コイツを外に捨てろ」

 黒薙の言葉とその行動に一瞬戸惑うも、避難民の男達が動き始める。

「女共は今すぐ会議室の中に入れ。そこから呼ばれるまで一歩も出るんじゃねぇ。もし出たら……分かるな?」

 それに女性陣が絶望した表情をする。
 
「早く行け!」

 黒薙の怒号を皮切りに、女性達が移動を始める。

 黒薙とその取り巻き達は、それを舌舐めずりしながら見送る。

「黒薙さん、早く……」

 取り巻きの一人がそう言うと、黒薙は笑って返す。

「おいおい、焦んなよ。まだ始まったばかりだぜ?」

 下衆な笑いをする黒薙達。
 彼らによって、秩序が保たれていた避難所は最悪な場所へと変貌してしまった。

 ——そこに有るのは力による支配。それを破るだけの力と知恵を持つ者は、そこに存在していなかった。
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