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一章 見捨てられた地方都市と『希望の力』
警察署の避難民 6
しおりを挟むスーパーへの移動は、心なしか体が軽く思った以上の速度で進んだ。攻略に向かった人達が倒したからか、ゴブリンの姿は無い。
目的地は目前で、俺は速度を更に上げていく。
そして、スーパーの駐車場が遠目に見えてきた所で、人の姿が目に入った。
あれは……こっちに戻って来ている?
警察の人では無い普段着の集団が、慌てた様子で引き返して来ているのが見える。
まさか。俺の頭に不安が過ぎる。
集団との距離が近づくと、俺は大声で声をかけた。
「どうしたんですか!」
大声で返事を返したのは、集団の先頭を走る黒薙さんだった。
「てめぇ何でいやがる!俺達は撤退だ!あんな数、無理に決まってんだろ!」
「警察の人達は!?」
「知らねぇよ!俺達は無理だと判断してすぐに撤退したからな!」
……こいつら、他の人を見捨てて自分達だけ逃げたのか?
俺は彼らに嫌悪感を抱いたが、能力を隠した自分も同じようなものだと気付く。文句を言う資格は無いのかもしれない。
そのまま、俺と黒薙さん達五人がすれ違う。すると、黒薙さんが立ち止まりこちらに声を荒げて叫ぶ。
「おい!あいつらを助ける義理なんてねぇだろ!死にてぇのか!」
「……このままじゃ、絶対に後悔すんだよ」
俺は黒薙さん達に振り返らず、誰にも聞こえない声で小さくそう呟いた。
♦︎
スーパーの駐車場に着くと、警察の人達がゴブリン達を相手に必死に戦っていた。
警察が十も居ないに関わらず、ゴブリンの数はその倍以上は居るように見え、しかもまだまだ集まって来ているように思える。警察の人達は奮闘してはいるが、多勢に無勢。怪我人も出ているようで、その人を周囲が必死にフォローしていた。
俺はここに来るまでに全ての武器をポケットやベルトに収納していた。決して出し惜しみなどしない。
俺はリュックを投げ捨て、全力でゴブリン達との戦いに臨む。
警察の人達が円陣を組み対応している中で、取り囲もうとしているゴブリン達の一辺を削っていく。
ゴブリン達の数は多く、どこを撃っても当たるような状態だ。誤射だけに注意して、俺は次々とゴブリンを屠る。
銃の弾が切れれば次の銃へと持ち替え、次々と予備の銃を消化していく。それは俺の想定以上に武器の消費が早かった。
だが、俺の援護でゴブリンの一角が崩れ始め、警察の人達に余裕が生まれ始める。そして余裕が出た人が攻撃が激しい箇所への援護を行い、徐々にだがゴブリン達を押し返し始めた。
俺は警察の人達と同じ位置へと移動し、尚攻撃の手を緩めない。そしてゴブリンの増援を合流させないことを優先する。
「ギャ……ッ!」
周囲のゴブリン達が警察の集団により息絶える。余裕が出た俺は、その顔触れを確認して顔を顰めてしまう。
「……加藤さんと村田さんが居ない?」
「あ、ありがとう助かったよ。一体その武器は……?」
「その話は後で。他の人はどこです?」
「あ、ああ。あそこの車が密集した辺りで分断された」
「分かりました。ついてこれる人はお願いします」
俺は警察の人が示した場所へと駆ける。だがスーパーの入り口に近づくにつれて、乗り捨てられている車の数が多くなっている。その分死角や壁が増え、銃の遠距離である利点が消されてしまう。
「ギャギャ!」
車の影から飛び出して来たゴブリン。それにすぐ反応して頭と脇腹を撃ち、絶命させる。
くそっ車が邪魔だ!無駄に時間を取られる!
ゴブリンが集まっている所は見えている。恐らくそこで加藤さんや村田さん達が戦っているのだろう。
手段は選んでいられない。俺は車の上によじ登り、上に乗った。
だがそれは居場所を知らせるようなもので、近くのゴブリン達が俺へと殺到してくる。
俺は集中し、確実に一匹ずつ仕止めていく。車の上を移動しながらゴブリンを撃ち抜き続け、生き残った人の姿が見えるところまで辿り着いた。
加藤さんと村田さん、それともう一人が後方を車に阻まれゴブリン達に囲まれている。そして血を流し地面に倒れ、動かない人の姿も。
俺はそれを見て音がするほどに歯を食いしばる。だが感情的にならず、状況の把握に努める。
やはりゴブリン達の数は多い——が、俺はそれよりも別な事が気になった。
それは、体が他よりも一回り大きい、青い肌のゴブリンの姿。
明らかに上位種であろう存在。
俺はその姿を見ただけで、身体中に鳥肌が立つのが分かった。
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