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一章 見捨てられた地方都市と『希望の力』

警察署の避難民 5

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 避難所生活三日目の早朝。

 警察署内には慌ただしく走り回る音が響いていた。
 俺はその音で目が覚めると周囲を見渡す。

 警察の人達と黒薙さん達が居ない?

 俺は布団を畳むと、警察署の入り口へと急いだ。



 警察署の入り口には十数人の人の姿が有った。その中には警察である加藤さんや、村田さん。それに黒薙さんと数人の避難民の男性達。
 皆が物々しい雰囲気で、それぞれが拳銃の弾や武器、荷物を確認していた。

「あの……どうしたんですか?」

 俺が声を掛けると、村田さんが近づいてくる。

「これから私達はスーパーの攻略へと向かう。数人は残るけれど、警察署の警備は手薄になる。灰間君もいざと言う時は頼むよ」

 その言葉を俺は信じられなかった。

「あそこに近づくなって言ったのは村田さんじゃないですか!十数人であの数のゴブリンは無理だ!危険過ぎる!」

 俺は取り繕う事も忘れて大声をあげる。

「もう、あそこの食糧に頼るしか無いんだ。安心してくれ、駄目そうならすぐに戻るさ。死ぬつもりは無いよ」

 村田さんは軽く笑って見せるが、それが俺には嘘くさく見えた。

 考えろ。俺はどうすれば良い?俺なら彼らの生存率を少しでも上げる事が出来る。だが、それをすると沙生さんと逃げる計画が難しくなるかもしれない。

「そろそろ時間だ。じゃあね、灰間君」

 ——そう言い残し、俺の元を去っていく村田さん達の後ろ姿が、少し霞んで見えた気がした。


 
 そして結局、俺は彼らをそのまま見送った。

 その後も俺は入り口近くの椅子に座り、祈るような姿でひたすら考えていた。

 俺はあの人達を見殺しにしたようなもんだ。力が有るのにそれを明かさずに無能を演じた。
 
 俺は能力を明かして、攻略を全面的にバックアップすれば良かったのか?時間をかけて武器を揃えれば攻略できる可能性が有ったかもしれない。

 だが、そのあとはどうする?俺はずっとここでいいように使われるのか?

 幾ら悩んでも答えは出ないし、胸には罪悪感だけが残る。

 途中で諦めて無事に帰ってくるかもしれない。いや、俺は百は居そうなゴブリンの群れを見た。それが一斉に襲いかかってきたら、無事でいられるわけがない。

 壁に掛かった時計に目をやると、既に三十分近くが経過していた。


 未だに悩み続けていると、俺に声を掛けてくる人物が居た。

「暁門君どうしたの?」

「……沙生さん。」

 顔を上げた俺の表情がよほど酷かったのか、沙生さんは急に慌て始める。

「ど、どうしたの!?どこか怪我でもした?包帯貰ってこようか!?」

 俺はその慌てようを見て逆に冷静になってしまう。

「怪我とかしてないし大丈夫だから!ただ、警察の人達がスーパーを攻略するって出て行ってさ……どうしたら良かったのかって少し悩んでたんだ」

「え……スーパーって、前に一度行って駄目だった所?」

「そうだと思う。どうしても食糧が足りないとか……」

「あの時、警察の人で死んだ人も居たんだよ?それなのにまた行くって……」

 死んだ?昨日、村田さんは怪我人としか言ってなかった。もしかして、俺を心配させないようにそう言ったのか?

「暁門君……お願いだから助けてあげて。もし力が知られたくなくて足踏みしているのなら、助けた後は力尽くでもここを去ればいいじゃない。このままじゃ、私はここを離れてもきっと後悔し続けるよ……」

 そうなったら俺もきっと後悔し続けるんだろうな、と思った。まだ、間に合うだろうか?

「沙生さん、約束してくれ。俺がした行動でどんな状況になっても、ここを離れて一緒に居てくれるって」

 俺は沙生さんを真剣な表情で見つめた。
 そんな俺を見て沙生さんは微笑む。

「大丈夫、約束するよ。私は暁門君と一緒に居る。だから、みんなを助けてあげて」

 沙生さんの手が俺の頬に触れる。……暖かい。

「……俺の全力でやってみるよ。沙生さん、ありがとう」

「頑張ってね。待ってるから」



 決意を決めた俺は、武器が詰まったリュックを担いで外へと駆け出す。沙生さんは門まで来て見送っていた。

 一刻を争う。多少の危険は無視だ。


「『兵器作成』!『威力』と『石弾』を付与した『銃』を二丁寄越せ!」


 俺はスーパーを目指して走りながら叫ぶ。
 俺の両手には銃の重さが加わる。

 頼む、間に合ってくれ。
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