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4.プロテア防衛戦

66.決闘、佐山 鈴

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「本当に鈴さんも決闘するの?佐山さんとの決闘で用事済んだんじゃ…」

「そんなのお父さんばっかりズルいじゃない。それに私はまだ認めてないわ」

 鈴さんから決闘の申し込みが届く。

(こりゃ諦めるか…断ったら後が怖そうだ)

 鈴さんを見ると、戦える事が嬉しいのか笑っている。
 本人気付いてないけど、現実だったらこれただの変人やないか。

 決闘を了承すると、カウントダウンが始まる。

 3,2,1,・・・0。

 0と同時に鈴さんが踏み込んで距離を詰めてくる。
 職業はプリーストなので、スキルによる移動では無いのだが、支援魔法の効果により常人ではあり得ない速度で距離を詰めてくる。
 オレは向こうから来るのは願ったり叶ったりなので、その場で鈴さんを待ち構える。

 鈴さんの横薙ぎの一太刀は、オレが後ろに一歩下がる事によって回避される。
 剣を振る速度だけなら佐山さんよりも早いかもしれない。そしてそのまま次々と繰り出される剣による斬撃。
 オレは受け流すと危険だと判断し、後ろに下がらざるを得なかった。

(佐山さんよりも攻撃は早いが、単調な気がするな)

 佐山さんはまるで実戦で培ってきたような、多彩な攻撃をしてきた。それによりオレも苦戦したのだが、鈴さんの攻撃は明らかに剣道そのままでどうしても癖がある。
 剣道で強さを追い求め、最適化されているであろうその攻撃は、速さは素晴らしいのだがパターンが出来上がってしまっていた。
 これならオレの取る対応はモンスターの時と同じ。徐々にパターンに慣れたオレは、次の行動に出る。

 オレは鈴さんの斬撃を避けるのをやめ、受け流す事で出来る隙を狙って攻撃しようとする…が。
 
 鈴さんの顔を殴る直前で拳を引き、オレは一歩退いた。

(マズい……これは困った。ゲーム内とはいえ、知り合いの女性を殴るのに抵抗が有る)

 RDOでは顔がゲームのキャラクターでは無く、現実と変わらない顔そのままだ。ましてや鈴さんはオレのクラスメイト。
 殴る事に抵抗が出るのも当然だと思う。
 一歩退いたオレに対し、鈴さんは攻撃を止めて質問をして来くる。

「何で攻撃を止めたのよ。…女だから殴れないなんて言わないでね。もしそれであなたが負けたら、クラスメイトにあることないこと言いふらすから」

「それは本当に勘弁してよ……」

 仕方ない、とオレは気持ちを切り替える。
 これは現実じゃない、ゲーム内のキャラクターに過ぎない。

(これはゲーム。これはゲーム。これはゲーム……うん。だめだどうしても現実と重なる)

 オレはどうにもならないと判断し、イベントリから一つの布を取り出す。
 そしてそのまま出した布で目を覆う…つまり目隠し。

「それはふざけてるの?凄くイラつくんだけど」

 鈴さんが明らかに不機嫌な声で文句を言ってくる。

「いや、オレの最善だと思う方法だ。悪いけど、これで戦う」

「…負けたら卒業式の日、覚悟してね」

 鈴さんの攻撃が再度始まる。大丈夫。さっきのでパターンは覚えた。
 後は見誤らなければ良い。

 そして次の攻撃は予想通り、上段からの斬撃。オレは左手のナックルで受けて攻撃を流す。
 鈴さんはその勢いで体勢を崩し、空いた胴に拳を一撃を入れる。

 …次は左から横に来る。流すのは難しいので、両手のナックルで受ける。
 少しダメージを受けたが、許容範囲内だ。

 次は突き。上半身を捻って回避し、刀を持つ手を左手で押さえる。
 これで胴体はがら空きで、相手からの反撃もない。そのまま鈴さんの胴に連打拳、強打拳を放つ。

 鈴さんは衝撃で後ろに仰け反るが、まだ刀を持った手は放していない。
 鈴さんは手を捻ってなんとかオレの左手を振り払い、次の攻撃に来る。

 ただ振り払った直後に攻撃してきたからか、パターンとは違う位置からの攻撃にオレ胸を深く斬りつけられてしまう。
 完全に入った一撃により、HPが一気に半分程減ってしまう。


 鈴さんは追い討ちを掛けるように、次の攻撃を放ってくる。
 オレはギリギリでその攻撃を回避する。

(残像!)

 次の瞬間、オレは鈴さんの後方頭上に居た。

「ちっ」

 鈴さんは突然後方頭上に現れたオレに対応しようとするが、その反応は佐山さんとは違って遅い。
 鈴さんの斬撃がオレに届くよりも早く…オレのかかと落としが鈴さんの頭に直撃する。
 直後に鳴り響く、スタン状態を告げる効果音。

 これはモンクのアクティブスキル頭乱脚。
 言ってしまえばただのかかと落としなのだが、これが対象の頭に直撃すると高確率で対象にスタンの状態異常を与える。
 そして予想通りスタンにより力を失う鈴さんの攻撃。
 オレはこの攻撃をわざと受けるが、スタンで力を失った斬撃ではほぼダメージが無い。

 スタンの効果はほんの数秒。
 だが決闘で数秒の隙は…とても大きい。

 隙だらけの身体に連打拳からの粉砕拳。

 オレの攻撃は力が入らない鈴さんに、クリティカルが発生し身体を大きく吹き飛ばす。
 大きく後方に吹き飛び地面に打ち付けられる鈴さんの身体。

 そしてその直後、オレの勝利を告げるシステムメッセージが表示された。

 …目隠しを取る俺。
 目の前には地面を叩いて悔しそうな鈴さんの姿。当然だが顔や身体に傷は無いようだ。
 ふー良かったとオレはため息をついた後、鈴さんに近寄っていく。

 周りのプレイヤーからは拍手や歓声が飛び交う。
 そんなプレイヤー達を横目に、オレはそっと鈴さんの前に手を差し伸べた。
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