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2.そして少しずつ動き出す

45.ヴァルキリーさん

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さて、ヴァルキリーさんとの戦いが一方的に始まったのだが。

ヴァルキリーさん天然とか言って完全に甘く見ていた。
全力で回避に神経を集中しているにも関わらず、回避しきれずに全身浅い傷が増えていく。
そしてヴァルキリーさんには、攻撃パターンと言うものが無い。
まるで本当の人と戦っているかのように考えながら動いている。

深い傷は辛うじて避けてはいるが、それでもHPは減っていく。
その剣筋は全く見えないし、目でも追えない。
どうやって回避しているかというと、ヴァルキリーさんの体の動きだけで攻撃を予測し、直撃を避けている。
体が人と同じなので出来ている芸当。

「いい加減諦めたらどうだ?人間如きにしては、中々良くやった方だろう。まさか私の攻撃をここまで回避し続けるとは」

ヴァルキリーさんは剣の攻撃を続けながらも喋る続ける。
その息は、全く上がっていない。

一方のオレは。

「はぁはぁ…そういう、わけにも…いかな…くて!」

喋る体力も、余裕も無いほどに押される。
徐々に息が上がり、疲労も溜まってきている。
…限界が近い。

最後の手段として。
ホームストーンをいつでも使えるように準備はしてある。
では何故逃げないかと言われれば、ヴァルキリーさんの目的も黒い球も何もかもが謎だらけ。
このまま逃げてしまっては絶対モヤモヤする。
謎が解けてスッキリしたい!

「なんで、人、をほろ…ぼそうと!」

反撃の出来ないオレは、情報を可能な限り引き出そうと、体力を振り絞り言葉を発する。
すると、ヴァルキリーさんの手が止まった。

「何故その事を…?お前何者だ?国の関係者か?」

お、オレの適当な言葉に、ヴァルキリーさんが乗ってきたぞ!
これは情報を聞き出すチャンスだ!

「はぁはぁ…オレも…まだ詳しい事までは、聞いていない。ただ、聞いた情報と…合わせる事で、そう思っただけだ」

「そうか…なら我々神の目的も、上に居る存在も、知っているのか?それならば…私のしている事が、目的の為の前準備に過ぎない事は分かっているのだな…」

あっさりと出ました新情報。
このヴァルキリーさん、駆け引きが致命傷レベルに下手だ…。
一方的にベラベラと情報を流してくれる。

(えーと神の上が居て、神には何か目的があって、それには国が関係している?)

ゲームで神の上となると運営だろうか?
ただゲームの中で、運営が出てくるのは腑に落ちないな。
…もう少し聞き出したいところだ。

「今のプロテアを襲っても、プレイヤーへは被害がほぼ無いと思うが…目的は恐らく、NPCだろう?」

弱いうちにプレイヤー倒してもデスペナなんてたかが知れている。それならもしかしたら…。

「そうだ!オーディン様はプレイヤーでは無く、NPCを狙う作戦を思いついたのだ!NPCを襲うことで、プレイヤーの戦力増加を前もって妨害するのだ!あぁ…何と素晴らしい作戦なのだろう!」

(うわぁ…このヴァルキリーさん全部喋っちゃったよ)

魔物にプロテアを襲わせ、NPCに被害を出すことでプレイヤーが強くなる事を妨害する。
確かに主要NPCを潰せば、特定のジョブに就けなくなったり、スキルの取得が出来なくなったりするかもしれない。

(ただそれはNPCが復活しない場合なんだが…)

「プレイヤーで恐らく主となってくるのは、騎士とプリーストだろう?その職を斡旋しているプロテア教会を潰せば、我々の勝ちも同然だ!」

ヴァルキリーさんは次々と喋り、終わると高笑い。

どうやら神とその上の存在とやらは、プレイヤーを潰そうとしているようだ。

そして神側は既に動いており、裏工作を開始している。
対してプレイヤー側は何も情報が分かっておらず、そのような状況で対応出来る訳が無い。
オレはたまたま馬鹿なヴァルキリーさんから聞けたが。
これプレイヤー側詰んでない?

「我々が勝てば、こんなゲームの中だけでなく…現実へと行く事が出来る!そうなれば…現実でも人間共は終わりだ!」

「は?ゲームの外?現実?」

予想外の内容に思考が追いつかない。

(え?ゲーム内の設定で神と人が戦うんじゃないの?この戦いに負けると現実に何か起きるの?)

「その神々の上の存在とやらは、そこまで約束したのか?」

「ああ!このゲームで我々が勝てば、現実世界でその存在を実現してくれると約束した!」

うーん。神を現実世界で作るのは、流石に無理じゃないかな。
そうやって神々をやる気にさせてるだけか?
もし上の存在が運営だとすると、神々に暴れさせてRDOの世界を破壊したいんだろうか。
破壊したら返金案件で倒産確実な気がするんだけど。

「さて、話が長くなってしまった。関係者という事であれば、尚更死んで貰わないと困る」

(情報を聞けるボーナスタイムはこれで終わりか)

ヴァルキリーさんマジ感謝。
さてまだ謎は解けてないけど、情報は聞けるだけ聞いたし…後は。


ヴァルキリーさんが喋り終える前に、オレは全力で駆けだした。
目的は黒い球。
ヴァルキリーさんは完全に不意を突かれ、オレの行動に気付くのが遅れた。
焦ってオレの背中に向けて剣を振るおうとする…が。

オレに剣が当たるより前に、ナックルが黒い球に届く。
黒い球は割れ…眩しい光を放つ。

「くっ!」

ヴァルキリーさんが剣を振りながら呟き、オレの背中へと迫る。

オレは前のめりに倒れて剣から離れつつ、懐からホームストーンを取り出し、砕く。
するとオレの体は転送のエフェクトに包まれる。
また、それとほぼ同時に剣が届く…が。その剣は壁にあたったかのように弾かれる。

「危ねぇ!あー…ヴァルキリーさん。有益な情報有難うございました」

鬼のような顔をしたヴァルキリーさんを見ながら、そう呟くと…森の風景は消え、視界が切り替わっていった。

------

残されたのは戦乙女ヴァルキリー。

「くそっやられた!あの男…絶対に許さん!」

残されたヴァルキリー。
彼女は四つん這いで地面に手を叩きつけて悔しがる。

「だが、顔は覚えたぞ。絶対に私が殺してやるからな…」

迷いの森深部の広場。
そこではヴァルキリーの怒りが混じったその声だけが響いていた。
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