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2.そして少しずつ動き出す

43.迷いの森4 サイドワインダー

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サイドワインダーは顔をこちらに向け、様子を伺っている。
このレベルの敵になるとデフォルメされていない。
つまり見た目がリアルな蛇な訳で、嫌いな人は発狂するんじゃないかな。

サイドワインダーはある程度近づいても様子を伺うのみ。
本当は攻撃の様子を見て、カウンターで行きたかったんだけど…。

「仕方ないか。こっちから行くぞ」

オレはそう呟くと、全力で駆けてサイドワインダーへと近づく。
サイドワインダーは近づいてくるオレに合わせ、噛み付こうと口を開けて頭を動かす。

攻撃範囲に入った途端にサイドワインダーの噛みつきがオレを狙う。
何とか体を捻り、紙一重で噛み付きを回避。
隙とみたオレはサイドワインダーの頭部をナックルで殴る。

頭に強打が入りその脳を揺らし…サイドワインダーが少しよろめく。
だがここで攻撃は止めない。反撃に出られれば力で押し負ける。
オレは頭部に向かって攻撃を続ける。

だがサイドワインダーは攻撃される一方では無い。
オレが気がつかない内に、巨木に撒きついている巨体を解いていたようだ。
死角から尾をムチのようにしならせ、薙ぎ払ってきた。

頭に集中していた事もあり、気付いた時にはもう尾による攻撃が迫っていた。

「…ッ!回避が間に合わない!」

サイドワインダーの尾による衝撃の瞬間、オレは両手のナックルでガードし、更に衝撃を減らす為に攻撃が来る反対へと跳んだ。

オレの両腕を尾による衝撃が襲い、骨が軋む…。
まるでトラックに轢かれたような衝撃に、オレは後ろへと大きく吹き飛ばされ数m先にあった木へと打ちつけられる。
肺の中の空気が吐き出される。

「カハッ…ゴホ……」

咳き込むと口から血が飛び出す。
そして痛みに胸を抑える。

(…これは内臓がやられたな…あばらも数本いってるかもしれない…)

たった一撃受けただけでHPバーは一気に減り、オレのHPは10%の位置で辛うじて止まっていた。

もしも次に攻撃が掠りでもすれば、死ぬ。
そしてHPを回復するにも持っているのは下級ポーションばかりで、気休め程度にしか回復しない。
甘く考えすぎていた…上級ポーションを買っておくべきだった。

オレは痛みでふらつきながら、立ち上がる。
サイドワインダーはゆっくりとその巨体を近づけてくる。
距離はそう遠くなく、ヒールで回復している余裕も無い。

(さて、どうすれば勝てるか)

恐らく近づけば、また尾による攻撃が来るだろう。
アレを掠りもせずに避けれるだろうか?
答えは、無理だ。
であれば残るのは一か八かのギャンブル。
オレの最大火力でサイドワインダーの尾に打ち勝ってやる。

オレは腰を落として右手を下げて構え、サイドワインダーをその場で待つ。
その間にも胸の痛みは続き、ゲームだというのに気を失いそうになる。
オレとの距離を詰めていたサイドワインダーが途中で止まる。

(…来る!)

奴はその長い身体を捻り、オレの射程外から尾による攻撃を放つ。
オレはすぐに連打拳キャンセルからの粉砕拳。
オレの右手と恐ろしい程の速度で迫る尾が、衝突した。

現実であればサイドワインダーの質量により押し負けるのは間違いなくオレだ。
だがこれはゲーム。威力が高ければ、押し勝てるのでは無いか?

「おらあぁぁぁっ!!いけええぇぇぇッ!」

衝突と同時に叫ぶ。
粉砕拳に体重を乗せて、最大の威力を出す。
それは一瞬の出来事だろうが、その衝突が、とても長く感じられた。
……衝撃はほぼ互角。

だがオレの右手が、徐々に押し始めると、その直後にサイドワインダーの尾が大きく弾かれる。

(この隙が最後のチャンス…!)

サイドワインダーの頭目掛け、ぶん殴る。
もう次は無い、とにかくがむしゃらにナックルを打ち込み続ける。

必死で何発殴ったかは覚えていない。

ただ気がついた時には、サイドワインダーの巨体は消えていて、黒蛇の鱗のみがそこに存在していた。

「よっしゃああああっ!!」

ギリギリの戦いだった。
少し前なら途中で確実に逃げていただろうが…。
たかが蛇に負けているようじゃ、神なんて夢のまた夢。

オレは勝利に喜び、一人拳を掲げて強く握り締めた。

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そして…。

サイドワインダーとの戦いを終えて回復を終えたオレは、桟橋の先…森の深部へと渡った。

深部の奥の広場…そこには、白い羽を生やし白と水色の鎧を着た女性。


神話で語られる"戦乙女"が佇んでいた。
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