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2.少年と不運の少女
幸運少年と大企業 後日談
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ーーーーーー
——騒動から一週間後のJHW本社、社長室。
そこにスキンヘッドでサングラスを掛けた男性と、小太りのJHWの社長がソファーで向かい合い、その横には警備と思われる男性。
「なあ、社長さん。JHWの今月の売上、大変な事になってるらしいじゃねえか?」
スキンヘッドの男性——グンセが、ソファー前の机に足を上げてふんぞり返りながら話す。
「そ、それはそれは大変な事態で……このままでは、社員が路頭に迷ってしまいます。それでなんですが、お願いが……」
対する社長は足を綺麗に揃え、手を組みながらグンセの様子を伺いながら話している。
「あ?何でテメェから要求してきてやがる?立場、分かってんのか?」
サングラス越しからでも分かるその圧力。
「ヒッヒヒィイイ!!すみませんすみません!!何卒!何卒お許しください!」
その様子を見ていた警備の男性——早川は、その光景に苦笑いしている。
「おい、社長さん」
「は、はい!」
「小耳に挟んだんだが、おたく、日本のDH協会と裏で武具の横流ししてるらしいな?」
その言葉に社長は目を泳がせる。
「な、何の事でしょうか?DH協会はご贔屓にさせて頂いていますが、そ、それ以上の関係は何も……」
グンセは足を戻し、前のめりの体勢になる。
「本来、ダンジョンで死んでしまったDHの装備や道具が回収された場合、遺族や関係者に届けられる筈だ。それが何故だか、おたくが販売してるって噂があるんだよなあ……」
社長は汗だくになっており、ハンカチでその汗を拭う。
「ま、まさか!そんな訳……」
「……最後まで聞けよ。もしその取引の証拠が貰えるなら、俺らは最低限の条件だけで市場から撤退しても良いぜ?」
「……」
社長のハンカチは限界を迎え、スーツも肩から順に紺から黒に染まり始めていた。目はグルグルと泳ぎ、口をパクパクしている。
「さあ、社長さん……どうするよ?」
グンセは社長に顔を向けながら、口角を上げてニヤリと笑う。
そして、ついにJHW社長のスーツは全身が黒く染まった。
ーーーーーー
——青山にある夜叉神家。
黒髪の少女夜叉神 ヒメと、その父親である夜叉神 秋生がリビングで寛いでいる。
「——お父さん、仕事はどうなったの?」
「……それが、自主退職という扱いになった。本来なら間違いなく懲戒解雇だった筈なのだが……何故こうなったかは私には分からない」
夜叉神はコーヒーを一口飲み、話を続ける。
「JHWは同業企業への謝罪と、今まで行っていた価格設定の撤廃、それと日本ダンジョン工業との提携も破棄。それに伴い株価は値下がりはしたが、踏み止まり倒産は免れた。まあ……そこは彼等がうまく調節したのだろうな。訴訟問題になっていないのがその証拠だ」
「あ、あの二人、敵に回したら恐ろしいわね……。その気になれば日本DH協会まで潰しそうじゃない」
「グンセを慕っている上級ランクのDHも多い。もし力で捻じ伏せれるとしたらオリハルコンランクでも引っ張って来ないと無理だろう。……日本DH協会には厄介な相手だろうな」
「はあ、あの二人どこへ向かってるのかしら……。日本でも乗っ取るつもり?」
「はは……本気を出せばやりかねないな。いや、或いは——」
そこで夜叉神のスマートフォンに着信が入る。
夜叉神は画面を確認すると真面目な顔に代わり、通話を始める。
「……久しぶりだな。……ああ。出来れば一度会ってくれないか」
ヒメはその通話を口を固く結び真剣に見守る。
「……そうか。……ありがとう。……ヒメは元気にしている。後で伝えておく」
夜叉神はそこで電話を切り、大きく息を吐く。
そこにヒメが話し掛ける。
「もしかして……」
「ああ。今度会う事になった。……精一杯謝ってくるさ」
夜叉神は無愛想に呟く。
——ヒメは、その様子を微笑みながら見守っていた。
ーーーーーー
——日本DH協会、本部。
「な、何故だ……何故この件がバレている……」
日本DH協会会長の#渡馬_わたりうま__#は、自身に送りつけられた手紙の中身を見て驚愕していた。
そこにはJHW社長と共謀して行っていた、ダンジョン内で死亡したDHの遺品の横流しに関する資料、そして証拠となるデータが添付されていたのだ。
「——ま、まさか!JHWが裏切ったのか!!」
渡馬はJHWが何者かの策略により売上が落ちていることは知っていた。もしかしたらその人物に脅されて情報を売った、という可能性を思いつくのも当然かもしれない。
「スライムショックは乗り切ったが、これはマズい……!もしバレたらDH達の暴動が怒る……ッ!!」
その手に持った手紙には、『最後』という文字が書かれていた。
ーーーーー
※ムノ視点
——それから更に数週間、歌舞伎町のグンセの店。
僕の目の前では黒髪の美しい少女が、スタドのカップで飲み物を飲みながら黒い本を読んでいる。
その光景は一枚の有名な絵画のように完璧な構成で、誰もが息を飲んでしまう。……だが、その光景にはひとつだけ問題がある。
いや……彼女がその澄まし顔で読んでいる本、"世界終焉の書 ワールドエンド" なんだ。
しかも、進化した事で更に禍々しくなってるんだ。
というか、何故彼女はまたお嬢様学校の制服姿なんだ。
「はぁ……」
——僕はため息を吐きながら彼女へと近づいていき、向かいの椅子へと座る。
そんな僕に気付いた彼女は、僕にDH免許を見せながら……フッと優しく微笑んだ。
——騒動から一週間後のJHW本社、社長室。
そこにスキンヘッドでサングラスを掛けた男性と、小太りのJHWの社長がソファーで向かい合い、その横には警備と思われる男性。
「なあ、社長さん。JHWの今月の売上、大変な事になってるらしいじゃねえか?」
スキンヘッドの男性——グンセが、ソファー前の机に足を上げてふんぞり返りながら話す。
「そ、それはそれは大変な事態で……このままでは、社員が路頭に迷ってしまいます。それでなんですが、お願いが……」
対する社長は足を綺麗に揃え、手を組みながらグンセの様子を伺いながら話している。
「あ?何でテメェから要求してきてやがる?立場、分かってんのか?」
サングラス越しからでも分かるその圧力。
「ヒッヒヒィイイ!!すみませんすみません!!何卒!何卒お許しください!」
その様子を見ていた警備の男性——早川は、その光景に苦笑いしている。
「おい、社長さん」
「は、はい!」
「小耳に挟んだんだが、おたく、日本のDH協会と裏で武具の横流ししてるらしいな?」
その言葉に社長は目を泳がせる。
「な、何の事でしょうか?DH協会はご贔屓にさせて頂いていますが、そ、それ以上の関係は何も……」
グンセは足を戻し、前のめりの体勢になる。
「本来、ダンジョンで死んでしまったDHの装備や道具が回収された場合、遺族や関係者に届けられる筈だ。それが何故だか、おたくが販売してるって噂があるんだよなあ……」
社長は汗だくになっており、ハンカチでその汗を拭う。
「ま、まさか!そんな訳……」
「……最後まで聞けよ。もしその取引の証拠が貰えるなら、俺らは最低限の条件だけで市場から撤退しても良いぜ?」
「……」
社長のハンカチは限界を迎え、スーツも肩から順に紺から黒に染まり始めていた。目はグルグルと泳ぎ、口をパクパクしている。
「さあ、社長さん……どうするよ?」
グンセは社長に顔を向けながら、口角を上げてニヤリと笑う。
そして、ついにJHW社長のスーツは全身が黒く染まった。
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——青山にある夜叉神家。
黒髪の少女夜叉神 ヒメと、その父親である夜叉神 秋生がリビングで寛いでいる。
「——お父さん、仕事はどうなったの?」
「……それが、自主退職という扱いになった。本来なら間違いなく懲戒解雇だった筈なのだが……何故こうなったかは私には分からない」
夜叉神はコーヒーを一口飲み、話を続ける。
「JHWは同業企業への謝罪と、今まで行っていた価格設定の撤廃、それと日本ダンジョン工業との提携も破棄。それに伴い株価は値下がりはしたが、踏み止まり倒産は免れた。まあ……そこは彼等がうまく調節したのだろうな。訴訟問題になっていないのがその証拠だ」
「あ、あの二人、敵に回したら恐ろしいわね……。その気になれば日本DH協会まで潰しそうじゃない」
「グンセを慕っている上級ランクのDHも多い。もし力で捻じ伏せれるとしたらオリハルコンランクでも引っ張って来ないと無理だろう。……日本DH協会には厄介な相手だろうな」
「はあ、あの二人どこへ向かってるのかしら……。日本でも乗っ取るつもり?」
「はは……本気を出せばやりかねないな。いや、或いは——」
そこで夜叉神のスマートフォンに着信が入る。
夜叉神は画面を確認すると真面目な顔に代わり、通話を始める。
「……久しぶりだな。……ああ。出来れば一度会ってくれないか」
ヒメはその通話を口を固く結び真剣に見守る。
「……そうか。……ありがとう。……ヒメは元気にしている。後で伝えておく」
夜叉神はそこで電話を切り、大きく息を吐く。
そこにヒメが話し掛ける。
「もしかして……」
「ああ。今度会う事になった。……精一杯謝ってくるさ」
夜叉神は無愛想に呟く。
——ヒメは、その様子を微笑みながら見守っていた。
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——日本DH協会、本部。
「な、何故だ……何故この件がバレている……」
日本DH協会会長の#渡馬_わたりうま__#は、自身に送りつけられた手紙の中身を見て驚愕していた。
そこにはJHW社長と共謀して行っていた、ダンジョン内で死亡したDHの遺品の横流しに関する資料、そして証拠となるデータが添付されていたのだ。
「——ま、まさか!JHWが裏切ったのか!!」
渡馬はJHWが何者かの策略により売上が落ちていることは知っていた。もしかしたらその人物に脅されて情報を売った、という可能性を思いつくのも当然かもしれない。
「スライムショックは乗り切ったが、これはマズい……!もしバレたらDH達の暴動が怒る……ッ!!」
その手に持った手紙には、『最後』という文字が書かれていた。
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※ムノ視点
——それから更に数週間、歌舞伎町のグンセの店。
僕の目の前では黒髪の美しい少女が、スタドのカップで飲み物を飲みながら黒い本を読んでいる。
その光景は一枚の有名な絵画のように完璧な構成で、誰もが息を飲んでしまう。……だが、その光景にはひとつだけ問題がある。
いや……彼女がその澄まし顔で読んでいる本、"世界終焉の書 ワールドエンド" なんだ。
しかも、進化した事で更に禍々しくなってるんだ。
というか、何故彼女はまたお嬢様学校の制服姿なんだ。
「はぁ……」
——僕はため息を吐きながら彼女へと近づいていき、向かいの椅子へと座る。
そんな僕に気付いた彼女は、僕にDH免許を見せながら……フッと優しく微笑んだ。
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