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2.少年と不運の少女

幸運少年と大企業 2

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 その次の日もまたシャドウウルフを狩り続ける。

 四階ともなると、移動だけで一時間以上の時間が掛かってしまい、思ったようにシャドウウルフの皮が集まらない。

 昨日の狩りの結果、二往復で400枚程度の皮を集める事ができたが、そんな量では計画に移るまでに長い時間が掛かってしまう。
 僕はその事に焦りを感じ始めていた。

「もっと早く集める方法は無いのか……」

 シャドウウルフを流れ作業のように倒しながら、妙案でも浮かばないか思案する。

 マジックバッグをもっと等級の高い物にすれば、移動時間分の効率は良くなるかもしれないが、それだけではまだまだ1日1000個にも満たないだろう。——それじゃ、まだ足りない。

「うーん……」

 僕がそんな事を呟いていた時、不意に男女が叫ぶ声が聞こえて来る。

「な、なんでシャドウウルフがこんなに!」
「ダメ!今ので魔力切れよ!」

 その声の先には男女のペアのパーティー。彼らはシャドウウルフ二匹と対峙しており、どうやら攻撃に耐えるのが精一杯になっているようだ。

 剣を持つ男性がシャドウウルフ二匹の攻撃を何とか捌いてはいるが、彼には攻撃に移るだけの余裕は無さそうだ。
 そして杖を持つ女性は魔力切れか、男性の後ろでオロオロするだけで何かをする素振りはない。

「シーアだけでも逃げろ!」

 男性が声を荒げ叫ぶ、が。

「そんな!ダメよ!」

 女性はその場を離れる気はなく、その状況に戸惑うばかり。

「……マズいな」

 その女性の後ろには、更にシャドウウルフが近寄って来ている。
 二人はその事に全く気付いていない様子だ。

 この状況を作ったのは僕のせいでもあるし、助けなければならないだろう。

「後ろ!」

 僕は二人に駆け寄りながら、叫んで女性に注意を促す。
 その声に女性は振り向く——が。その時には、シャドウウルフが襲い掛かって来る寸前だった。

「キャッ!」

 シャドウウルフの鋭い爪が女性に迫る。
 
 チッ、これじゃ間に合わない——。

「"光弾"!」

 そう叫ぶと、僕の手から光の弾が高速で飛んでいく。その光の弾は、襲い掛かるシャドウウルフの横腹に直撃し、僅かにだがその爪の攻撃をズラす。

「くっ——」

 僅かにズレたおかげで女性は爪の直撃を免れるが、左の二の腕を爪に抉られ、その腕からは血が噴き出す。

「シーア!」

 剣を持つ男性が女性のフォローに入ろうとするが——それは悪手だ。


「僕が彼女を助けます!あなたは二匹に集中して!」

「だがっ!……くっ」

 男性にもまた攻撃が襲いかかり、男性は辛うじてその攻撃を捌く。

 後ろのシャドウウルフは再度飛びかかろうとする——が。
 その瞬間、シャドウウルフと女性の間に僕が割り込み、両手で聖剣を振り下ろす。すると狼の身体は半ばから両断され、その姿は消失する。

 僕はそのまま男性側へと回り、残る二匹も倒していく。

ーーーーーー

 僕は他にシャドウウルフがいない事を確認して声を掛ける。

「——大丈夫でしたか?」

 僕の目の前には、助かった安堵からか背中を合わせて座り込んだ20代の男女。女性は左腕を抑え、痛みで顔を顰めている。
 
「あ、ありがとう。助かったよ」
「……ありがとう、助かったわ」

 僕は女性に近づき、血の流れる左腕を見る。

「怪我をした腕、見せていただけますか?」

 僕の言葉に女性は怪我をした左手を前に出す。
 僕はマジックバッグから上級ポーションを取り出し、怪我で血が流れる二の腕に少しずつかける。

 すると傷はみるみるうちに塞がり、まるで傷が無かったかのように綺麗な皮膚へと戻り、そこに残ったのは流れ出た血の跡だけ。

「えっ!?」

 女性は驚きで目を見開く。

「あ……すいません。勝手にポーション使ってしまいましたが、何か問題有りましたか?」

「い、いえ。ポーションの効果が凄かったので驚いちゃって。ありがとう」

 そのやり取りを見ていた男性が真剣な顔で話しかけて来る。

「まさか……今の上級ポーションですか?」

「ええ、そうです」

「そ、そんな!上級ポーションなんてそんな高い物、今返せるお金が!」

 消耗品のポーションとはいえ、上級となると20万円程度の値段はする。その代わり——中級や下級とは比べ物にならない回復効果を発揮する。

「あ、そんなのサービスで良いですよ。僕が勝手に使っただけなので」

 元はと言えば、シャドウウルフの大量発生は僕のせいでもあるし。彼らはそれに巻き込まれただけ。むしろお詫びに何かプレゼントしたい位だ。

「「……?ええっ!?」」

 二人は声を合わせ、口を大きく開けて驚く。

「じゃ、僕はこれで。今"何故か"シャドウウルフが大量発生しているので、気をつけて下さい。あと、そのせいで皮の値段も下がると思うので、他の魔物を狩ったほうが良いかもしれませんよ」

 僕はそう言って立ち去ろうとする——が。

「「待って下さい!」」

 二人は声を合わせて僕を呼び止める。それにしても、この二人息ピッタリだな。

 僕が動きを止めた事を確認すると男性が話し始める。

「命を助けていただいただけでなく、上級ポーションまで使って頂いて、何もお返しをしない訳にはいきません。すぐにお金で返すのは無理ですが、何か僕達に恩返しが出来る事は有りませんか?」

 そう話す男性は、とても真剣な表情だ。
 僕は明らかに年下だというのに、そんな事など全く気にした素振りは見せず、本気で恩を返そうとしているようだ。

 この様子ならば、もしここで断ってもこの男性は食い下がってくるだろう。

「……」

 僕は男性の目を見つめる。その目はとても嘘を言っているようには見えない。それなら、信じてみても良いかもしれない。

「それなら……」

「はい」

 男性は僕の言葉を固唾を飲んで見守る。

「バイト、しませんか?」

「……は?」

 男性は呆気に取られて真剣な表情を崩し、口をポカンと開けたまま固まった。
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