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1.無能の少年と古い箱

孤児院 4

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 数十の構成員に取り囲まれ、四方から来る攻撃を攻撃を何とか防ぎ続ける。

 ナイフや剣の刃物には剣で、鉄パイプ等の鈍器には奈落のローブを巻いた左手で対応する。

 けれど対応しきれない攻撃もある。それは——魔法。

 DHと思われる杖を持った構成員が、火の矢や石の弾丸を放つ。
 
「くッまたか!!」

 僕の背中に大きな衝撃とかなりの熱を感じる。装備による軽減はあるが、それは僕の体力を確実に削っていく。
 
(魔法を使う相手との戦いを経験しとくべきだった……!!)

 ダンジョンの上層部では魔法を使って来る魔物は少なく、おまけに聖剣の火力任せの戦いをしてきた僕には圧倒的に戦闘経験が足りない。

 対する構成員は抗争を経験し、戦闘経験は豊富。

 ステータスこそ上回っているが、経験不足から来る隙は隠しようがなかった。

 周囲には余裕余裕綽々に、ニヤニヤと笑う構成員達。それもまた、僕を焦らせていた。

 蹴りや聖剣の柄により数人倒すことができたが、それ以上に構成員は集まって来る。


 そして一番の弱点は——。

「おいコイツ人を斬れねぇみたいだぜ!」

 構成員の1人が叫ぶ。


 聖剣で武器を弾き、その隙に剣を斬りつけようとする。だがその剣筋は、構成員の胴スレスレで止めてしまう。


「くそッ!」


 僕は今まで人と剣での殺し合いなんてした事がない。

 そのせいで人を斬る事に戸惑い……どうしても寸前で躊躇してしまう。
 一方の構成員達は本気で僕を殺そうと襲って来る。
 
 殺し合いに躊躇する者としない者。その事も戦いを不利にさせる大きな原因となってしまっていた。


 構成員の1人の鳩尾を蹴り飛ばす。

 だが剣ならその時間で2人は斬れていた。

 そしてまた後方から魔法による攻撃が直撃する。

「おやおや。人も斬れないような甘ちゃんが、ヤクザに喧嘩を売ったと。これは笑えるねぇ。それで勝つのは無理があるんじゃ無いかねぇ……」

 椅子に座った長髪の男がそう呟く。

「あと……人を斬る覚悟も無いような奴が、何かを守れるなんて思うんじゃねぇぞガキが!舐められんのが一番嫌いなんだよ!早く諦めて死ね!テメェら早くやっちまえ!!」

 男が語尾を強めて構成員に発破をかけると、攻撃は更に激しくなる。

 僕の身体に増えていく傷。さっき殴られた頭からは血が流れ、視界を赤く染める。

「ハァッ……ハァッ……」

 更に僕の体力も限界に近づいてきた。ポーションを飲めば回復出来るかもしれないが、悠長に飲んでいる暇も無い。

 ——次第に死が近づいているのを感じる。

パァン

 発砲音と共に、僕の右足に痛みが走る。
 目を向けると右太腿部のヘルの服に丸い穴が開いていて、そこから血が流れ出している。

「ハッ!特注のミスリル製の弾だぜ。コレならてめぇも防ぎきれねぇみたいだな!」

 リボルバーを持った構成員が叫ぶ。
 すぐに潰そうと動こうとするが——右足が動いてくれない。

「動けって…!」

 足を引きずり構成員に近づこうとするが、相手が離れるのが早く距離は詰まらない。

「おい!囲め!銃でやるぞ!!」

 その声と同時に僕の周囲に居た構成員達は離れ、拳銃やリボルバーを持った構成員達が前に出る。

 僕の目の前には半円状に広がり銃を構えた構成員達。足もまともに動かず、躱すことも難しい。



(これで、終わりか——)



 何故今までのように逃げなかったのか。装備で強くなり、何にでも勝てるつもりになっていた?
 所詮僕は無能で、何も変わって居なかった?

「ハッてめぇのその装備は俺達が有効活用してやるよ。無能でもそれだけ強くなれるんだ。俺達が使えばもっと強え」

「「「それは違いねぇ!!」」」

 構成員達の笑い声が響く。

「おいてめぇら!さっさとやれ!」

 長髪の男が叫ぶ。

「へい!」


(悔しい…!僕は最後の最後まで無能と罵られ死ぬのか!?それじゃ何も変わって無いじゃないか!それなら……死んででも1人くらい……!!)

 ——聖剣を強く握りしめ覚悟を決める。

「やれッ!!」



 ——その瞬間、時の流れが緩やかに感じ、全ての動きが見えた。

 構成員達が引き金を引く動作も、構成員達が下衆な笑いをする表情も。

 僕は無事な左足に全ての力を込めて——、一歩踏み出す。

 銃弾が飛んで来るのが見える。何発かは僕の身体に確実に当たる位置だ。頭だけは当たらないよう、顔を僅かに逸らす。



 ——その瞬間だった。横から急に現れた人影が僕の視界を防ぎ、聖剣を持つ手を押さえつけた。

 そして、金属同士が衝突する音。



「ガキには人を殺るのはまだ早え」


 
 視線を少し上げると、鍛え上げられた身体に、髪が無くサングラスを掛けた厳つい男性。



「こう言うのは俺の仕事だろ?」



「グンセさん——ッ!!」

 ——僕の目の前には、フッと笑った顔のグンセさんが僕を守るように立ち塞がっていた。
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