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新章 魔導士シルドの成り上がり ~復縁を許された苦労する大公の領地経営~

第三十五話 城塞都市アーハンルドの闇 4

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(僕だけの騎士、か)
 シルドは内心、嬉しさが溢れていることを楽しんでいた。
 母上、あなたに捧げた言葉が、エイシャになり。
 アルアドル卿はアルメンヌに‥‥‥
 どうか善き仲になって欲しい。
 亡き母の面影をアルメンヌにふと見出しながら、シルドは階下に降りていった。
「やあ、イルバン卿。
 気分はどうだ?」
 階下にはムスっとした顔で椅子に腰かけるイルバン卿と、ふん、仕方ない奴だ。
 そんな視線で彼を見るアルム卿が控えていた。
 イルバン卿はアルメンヌを見ると、やはり恨みがましい目でにらんでいる。
 アルアドル卿がその視線を遮るように、アルメンヌの前に立ちふさがる。
 若き騎士と、主への忠誠心を変えれない騎士との邂逅。
 これは道中、また揉めるな。
 シルドはそう嘆息した。
「旦那様‥‥‥」
 アルメンヌは素直に怯えてシルドの腕にしがみついていた。
 無理もない、殺されたのだから。
「大丈夫だ、お前。
 安心しろ」
 お前?
 ああ、そうね、旦那様。
 もう始まっているのね、わたしたちの演技は‥‥‥
「閣下、なぜ殺されないのですか――屈辱感を舐めて味わえと?
 そうおっしゃりたいので?」
 挑発しつつも、シルドにどこか怯えているイルバン卿はアルメンヌから見れば滑稽だった。
 まるでかなわないと知りつつも、犬が尾を垂れ下げて吠えているようにしか見えなかったからだ。
「それくらにしておけ、イルバン。
 ここには、客が他にもいるんだ。
 騎士としてまた恥を上塗りする気が?」
「しかし、アルム卿。
 なぜ、アルメンヌをかばう?」
 言ってもよろしいので?
 そう、アルム卿はシルドを見上げた。
 かまわん、そう主がうなづいたのを見て、アルム卿はイルバン卿に宣告する。
「昨夜から、アルメンヌを閣下は側室に迎えることとされた。
 わかるな?
 子爵様よりも階位が上だ。
 それがどういうことか、お前なら理解できるだろう?」
 ふふんと不敵に笑って見せるシルドとアルメンヌをイルバン卿は狂ったものでも見るように叫んだ。
「ばっ、ばかな!?
 そのような血筋すら!!」
「血筋?
 ユニス殿下の母上は高家の出。
 それに連なるならば、何も問題はない。
 違うかな?」
「しかし、それは、いえ‥‥‥アルメンヌ様は――それに相応しい生い立ちでは‥‥‥」
「あのな、イルバン卿の主君への騎士道を貫いた。
 それは誉めよう。評価もしている。
 意味が分かるか?」
 シルドの問いかけに彼は頭を捻った。
 その意図がどうしても理解できないからだ。
「私の騎士道をお褒め頂き光栄ですが、閣下。
 それがどう、関りが?」
「その主君からの本命は、このアルメンヌの命か?
 それとも、僕の補佐か?
 君の中での一番の課題は主命を成し遂げることだろう?
 それは、正直に聞こう。
 どちらだ?」
 そんなことを聞かれて、アルメンヌの命です。
 などとは口が裂けてもいえるものではない。
「かっ、閣下の御供を成すことです、シルド大公閣下‥‥‥」
 だ、そうだ。
 安心したか、アルメンヌ?
 シルドは腕にしがみついて離れない彼女の頭をそっと撫でて言った。
「では、イルバン卿。
 協力してくれ。
 アルメンヌを守りながらな」
 困惑する全員を引き連れて向かうは子爵家。
 この城塞都市アーハンルドの闇の大元のところであった。

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