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新章 魔導士シルドの成り上がり ~復縁を許された苦労する大公の領地経営~

第二十一話 アルメンヌの嘆息 6

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「だ、抱き上げて、そんなこと、まで‥‥‥。
 そんな本心でもない言葉までーー‥‥‥」
 おいおい、言わせておいてなにを真っ赤になっているんだ?
 この言葉と態度が欲しかったんだろう?
 シルドは悪童に戻った時と、今までの経験を加算した意地悪さでアルメンヌを抱き上げたまま、壁際に押し付けてさらにささやいた。
「本心かどうかはさて、どうかな?
 君がこの旅のあとに欲しがっている安全?
 それとも、失うことのない何か。
 それはーーなんだろうね、アルメンヌ?
 俺なら、外見だの離縁されただの。
 そんな過去にこだわらずに愛する自信はあるぞ?」
「ばっ、馬鹿なことを!!
 あなた様にはエイシャ様がいるではありませんか!!」
 うん、そうだな?
 だが、それを差し置いてでも安息を欲しがったのは君だ、アルメンヌ。
 シルドはそっと悪魔のようにささやく。
「世界でも指折りの魔導士でさらに帝国の大公でもある。
 これ以上の安息を与えれる存在が‥‥‥他にいるのかな?
 なあ、俺のアルメンヌ?」
 ひどい‥‥‥!!
 あまりにもひどい言葉だ。
 甘い言葉とムチを使い分けて、まるで本当の魔導士が悪の道へと誘いこむように。
 そんな言われ方をされれば、心に陰のある女なら‥‥‥
「まさかーーエイシャ様までそうやってーー!!??」
 おっと?
 正気に戻ってしまったか。
 シルドは苦笑して、アルメンヌをそっとベッドの上に降ろした。
「いいや、それはないよ。
 あれは、うん。
 妻だけは、僕の全てなんだ。
 誰よりも、愛してくれている。
 この心の底にあった、憎しみの火すら‥‥‥あれは吹き消してさらに。
 そうだね、更に愛情をくれるんだから。 
 さて、それで満足はしてくれたのかな?
 足りなければ、側室という名目でどこかに屋敷を用意しよう」
「そんな簡単に言わないでください‥‥‥。
 足りる、足りないの話ではないし。
 何より、そんなことエイシャが許すはずがーー」
 そりゃ、妻は許さないだろうな。
 シルドはそんなことは理解している。
 もちろん、エイシャにそんな具申もするつもりもない。
 言うとすればその後ろだ。
「どうせ、いるのはユニス様だろ?」
 あっけなく黒幕を見破られて、アルメンヌは口をパクパクとさせるしかない。
 なぜ分かったのですか、そう言いたそうにする彼女にシルドは、
「面白いものだな。
 義姉上。
 とは言っても、実際は年下だ。
 それでいて、あの方は夫を皇帝にするためなら何でもするだろう。
 君を良い様に利用してでも、ね。
 あいにくと、僕はそういうことばかりを王国でしたきたからな。
 好きではないのさ。
 さ、そろそろ本題に入ろうか。
 まずは、この城塞都市の塔の中身だ。
 そこにどう生活をする構造があるのか。
 シェス大河の氾濫時にどう街が変わるのか。
 あの腐臭の原因は何なのか。
 どれも調べる必要がある」
「いきなりの本題に入られるのですね、旦那様は。
 腐臭の原因ですか?
 その意図が分かりかねますが、なぜこのかっこうが必要なんです?
 普通に大公様としてここの責任者を詰問すればいいではないですか」
 いやいや、それは無理だよアルメンヌ。
 シルドは苦笑する。
「この土地の管理は古いままだ。
 城塞都市の中でもまともに運営されていない。
 そんな自身の恥になるものをどうやって誰がみせたいと思う?」
「恥?
 それは隠すでしょう。
 でもそれすらも見れる権限をお持ちではないですか‥‥‥」
「権限はね?
 では、見に行く時間と場所をもし、指定されたら君ならどうする?」
 アルメンヌは言葉に詰まった。
 それはつまり、汚いものを排除する。
 そこにあるものを退ける。
 誰かがーー
「被害者がでる。
 そういうことですか‥‥‥」
「そう、だからこそ、だよ。
 下はタイツを履くなりそれは任せる。
 では階下にいるよ」
 部屋を出る時にシルドは一言だけ添えて出て行った。
「アルメンヌ、君は美しいよ」
 と。
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