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第二章 王国の闇と真の悪
第四十九話 密約と愛情と
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「なら、シルド様。
何年、待てばいいですか?」
何年?
そんな年数なんてすぐに言えるはずがない。
だが目算はついていた。
「4年。
4年は最低必要だ」
そうシルドは答える。
ミレイアは楽しそうにフフフフフ‥‥‥と呟いて、そしてシルドに宣言した。
「なら、6年」
「な、なに?」
「6年待ちますわ、シルド様。
その間、どうせ一度は奴隷になった身ですもの。
あなた様に、身も心も捧げて、貞淑な妻として支えると誓います。
でも6年でなって下さい」
ぐっと力を込めて。
ミレイアは剣の先をシルドの胸に押し当てる。
「な、何になれと、いうのだ?」
シルドは押し寄せる死への恐怖に耐えながら、聞き返す。
「大公にです。
そして、あの王子を廃嫡し、もし、王太子殿下を奉じることができたなら。
あなたを許します。
もちろん、エルムンド侯」
ミレイアは態勢を変えずに彼を見た。
「あなたにもわたしは弄ばれました。
その償いはしていただきます。
あなたには、シルド様への変わらない友情と。
そう、忠誠を誓って頂きますわ。
いまは上官であるあなたですけれど、シルド様が並ぶ候、もしくは公へと昇りつめた暁には‥‥‥
それをして頂きます!!!
でも、できないと言われるのならーー」
ミレイアは自身の首筋を剣の刃に押し当てる。
薄く、皮膚が切れて血が流れだした。
「いまここで、共に死にましょう?
さあ、どうされますか?
エルムンド侯、そして。
‥‥‥シルド様」
こんなにもーー女の怨念とはすさまじいものか。
エルムンド侯は動けずにいた。
眼前で繰り広げられる、ミレイアの狂気に当てられて。
シルドは考え、そして、たどり着く。
もう、小細工はやめようと。
どうせやるならば、これほどにまで言ってくれる。
いや、それは怨念や執着や、怨嗟も込められたものではあったが。
それでも、この少女はシルドへのそういった負の感情を捨てる代わりにあるものを要求している。
それは、全てを捨ててシルドと共に生きようという。
彼女の固い決意だと、そうシルドは悟った。
「わかった。
その条件、かなえよう」
「必ずですね?
ではエルムンド侯はどうなさいます?
まだお悩みですか?」
ミレイアはからかうようにエルムンド侯を問い詰める。
なんという娘だ。この年齢でこれだけの要求をしてくるとは、な‥‥‥
エルムンド侯は少し笑い、そして答えた。
「シルドは王族に連なる家柄。
もし武勲を上げれば、公爵も大公にもなれるだろう。
だが、わたしはどうあがいてもここ以上へはいけない。
その意味ではいずれは部下になるかもしれんな。
だが、シルドが同列の侯爵になるまでは‥‥‥」
「なるまではどうされますか?
エルムンド侯」
ミレイアは手綱を緩める気配はない。
だが、エルムンド侯も引く気はなかった。
「戦友であり上官だ。
何より、もしわたしがこれより上に昇れるのであれば、その時は容赦なく上に行く。
これは、王国の問題だからだ。
そこは譲れん」
やはりこの方は生粋の武人なのだな、とミレイアはそう思う。
これ以上の譲歩は無理だろう。
「誓って頂けますね、いまのお言葉を」
エルムンド侯は大きくうなづいた。
「ああ、誓おう。
あなたに恥をかかせた罪を、この身に背負ってな」
ミレイアは一応の納得をした。
あとはシルドだった。
ミレイアは再度確認する、必ずですね、と。
シルドは最初に求婚した時のあの強さと優しさを持ってそれに答えた。
「ああ、必ずだ。
出来ない時には、共に死のう。
なあ、僕の妻よーー」
その言葉に、ミレイアは剣を捨て去る。
そして力尽き果てたようにシルドの腕の中に倒れこんでしまった。
消えかかる意識の中で、ミレイアはシルドに告げて意識を失った。
彼女の最後の返事、それは・・・・・・
「はい、旦那様‥‥‥」
だった。
何年、待てばいいですか?」
何年?
そんな年数なんてすぐに言えるはずがない。
だが目算はついていた。
「4年。
4年は最低必要だ」
そうシルドは答える。
ミレイアは楽しそうにフフフフフ‥‥‥と呟いて、そしてシルドに宣言した。
「なら、6年」
「な、なに?」
「6年待ちますわ、シルド様。
その間、どうせ一度は奴隷になった身ですもの。
あなた様に、身も心も捧げて、貞淑な妻として支えると誓います。
でも6年でなって下さい」
ぐっと力を込めて。
ミレイアは剣の先をシルドの胸に押し当てる。
「な、何になれと、いうのだ?」
シルドは押し寄せる死への恐怖に耐えながら、聞き返す。
「大公にです。
そして、あの王子を廃嫡し、もし、王太子殿下を奉じることができたなら。
あなたを許します。
もちろん、エルムンド侯」
ミレイアは態勢を変えずに彼を見た。
「あなたにもわたしは弄ばれました。
その償いはしていただきます。
あなたには、シルド様への変わらない友情と。
そう、忠誠を誓って頂きますわ。
いまは上官であるあなたですけれど、シルド様が並ぶ候、もしくは公へと昇りつめた暁には‥‥‥
それをして頂きます!!!
でも、できないと言われるのならーー」
ミレイアは自身の首筋を剣の刃に押し当てる。
薄く、皮膚が切れて血が流れだした。
「いまここで、共に死にましょう?
さあ、どうされますか?
エルムンド侯、そして。
‥‥‥シルド様」
こんなにもーー女の怨念とはすさまじいものか。
エルムンド侯は動けずにいた。
眼前で繰り広げられる、ミレイアの狂気に当てられて。
シルドは考え、そして、たどり着く。
もう、小細工はやめようと。
どうせやるならば、これほどにまで言ってくれる。
いや、それは怨念や執着や、怨嗟も込められたものではあったが。
それでも、この少女はシルドへのそういった負の感情を捨てる代わりにあるものを要求している。
それは、全てを捨ててシルドと共に生きようという。
彼女の固い決意だと、そうシルドは悟った。
「わかった。
その条件、かなえよう」
「必ずですね?
ではエルムンド侯はどうなさいます?
まだお悩みですか?」
ミレイアはからかうようにエルムンド侯を問い詰める。
なんという娘だ。この年齢でこれだけの要求をしてくるとは、な‥‥‥
エルムンド侯は少し笑い、そして答えた。
「シルドは王族に連なる家柄。
もし武勲を上げれば、公爵も大公にもなれるだろう。
だが、わたしはどうあがいてもここ以上へはいけない。
その意味ではいずれは部下になるかもしれんな。
だが、シルドが同列の侯爵になるまでは‥‥‥」
「なるまではどうされますか?
エルムンド侯」
ミレイアは手綱を緩める気配はない。
だが、エルムンド侯も引く気はなかった。
「戦友であり上官だ。
何より、もしわたしがこれより上に昇れるのであれば、その時は容赦なく上に行く。
これは、王国の問題だからだ。
そこは譲れん」
やはりこの方は生粋の武人なのだな、とミレイアはそう思う。
これ以上の譲歩は無理だろう。
「誓って頂けますね、いまのお言葉を」
エルムンド侯は大きくうなづいた。
「ああ、誓おう。
あなたに恥をかかせた罪を、この身に背負ってな」
ミレイアは一応の納得をした。
あとはシルドだった。
ミレイアは再度確認する、必ずですね、と。
シルドは最初に求婚した時のあの強さと優しさを持ってそれに答えた。
「ああ、必ずだ。
出来ない時には、共に死のう。
なあ、僕の妻よーー」
その言葉に、ミレイアは剣を捨て去る。
そして力尽き果てたようにシルドの腕の中に倒れこんでしまった。
消えかかる意識の中で、ミレイアはシルドに告げて意識を失った。
彼女の最後の返事、それは・・・・・・
「はい、旦那様‥‥‥」
だった。
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