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第一章 婚約破棄と新たなる幸せ

第三話 フレゲード侯爵令息シルド

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「お姉さま、あの御方では」
 そう、エイシャがわたしに声をかけます。
 緑色のドレスがその菫色の瞳に映えていたエイシャは、その夜、晩餐会の華でした。
 対するわたしはなるべく、褐色の肌と赤髪を目立たせないように、黒を基調とした白の刺繍の入った控え目なドレス。
 それは、お母様が嫁入りの時に持参された、南方貴族の正装衣。
 最初、わたしがそれを着ることにお父様は反対されました。
 けれど、叔父様は違っていました。
「お前の良いところは、これまで多くの事に耐えてきたことだ。その皮膚の色、髪の色、奇異の目もたくさんあっただろう。その多くの貴族の子弟が知らないであろう、悲しみがこれからは大事になる。お前たちを利用するようで、それは心苦しいことだ。だが、どうか良い伴侶を迎え、幸せになっておくれ。両国の架け橋の一つとしてそれを着なさい、ユニス。胸を張るのだ」

 その言葉を叔父様にいただいた時、わたしは理解したのです。
 己の出自に恥じることなく、この国の為に。
 新しき、だんな様の善き伴侶になるよう、努力しようと。
 そしていま、
「そうね、エイシャ。
 あの御方のようですね、わたしの」
 新しきだんな様。
 ルゲール王国、フレゲード侯爵令息シルド様。
 わたしたち帝国側の貴族令嬢は、その爵位ごとに上座から下座へと並びます。
 わたしも右手側には十数名の王家、侯爵家に連なる御令嬢の方々。
 その誰よりも、頭一つ、いえ二つほど背の高いわたしは、わたしたちの前列に並んだ帝国令息の方々と変わらないほどに。この背の高さがわたしが求婚をされない理由の一つでもありました。
 それに対して、末席にではありますがエイシャの美しく、可愛いこと。
 もうすでに、十数件の王国はおろか帝国・枢軸連邦の貴族さまたちからも求愛を受けています。
 わたしたちの二列に相対するようにして帝国の令息・令嬢の方々が二列に並ばれます。

(ああ、やはり浮いていますね。
 あの、末席の南方貴族の方々のところにいきたいくらい)

 この衣装で本当に良かったのか。
 今更ですが、そっと伯爵家以下の爵位を持たれている南方貴族の方々に目をやります。
 しかし、私のような赤毛はおらず、褐色の肌に茶色の髪。
 お母様はこの帝国の最南端の産まれでしたから、違いがあってもおかしくありません。
 そして、ここに並ぶまえにエイシャがそっと教えてくれたシルド様。
 王国の王太子様や王女様たちに次ぐ、有力貴族。
 西方大陸に多い、金色の髪に陶磁器のような白い肌。
 青き吸いこまれそうな瞳に、王国騎士団に入隊なさっていると言われるだけのことはある長身。
 たくましい、武人の御姿がそこにはありました。
 
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