正しい魔眼の使い方

星ふくろう

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第二章 神の気まぐれ

死神の恋心 4

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「おや、あなたですか?
 この場所にいらっしゃるとは珍しい」
 弓羽の父親の姿を借りた死神は、この世を闊歩していた。
 というよりは楽しんでいた。
 生きているという実感がこうも心が跳ね上がるものだとは。
 こんな感触は実に数億年ぶりか?
 過去を思い返しながら彼はこの日本という国の最大都市の商店街を人並みに合わせて歩いていた。
「それはこっちのセリフよ。
 まったく、人の獲物を」
 隣に並び歩く背の高い美女がそう文句を言う。
「あなたは人ではないでしょう?
 それともまだ憧れているのですか?
 あなたや神たちの言うところの創造主が作りだして楽園を与えたという、人、に」
 悪魔はまさか、そう否定した。
「あんな気味悪いやつらなんてなりたくもないわ。
 せったく、いろいろとお膳立てしてきたのが、一つどころか数千も無駄になったじゃない。
 誰も彼もが、あなたに怒ってるわよ、死神様?」
 みんなが、そう悪魔は死神に告げる。
 みんな、ねえ?
 それにしては、人間を使いすぎだ。
 彼は歩きながら周囲を見渡した。
 この惑星が養えるには多すぎる。
 間引くには悪くはないが‥‥‥そんな思案をしてみる。
「しかし、世界を繋げるという荒業はせめて相談して欲しいですね。
 あんなもの、イワトニウム、ですか?
 人類はそう呼んでいるようですが。
 あれだけのものを作り出して、それだけでもあなたたちは満足できるでしょう?
 この惑星の神そのものがよく容認しましたね?」
 最上位の神が、そんなことを口にした。
 悪魔はどう答えたものか思案にくれる。
「仕方ないわよ。
 最初は龍、その次は神、次は悪魔、妖精。
 その時期に一番個体数が多かった種族が交代で担ってようやく数万年前に追い出せたのに。
 あれはまた戻ってくる気だもの。
 あれくらいの力の備蓄は必要よ‥‥‥」
「そして過去最大規模の個体数の人類、ですか。
 約一二〇億前後。
 半数以下になりますねー、あの連中が壁を越えて戻るなら」
 また仕事が増えるな。
 手下を増やすか、そんなことを死神は呟く。
 だが、ある事が気になった。
「しかし、それならなぜ、あのシープハンドとやらで寿命を抑えたまま集められた魂は残っていたのですか?
 あれこそ、あなたたちの最大の獲物でしょう?」
 悪魔は黙って月を指差す。
「月の女神が何か?」
「違うわよ。
 この星の神や魔はあそこまではいけないの」
「まあ、境界線がありますからね?」
 でも、そういい彼女は遠くに立つ赤い鉄塔や、それより高い雲間に見えるビルを指差す。
「こいつら人間は行けるのよ。
 いまは大半が行ったフリ、だけどね。
 機械とやらだけはいける」
 ふうん、死神ははるかな過去の地球を思い出す。
 現在の人類以前に栄えていた、少しだけ毛色の違う文明もあった。
 あれはあれで巨大な魔力を使い、大陸を天空へと浮かべたりしていて自滅したが。
 それでも、星そのものからは出れなかった。
「しかし、この銀河だけでも約三つの大きな文明が、星々の大海を船で移動している。
 彼等に協力を求めては?
 あれらの戻りは、数千年すれば彼らにも脅威になるでしょう?
 すでにこの星にも住んでたりする……ほら、そこにも。
 姿形は変えているようですが」
「だめよ、連中そんなことに興味ないもの。
 むしろ、異世界というか少しだけ位相の違うあたしたちを毛嫌いしてる。
 科学が全てだと、ね。
 いずれやってきても、返り討ちにできる程度には強いですなんて言う始末。
 まあ、それは間違ってないわ、逃げれるなら船を借りて逃げたいくらいよ」
「そうですねえ、あなたたちの様な存在は、すでに彼らの文明ではより上位に行っている。
 この宇宙よりも、自分たちの異界でのんびりしたいでしょうから。
 手伝いはしないでしょう。その為の、兵士を育てていた、と?
 別世界で?」
「兵士じゃないわよ。
 どちらかと言えば、いずれは人類を率いていく指導者になる子たちだったのに。
 あの妖精界が邪魔するから」
「精霊使い、ですか。
 もう何万年まえです?
 先史文明よりもはるかに前でしょう。
 彼らがあのものたちを追いやり、壁を作り、閉じ込めたのは」
「ざっと十万年。
 いまの人類はまだ人間になるかどうか、そんなとこね。
 その末裔はあの大陸浮かべるなって忠告したのに。
 自滅して海の底。
 多くの資料も能力の使い方もまた同時に海底よ。
 掘り出すだけで何千年かかったことか」
 その初期の頃からいるこの悪魔は疲れ果てたようにぼやいた。
 いまさら、精霊使いなんて無理だと。
「この人類には、彼らのような素質はない、そう言いたいのかな?」
 死神はそう質問する。
「無いとは言わないけど、時間が足りない。
 それを全部、昇天させるなんて大損だわ。
 それに、あのバカ王様。
 精霊使いにする気ないでしょ?
 あなたも惨いことするわね‥‥‥愛情知りたいからだけの理由でそんなことして。
 世界の終りまで、呪われるわよ?」
 まあ、知ったことじゃないけど。
 そう悪魔は前置きをして続けた。
「あいつらが来たら、今回は燃料もあるし。
 死神様だけで押し返して下さいよ。
 その準備を全部、台無しにしたんですから。
 その、愛を知りたいだけのために」
 そう言ってふっと、姿を消してしまった。
「私一人でですか?
 まあ、適当にしますけどね」
 死神は気楽に請け負って街並みを楽しんでいた。

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