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秘密の聖女様、人類国家群の盟主の座を分捕る件 2

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 あーあ、外見だけならいい男なのに。
 なんでこんなにまで、自尊心とか虚栄心とか。
 そんなものしか大きく出来なかったのかしら、この御方。

「殿下、しっかりなさいな。
 十四歳のわたしに言われ、この様な行為をされてまで悔しくないのですか?
 あの一撃すら、人間の婦女子の出せるだけの力で放ったのですよ?
 それで気絶して、未来の皇帝陛下がどうなさるのですか!!?」

「‥‥‥」

 あら、言い訳をしないのね?
 以前なら、さんざん毒づくはずなのに。
 ハーミアは、不思議に思った。
 人間、苦境に追いやられたら異常な成長を成し遂げるなんていうけど‥‥‥??

「殿下、何かおっしゃって下さいな。
 ハーミアはお断りはしましたが、まだ、その返答を頂いておりませんよ?」

「へ、へんとう‥‥‥だと?」

 この申し出に、エミリオは目を白黒させて戸惑っていた。

「ええ、殿下。
 わたしに対する、婚約破棄はされましたが、わたしからの婚約破棄の申し出の受理を頂いておりません」

 エミリオもザイール大公も、エリスまでもが不可思議な顔をする。
 ハーミア。
 あんた、まさかー‥‥‥???
 エリスがそう言おうとした時、アシュリーはそれを止めた。

「だって、アシュリー!?」

「エリス、時間がない。
 シェナは魔都に一人だ。
 戻らないと、間に合わない」

 彼の帰還が為せるかどうかわからない。
 魔王は天空で、自分たちはここにいて。 
 他の仲間は誰もが自国を守るだけで、動けば一触即発になる。

「遅れたら、シェナは二度とー‥‥‥戻れない。
 あの時の様に、サユキと争ったときのように再生する力すら残ってないんだ。
 ミレイアとしての彼女はもう、力尽きている。
 シェナとしてもだ。
 どうすれば、あのクリスタルをのけれるか。
 だめなら、奪って去るしかない」

 アシュリーの沈痛の一言に、エリスはハーミアを振り返る。
 そうだ、ここは地上世界。
 自分たちは――異邦人だ。
 そう思っていた。

「あの聖剣よ。
 あれは、星斬りの剣じゃない。
 あの金髪の少女って、六英雄の一人、退魔師エレノアでしょ?
 彼女の剣はあそこにはないわ。
 あれは最古の聖剣。
 最高神カイネ・チェネブ神の使っていた大神ダーシェが彼女に与えたデュランダルよ」

「なんでそんなこと――
 例えそうだとしても、あなたがそれを知るはずが‥‥‥」

 そして、エリスの疑問の声に触発されてエミリオまでもが抗議の声を上げた。

「そうだー‥‥‥。
 なにもかもがそなたの反逆からでたことではないか。
 あの時、おとなしく債権のカタになっていれば――」

「なっていれば、もっと大ごとになってましたわよ、殿下?
 帝国は、最古の時代にカイネ神によって滅ぼされ、その与えた聖剣を依代にして力を魔神様や大地母神様からこそ泥のように奪っていたー‥‥‥。
 大神ダーシェと海神エストの謀略により崩壊していたでしょうね?
 皆さまが、それに踊らされていたんですわ。
 竜神の名を騙り、動かされていた竜王様。
 あなた様もその御一人」

 ハーミアの声は猛火の壁をすり抜けて、その向こうにいる皇帝と竜王に。
 その臣下たちにも届いていた。
 ハーミアは確信する。
 かつて、大神と海神やカイネ神がいた時代。
 竜族の神、竜神は神とは名乗らず、王と名乗っていた。

「なっ!?
 なぜ、そんなことが‥‥‥わかるのだ、ハーミア殿‥‥‥」

「あら、殿下。
 ようやく、殿が付きましたわね?
 ねえ、エリス?
 十二英雄の一人、青の聖騎士がかつての竜王の転生した姿だったはず。
 彼はいま、どこにおられるの?」

 魔神の転生したのが氷の聖者。
 青の聖騎士は、退魔師エレノアと氷の聖者の三人で地下世界の最奥。
 魔素を生み出している氷の女王の元を訪れて以来‥‥‥

「行方不明よ。
 妻を探しに行く。
 そう言ったきり千年。
 音沙汰がないわ‥‥‥」

 あ、そ。
 ハーミアはどうでもいいけどね。
 そう思いながら、エミリオの胸元を掴む手を離した。

「どう‥‥‥いう、ことだ?」

「どうもなにも。
 わたくしが、大地母神の聖女でございます、殿下。
 あの時、手紙を下さった竜王はこの炎の向こうにいる竜王陛下ではなく‥‥‥
 我が祖父の友人として八竜会議の末端に籍を置くどなたか、だと思われますので。
 ああ、理解されなくて結構ですわ、殿下」

 不審な顔つきのエミリオを放置してハーミアはそういうことよ。
 エリスに向かい、微笑んで見せた。

「あのクリスタルは六英雄の一人、ルシール様のものではないわ。
 竜王、いえ、本物の竜神様がエレノアを守るためにしたもの。
 魔王陛下の第一王女エミスティア様の時も然り。
 それを、利用されたのよ‥‥‥ダーシェとエスト。
 はるかな古代神の復活の為にね」

 その二神を滅ぼし、この世界を去ったカイネ・チェネブ神。
 その夫であり、地下世界最高の神でありながら、ひたすらに妻の帰りを待ち動かない青の魔人。
 神様なんて、本当に物悲しい。
 ハーミアは、女としてそう思う。

「エリス、クリスタルの四辺を一度に斬れば――あれは砕ける。
 そう竜王様は言っているわ。
 殿下、もしこれが真実ならば、竜王、いえ竜神と大地母神は夫婦神。 
 わたしを、大地母神の聖女として認めていただけますか?
 現、皇帝として――」

「ばっ、ばかな‥‥‥
 誰の公認もなく、そのような名乗りなどー‥‥‥していた自分を情けなく思うが‥‥‥
 そなたには、本当に‥‥‥不遇を与えてすまなかった‥‥‥」

 甥が。
 あの不遜な甥が‥‥‥その一言を聞き、ザイール大公は目を丸くして立ちつくしていた。
 ありえない光景だったからだ。
 そして、大公は考えていた。
 甥の言うことも一理ある。
 しかし、ここにそのような公認する存在などー‥‥‥ 
 その疑問をハーミアは易々と叩き潰したのだった。
 

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