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秘密の聖女様、大公閣下と共謀する件 3

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「女性、子供には優しくは紳士の務めだろう?
 しかし、敵対するときには皆、平等。
 誰に対しても、手は抜かんぞ‥‥‥さて、どうする?
 送り込んできた主の名を言えなどとは言わん。
 逃げるなら、あの窓からでもどこからでも行くがいい。
 残るなら、最後までワシが相手をしよう――」

 さ、早くこんかい、めんどくさいんだ。
 まとめででも、いいぞ?
 そう言うザイール大公は太っていた時に流していた油汗を、今度は爽快な汗に変えて流していた。

「な、なぜだ‥‥‥!!??
 逃げろだの、相手をするだの!!?
 何故、これだけの人数がいながら子分どもに相手をささん!!??」

「何故だと?
 戦場では一対一などありえんが、紳士の決闘ならばそれはありえる。
 対等な戦士として相手をしているのだ、わしが戦わなくてどうする?
 さあ、早く決めろ。
 ああ、残りたいなら残るがいい。
 お前たちもしくじれば、戻って待っているのは死。
 この場で負けても、待っているのは死。
 そう思っているだろうが‥‥‥自決するなら止めはせんぞ?
 ただ、周りにいる連中はお前たちと同じ境遇のものばかり。
 残るなら、守ってやろう。
 このザイール大公の名にかけてな‥‥‥」

「ふっ!
 ふざけるな‥‥‥仮にも気高き赤の牙よ。
 その剣先で鮮血の闇夜を歩いて来たのだ‥‥‥!!
 貴様などに負けるか――かかれっ―――!!!」

「甘い、甘い‥‥‥
 そろそろ、紅茶とお菓子の用意を頼むぞ?」

 赤の牙と名乗る彼等の剣先だの、ムチだの、魔法だのを軽々とさけ、いなし、魔法は更に上の魔法で叩き伏せ。
 ザイール大公はさきほどの、女性集団にお菓子の催促をしていた。

「はーい、旦那様!!
 でも、甘いものは身体に悪いからお菓子は糖分控えめですね――」

 そんな、女暗殺者たちの黄色い声援が、赤の牙たちの苛立ちを更に煽って行く。
 そろそろ、我慢の限界だろう――
 これも兵法の一つ。
 先に頭に血をのぼらせた者の、負けよ‥‥‥

 数分後。
 死屍累々と数人が負け犬の山となり、その肉体を痺れさされていた。
 雷の魔法によるものだ。

 やれやれ、兄上と共に一兵卒として戦場の最前線に送り込まれた若き少年時代から二十数年。
 あの戦場の経験がいまに役立つとは‥‥‥大公はため息を一つついた。
 彼は刺客たちにむかい、

「なんだ、もう終わりか?
 なら、あたまを冷やしてよく考えるのだな。
 生きるか、死ぬか。
 どちらでも、わしは止めはせんぞ?」

 そう言い、女性陣の待つソファーへと腰かけた。
 さてどうしたものやらと、思案を巡らせる。

「街の娼婦に産ませた兄弟が今では、皇帝と大公‥‥‥か。
 父上―-兄上はあなた以上の過ちを犯そうとしていますぞ?
 形が違うだけで愚かさは変わらん‥‥‥」

 辺境国国王ハーミアに債権を回収してもらった後日。
 彼女が挙兵したことで、大公にも皇帝やその周辺からの刺客が差し向けられることこの一月で数十回。
 屋敷の使用人や家臣団を外国に逃がし、たった一人でこの大公家で過ごすうち、増えるわ増えるわ‥‥‥
 夜討ち朝駆けにくる刺客を返り討ちにして、大公の人柄に惚れこみ勝手に子分を名乗る連中が――

「さて、この二百人を越える暗殺集団。
 どうまとめたものかな‥‥‥?」

 額の汗を拭いてくれる女性陣に感謝しながら、彼は待っていた。
 あの挙兵から既に一月。 
 ハーミアはサーラの遺骸と共に行方をくらませていた。
 ザイール大公は待ってるのだ。
 彼女が現れることを――
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