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第二章 ダンジョンの死霊術師

「死者」の権利

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「知りたがる理由がわからんな、おい死霊術師! 新参者の癖に出しゃばり過ぎじゃないのか?」
「俺が? そうかもしれないな、あんた――レズロだったか? だが、地上で受けた研修じゃ、死んだ仲間を引きづったりしろ、なんて教えはなかったんだ。そりゃあ、気にもなるだろ?
 そう――」
「なんだよ‥‥‥?」

 探り出そうとしているようで、その裏には黒く濁った何かを秘めたような目つきでアーチャーは三人を見渡した。
 そして、ゆっくりと頭を撫でるように言葉を吐き出してやる。

「‥‥‥貰えないじゃないか。お宝の分け前、そいつが残した備品とか、さ? 上にいても貧乏だった研修以前からずっとだ死人に口なしってな? そう思わないか‥‥‥??」
「あんた‥‥‥死霊術師。若いわりになんだその物言い。それでも冒険者か??」

 あれ?
 誘いに乗ってこないな。
 少しでも尻尾を覗かせてくれたら、組合員規約にあるように個々人の私的権限で逮捕ができるのに。

「一応、まだ数週間だけどな。あんたたちだって冒険者なのに好きにしようとしてた――そうじゃないのか?」
「違うっ!!」
「だが、その遺体はなんだよ? どうして蘇生してやらない?? 見たところ、裸に近い格好じゃないか‥‥‥衣類はどうした??」
「こいつらは――奴隷だ。持ち主がそうすると決めたからな問題はない」

 レズロ、それが問題なんだよ。
 アーチャーほくそ笑んでいた。
 王国の法律では、死者には権利が与えらえていない?
 それは間違いだ。
 死人にも自由になる権利がある。

「死んだらきちんとした埋葬なり、神殿や役場への登録なりが必要だろう? その後に魂が解放されているのを確認して、ようやく死体は誰のものでもなくなる。だから、俺たち死霊術師も術が使えるんだ。その前に死人を好きにしたんじゃ、犯罪だからな‥‥‥どうなんだよ、リーファ、アーレン? あんたらは盗賊まがいのことをやらかしてるようにしか、俺には見えないんだが??」
「それは大きな誤解だ、地上世界の死霊術師。ここ、地下では死んでも奴隷は奴隷のままなんだよ。どう処理しようと、持ち主の勝手さ」
「なに‥‥‥っ? 死者に自由になる権利はないってことか?」
「いや、そうじゃない。‥‥‥死んだという手続きをするかしないかは、主人に一任されている。ここは人間だけじゃない、魔族も存在している むしろこれは優しさなんだよ」
「優しさ? 死者に鞭打ってそれで優しさを語るなんて無茶苦茶だな‥‥‥」

 そう冷笑するアーチャーにレズロがキッとキツイ視線で睨みつけていた。
 あいにくと彼一人では戦いの分が悪い。
 剣があるとはいえ、アーチャーはまだ五体満足でおまけに死霊術師だ。 
 死体は二体。
 仲間はレズロを含めて三人。
 微妙に拮抗したバランスの上で、彼らは話を交わしていた。
 そんな中で、朱色のリーダーのアーレンが口を開いた。

「この最果ての地にはな、死霊術師。死体を好物にする魔族や、死体を操って道具にする魔族が多いんだよ。埋葬したって骨は残る。それを労働力、なんて称して使うやつもいる。スケルトンの魔物だって存在する……今回、依頼にあったようにな? だから、埋葬するなら火葬しかないんだ。それも、きちんとした神殿でな‥‥‥処理が大変なんだ。理解できるか?」
「それは――理解できるけどな。スケルトンの魔王なんてのも、古代には存在したって聞いたことがある。ただ、それとこれは別だろう。どうして死体に敬意を払わない? 一度埋葬して結界を張り、獣などから守るようにして後から回収にくるとかやりようはいくらでもあるだろう? 俺にはそうだな‥‥‥まるで、死体を分解して売りさばこうとしているようにしか見えない。まあ、それも地下世界の法律で良しとされているなら、文句はないけどな。でも――」
「でも、なに? 私だってこんな扱い、良いとは思ってないわよ。でもね、ほうっておけないの。埋葬も出来ない!」
「ここに棲息する魔獣を防げるだけの結界が張れないから、か?」
「なんですって!? 黙って聞いていればっ!!」

 この素人死霊術師が!
 そう言い、魔女が威嚇するように振り上げた杖を、しかし押し止めたのはアーレンだった。

「やめろ、リーファ。仲間内で争うのは良くない。まだ、依頼をこなしている最中だ。おい、死霊術師‥‥‥勝手に始めたのは悪かった。その上で仲間の遺体を運べなんて命令じみたことを言ったことも、こちらの手落ちだ。許してくれ」
「ちょっと、アーレン?」
「いいから黙ってろ、リーフア、それにレズロもだ。ルールを最初に破ったのは俺たちだからな。集合して始めていれば、この二人も死なないで済んだかもしれない」
「それは確かにそうだけど、でも‥‥‥言い方ってものがあるわ。私たちはもう数年やってるのよ、この稼業を」
「だが、落ち度はこっちから始めたものだ。彼の機嫌が悪くなるのは否めない。許してくれるか?」

 意外なアーレンの謝罪にアーチャーはそれを受け入れざるを得ない。
 むしろ、ここで揉めたところで彼らが違反を犯しているという証拠が明白でない以上、何か手を下せばアーチャーの落ち度になるからだ。

「‥‥‥いいさ。その二人を神殿まで運んで火葬し、奴隷から解放するっていうなら。自力で歩かせてやるよ。それなら死者への手向けにもなる」
「え‥‥‥あ、そうだな。ああ‥‥‥」

 突然のその提案に、アーレンを始めとした三人の顔に、儲けそこなった。
 そんな感情が見て取れたのをアーチャーは見逃さなかった。

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