13 / 23
第一章
9
しおりを挟むその夜。
ゆかからの返信がないまま、ヒロキは例の師匠と画面を繋げて話をしていた。
簡単な概略図を先に師匠に送信してからの打ち合わせだった。
「よう、ヒロキ。
で、どうだった?」
師匠はFXや株式、仮想通貨などのトレーダーだ。
夜通し相場に張り付いて仮眠だけだったらしい。
眠たそうな顔をしていた。
「大丈夫ですか、師匠?
すげー眠そうですが‥‥‥」
画面の向こうでプリントアウトしたらしい紙を眺めている彼がいた。
「まあ、問題ない。
で、なんだこれ?
どういうことだ?」
まあ、分かりにくいですよね。
そうヒロキは思いながら返事をする。
「つまりですね、
投稿M女=せいら これは正解なんすよ。
ハヤテ君の妻=ゆか これもLineIDで言えば正解です」
「まあ、インスタの画像とか添付してきてたなお前。
あれを見る限りでは、うーん?
この
ゆか=かなた。
これは妊娠線とかでわからん‥‥‥な。
投稿画像がせいらのものなら、妊娠線は、いや待てよ?
画像からは腹がでてる時期があるな。
これ、姉妹で二人でやってる可能性はないのか?」
「二人で?」
「だから、前半は姉で。
妊娠期間中はあまりできねーだろ?
それで妹を出した、とかさ」
「あー‥‥‥交代劇ですか。
それは思いつかなった」
「お前、たまに素直だよね?
まあいいけどな。で、それで言うなら逆もあり得るぞ?」
逆、どういうことだ?
師匠の頭の回転の速さにヒロキはついていけない。
「だからな、両方に産ませてる可能性がある。
もしくは、片方が流産とかな。
で、お前の会社の寮どうこうだが。
これはわからんな。
会社に拠るわー、これ。
元本物さんでも、ちゃんと働けば雇うとこも物流系には多いからな。
これだけでは何とも言えん。
で、返事は来たのか?」
ああ、ゆかからのやつか。
「いえ、まだですね。
既読はついてんすけど」
「そりゃー売上の半分以上は店のだからな。
個人でやりたがるのは多い。
でも複数在席とか、こんなあからさまにやってたらなあ。
まあ、裏にいる人らにもよるが。
もう長いって言ってたか?」
「いえ、それは聞いてないです。
サービス最悪すぎて」
「お前‥‥‥数万払ってその程度のネタしか拾えないのかよ。
あきれたやつだなーー」
そりゃ師匠みたいにいろんな世界知ってればそうなるでしょうけど‥‥‥
そうヒロキは心でぼやいた。
しかし、画面向こうの彼はそんなことはお見通しだったらしい。
「まあ、それならこっちも倍額だしてやれよ」
「へ?
倍額???」
「だからな?
個人で会うって言っても店より吹っ掛けたらすぐにばれるし誰も使わねーだろ?」
「まあ、そう、です‥‥‥ね」
多分、以前みたいに会っていた時期ならあの堅い拳が頭に飛んできてるはずだ。
あれ、痛いんだよな。
堅い石みたいでさ。拳だこありまくりだもんな、この人。
そんな懐かしい過去を思い出していた時だ。
悩んでいた彼がとりあえず、と言い出した。
「まず、昨日の倍の時間で予約してやれ。
見てみたら十九時から出勤になってる。
それでだ。店、潰して来い」
「はあ?
あ、いやすんません。
俺、師匠みたいに喧嘩強くないです」
彼は呆れたように言う。
「俺も強くねーよ。
カードだ。
前に作らせたろ、無記名で使えるVIZAのカード。
仮想通貨で入金したら、VIZAマークあればどこでも使えるやつ」
「カード???
あの、個人情報とかいらなくてアプリをスマホに落としたらそのまま使えるやつですか?」
「そうだよ、それを使え。
あれなら、アプリ会社名のサインだけで済む」
え、でもそれでどうやって潰す、と‥‥‥???
ヒロキの頭の中には疑問符が流れてきた。
「ああいった風俗やお水系列の店は、大抵、手数料取るんだ。
だが、それは違法なんだよ。
先に精算求めてくるから、その時にどうせ、手数料の話もでるだろ。
それはオーケーしてやれ。
で、ゆかに昨日の倍の時間割いて今度はいろいろ聞いて来いよ」
「え、でも師匠。俺そんなに仮想通貨持ってないですよ?
送金しようにも最低1日はかかるし‥‥‥」
「これだろ、お前のカードの受信アドレス?」
そう、向こうから見せつけられた数桁の数字と記号の羅列。
スマホアプリを起動して、それを確認ーー
「なんで知ってるんですか!?」
「お前、アホか?
教えた時に送金テストしただろ?
もう送金しといたからそれ使え。
でだ、明日になったらカード会社。VIZAの方な?
そこに電話して、このカード番号でこの店でこの領収書ですって。
画像ごとサービスセンターに送信してやれ。即日、店側のカード端末差し押さえに行くからよ。
やつらは」
「いや、師匠。
それ恐いんですけど、なんですか、この百万相当って!?」
彼は不敵に笑ってみせた。
「たまに連絡寄越した褒美だ。
このバカ弟子が。
なんでそのせいらが気になったんだ?」
「そ、それはー‥‥‥」
「お前の方がロリコンだな?
可哀想って思うなら救い出せ。
好きだと思うなら助けに行け。ただし、同情や憐みで動いたら、怪我するけどな?
そうしたい、好きだって思うならそれ使え。
もう恐いなら、ここでやめとけ。それは返さなくていい。
で、俺も大阪だからな?
週末の夜は空けとけよ?
殴るから」
いや、その拳が本当に怖いです、師匠。
ヒロキはかなに店で倍の時間で会うよ。
そう送信した後に、手帳に金曜日。夜、師匠と会食。
そう書き込んだ。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話
釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。
文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。
そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。
工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。
むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。
“特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。
工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。
兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。
工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。
スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。
二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。
零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。
かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。
ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
6年3組わたしのゆうしゃさま
はれはる
キャラ文芸
小学六年の夏
夏休みが終わり登校すると
クオラスメイトの少女が1人
この世から消えていた
ある事故をきっかけに彼女が亡くなる
一年前に時を遡った主人公
なぜ彼女は死んだのか
そして彼女を救うことは出来るのか?
これは小さな勇者と彼女の物語
人違いラブレターに慣れていたので今回の手紙もスルーしたら、片思いしていた男の子に告白されました。この手紙が、間違いじゃないって本当ですか?
石河 翠
恋愛
クラス内に「ワタナベ」がふたりいるため、「可愛いほうのワタナベさん」宛のラブレターをしょっちゅう受け取ってしまう「そうじゃないほうのワタナベさん」こと主人公の「わたし」。
ある日「わたし」は下駄箱で、万年筆で丁寧に宛名を書いたラブレターを見つける。またかとがっかりした「わたし」は、その手紙をもうひとりの「ワタナベ」の下駄箱へ入れる。
ところが、その話を聞いた隣のクラスのサイトウくんは、「わたし」が驚くほど動揺してしまう。 実はその手紙は本当に彼女宛だったことが判明する。そしてその手紙を書いた「地味なほうのサイトウくん」にも大きな秘密があって……。
「真面目」以外にとりえがないと思っている「わたし」と、そんな彼女を見守るサイトウくんの少女マンガのような恋のおはなし。
小説家になろう及びエブリスタにも投稿しています。
扉絵は汐の音さまに描いていただきました。
あまりさんののっぴきならない事情
菱沼あゆ
キャラ文芸
強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。
充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。
「何故、こんなところに居る? 南条あまり」
「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」
「それ、俺だろ」
そーですね……。
カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる