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 悶々とした日々を、あれ以来数か月に渡ってレオン・ウィンダミア子爵は過ごしていた。
 愛を無くしたことへの後悔があるわけではなく、それでいて心のどこかであの少女がまだ住んでいた。
 あの、人ではない、背徳した性的趣味において、飼われ奴隷でいることを望んだギース侯爵令嬢マキナ嬢が彼の心に張る闇に一筋の光を落としていた。
 紳士クラブに通い、葉巻を吸い、たまにはポーターの仕事で気を紛らわせる日々。
 だが、納得がいかない。
 何に納得がいかないのか。
 その答えが出ないことを悩んでいた。

「なんだ、まだ悩んでいるのか‥‥‥」
 新聞社の社長室を訪れたレオンを、イゼア・スローン卿は友人として暖かく迎え入れた。
 レオンは苦悩し、神からの啓示をまつ聖人のようにやつれていた。
「わからないんだ、イゼア‥‥‥」
 そうレオンは口にする。
「何がわからないんだ?
 背徳を目にしたことに対する神への謝罪か?
 それとも、あの女大公に負けたことへの苛立ちとうぬぼれか?
 自分のほうが魅力的な貴公子だと?」
 いや、お前は国中の貴公子をあつめても、その頂点に立つほど外見も中身も。
 地位も名誉も、そして学も武勇もある。財産もだ。
「手に入らないほうがおかしい、そう言いたいのか、レオン?」
 ならその資産にものを言わせて、買えばいいじゃないか。
 あの女大公がマキナ嬢を奴隷だというのなら。
 飼い主から買って来いよ。
 そう、スローン卿は言う。
 だが、レオンが欲しい答えはそんなことではなかった。
「あの子は俺に言ったんだ。
 愛しています、旦那様、と。
 数度だけどな‥‥‥」
 愛を語り合ったのか‥‥‥スローン卿はソファーに深く腰掛けて思案する。
「なあ、レオン。
 愛には多くの形がある。
 わたしはこの数か月。
 あのマキナ嬢のことがあって以来だ。倒錯した性的嗜好。
 それについて調べてみた」
「それが、どうかしたのか?」
「ああ、どうかしている。
 それぞれが愛し合っているならば、それはいいだろう。
 例え神がどう言おうが、変えれない愛情だってある。
 それを間違っているというほど、わたしは頭の固い男じゃない。
 ただ、だ。
 もし、ころころとそこいらにいる子犬を買い替えるようにする。
 それを人間相手にするならば、それは愛ではない。
 単なる、魔女的な行為だ」
「おい、イゼア。
 ならなにか?
 あの女大公とやらを魔女裁判にでもかけろと?
 この議会政治の時代にか?」
 違うさ、レオン!!
 スローン卿は声を大にして言う。
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