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第四章 水の精霊女王は最後に不敵な笑みを浮かべる

炎の魔神の下剋上と涙する炎の女神様 1

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「そうですね。
 イフリーテさんはおおよその問題が把握されておられるようですし。
 何より、反省もされている感じですね。
 あの大穴を開けたのもシェイラ様の命令だとすれば、その罪は主であるシェイラ様に取って頂くのが筋というものですからー‥‥‥」

「おっ、おい!!??
 あたしだけかよ!!??」

 こいつだって嫌なら拒否権くらいあるはず――
 そんな言い逃れ、ここでは効きませんよシェイラ様。
 わたしは悪い笑顔を一つ。

「そうですか、あくまでイフリーテさんのせいにされると言うのであれば‥‥‥」

 じっとりとシェイラ様。
 その日焼けした豊満なお身体なら、まあ、殿方は捨ておかないでしょうねえ。
 ああ、羨ましい。
 違った‥‥‥そうじゃなくて。

「なんだよ、おい!!??
 その‥‥‥まるで獲物を仕留めるような目つきは‥‥‥」

 あら、形容ありがとうございます、シェイラ様。
 力の使えない女神なんて、単なるお荷物。
 この城の食費もばかになりませんの。
 そう言って、更に悪く微笑んで差し上げました。

「食費って‥‥‥まさか!!??」

「まあ、女神を食べるなんて悪趣味はありませんけど。
 聞いたところ炎の豹なんて珍しい獣人は乱獲にもあいやすいとか。
 かつてこの世をさった友人の元へ行かれるには‥‥‥良い機会かもしれませんね、シェイラ様? 
 そのお肉、柔らかそうですし」

「あ、あんた。
 まさ、か‥‥‥」

 ふふふ、楽しいわこれ。
 こんな顔して怯えるなんて、過去に何かあったのかもしれないけど。
 旦那を取られたとかまで言われたのではこちらも黙って返す意味はありません。

「シェイラ様。
 御存知ですか?
 この風の精霊王の守護する北国では‥‥‥冬が来る前に多くの猟を行いますの。
 まあ、人間の顔形をした豹なんていうのはどうかわかりませんけど。
 飢える国民のお腹を満たせる。
 そう思えば、女神冥利に尽きると‥‥‥思いません?」 

「ふざけんな!
 思うわけ‥‥‥まさか、本気で!!???」

 怯えるシェイラ様。
 女神様がそんな簡単に死んだら困るでしょ‥‥‥

「あーあ、シェイラ悪いことばかりするから。
 アリア様? でしたっけ? 
 もう、毎回、毎回‥‥‥わたしが謝りに行かされるんですよ。
 その都度、叱られたり、叩かれたり色恋の後始末だけならまだしも‥‥‥」

 はあー、と大きなため息をついたイフリーテさん。
 その苦労が垣間見えますよ。
 
「時にはお前、あのポンコツだろ、この最終兵器が!!
 とか言われていわれのない差別とか、熱湯ぶっかけられたり、石を投げつけられたり、雷を落とされたり。
 壊れないからいいですけど、そろそろ、わたしも辛いんですぅ‥‥‥」

 そんな芋虫みたいな鎖ぐるぐる巻きにされて涙する魔神もどうなの?
 なんて思ってしまうけど、気苦労は絶えないみたい。
 でも、炎の魔神なのに黒い髪に黒い瞳。
 うーん?
 不思議な取り合わせね。

「ねえ、イフリーテさん?
 シェイラ様が嫌なら、わたしの眷属になりません?
 一番目は竜王様。
 二番目は炎の魔神様。
 とてもいい、仲でいられると思うですけど???」

 なんて提案を一つ。
 え!?
 そんな嬉しそうな顔をするけど、

「でも、わたし‥‥‥炎の属性ですし。
 こんなポンコツですしー‥‥‥アリエル様にまで笑われる始末ですし。
 きっと、アリア様にもご迷惑を‥‥‥」

「いえいえ、わたしはどんな方でも歓迎しますわ。
 それが例え悪魔であっても‥‥‥ねえ、シェイラ様?
 その尾とか、美味しそう」

「あ、悪魔はあんただろ!!??
 人の眷属を勝手に――!!!」

「いいえー眷属ではありません。
 ただ、目覚めた時に?
 たたき起こされた時に、いたのがシェイラですからその側にいるだけで‥‥‥」

 あー‥‥‥なんとなく、被害者なのかもしれない、炎の魔神様。
 なんでたたき起こされた???

「イフリーテ!!
 あんた余計なことを!!」

「だって本当のことだしー。
 あの時、遺跡を荒らしてたのだって飲み代を稼ごうとー‥‥‥」

「だから、その口を閉じろ!!!
 このっ、ポンコツ!!!」

 その一言がイフリーテさんの気にさわったみたい。
 炎の魔神様は、笑顔を消してどことなく冷酷な素顔というか‥‥‥
 見切りをつけた顔になっていた。

「ポンコツ、ね。
 こんな状況になってまで、部下を守ろうとしない上司に仕えるのもそろそろ、限界かな」

 あれ、イフリーテさんの口調がのんびりとした子供のような声から‥‥‥大人の女性のものに。
 これはなにかまずいのではー???
 黙って見ていた竜王様も、こんなイフリーテさんを見たことがないのか。
 それとも二人が出会ってから深いつきあいがないのか‥‥‥
 
「竜王様‥‥‥あれ、大丈夫ー」

 言い終わらないうちに、大丈夫じゃなくなっていました。
 バキンッ。
 そんな音が一閃。
 そして、自由の身になる古代の最終兵器‥‥‥
 
「あれはまずいかもな‥‥‥」

「まずい、の前にどうにかして下さい??
 もう遅いです、か?」

 目の前の牢獄の中では、さすがに言いすぎたと思ったら、自由になった怒りの最終兵器がそこに。
 シェイラ様も後ずさりをし始めていたけど、鎖につながれているから逃げれない。

「おっ、おい!!!
 たす、助けて――」

「甘いわよ、シェイラ。
 この後に及んで助けを求めるなんて。
 もう主従でもないしー‥‥‥いい友人だと思っていたのに。
 そんな言い方までされるなら、こちらから去るわ‥‥‥」

 スウッと音がするように、牢をすり抜けてくる魔神イフリーテ‥‥‥。
 確かに、太古の神々が総出で封印しただけのことはあると思ってしまった。
 上位神すら投獄しておけるとエバースは言っていたけどそんなものすら――役に立たない。
 問題は彼女にどこまでの怒りとそれを理解できる誰かがいるか、だけ。
 竜王様は、さあ、出番だぞアリア殿!!
 なんて言って、押し出す始末だし。
 エバースなら、何があっても前に立つのに。
 少し幻滅だわ。

「アリア様」

「はっ、ひゃい‥‥‥」

 ああ、だめ。
 わたしも言葉がおかしくなるほどに‥‥‥恐怖してる。
 このまま、どんな兵器で焼かれるかと思うと――エバース!!
 なんて叫ぶ前に、

「お世話になります。
 あの主は煮るなり焼くなり。
 そろそろ、愛想も尽きましたので‥‥‥頼りにならない決戦兵器ではありますが。
 よろしくお願いいたします」

「あ‥‥‥はい、こちらこそ???」

 あれ、これはーつまり、漁夫の利というか一挙両得というか‥‥‥?
 でも、その奥ではシェイラ様が泥棒猫――!!!とかって叫んでいるし。
 豹にそう怒られてもねえ?

「よっ、よかったな我らが女王様。
 これで、水に、火にと。
 風の夫もいるしー‥‥‥」

「何がよかったですか!!
 人の、こんな初心者の背中に隠れて出てくる竜王がどこにいますか!!」

 だらしない竜王様!!!
 呆れた顔で彼を見るイフリーテさんも、まったくですね。
 なんて、さっきの怖い?
 あの冷酷な声から、最初の間延びした声に戻っていた。
 異世界最終兵器? 恐るべし‥‥‥

「では、アリア様。
 シェイラ、どうしますか?
 鍋ですか、焼き肉ですか、それとも蒸し焼きー‥‥‥??
 刺身もよさそうですね!!」

「さし、なんですか、イフリーテさん???」

「ああ、生のままで食べることですわ、アリア様。
 シェイラ、さぞ泣くでしょうねえ。
 痛みだって凄いし、ねえ、シェイラ????」

 怖い。
 この人、この魔神、怖い!!!
 竜王様も、その性格の波に乗れずに困っているみたいだった。
 いいえそれよりも。
 このイフリーテさん、どれが表の顔なんだろうか?
 長い付き合いになりそうです。
 そして、シェイラ様。

「なんでどいつもこいつも‥‥‥あたしから大事なものを奪うんだよおー‥‥‥!!!」

 なんて泣き始めてしまった。
 それはある意味、自業自得ではないですか‥‥‥炎の女神様!!??
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