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第一章 悲しみの聖女と精霊王
逃がしませんよ、愛しい旦那様!!? 1
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そんなうまい方法があるのか?
旦那様はなにか嫌な予感がするのかあさっての方向を見ている。
視えたんですよね、旦那様?
この数分先の、御自身の御姿が。
わたしには何となくそれが理解できたから、そっと旦那様の腕を引き寄せていた。
「逃がしませんよ、旦那様。
便利ですよね、時間の風を視るのその能力。
視えたんですよね、旦那様には、あの未来が?」
ぎゅうっと抱き着いてもう離しませんよ、旦那様。
わたしはそうささやいた。
「ねえ、旦那様?
もしかしたら、変わらない未来だったんじゃありませんか?
わたしが王妃や聖女になっても、ラーナがなっても‥‥‥。
ショーンがアズオル様の神殿を無くす未来は――」
その言葉にまた黙り込む旦那様。
エバース!!
夫ならしっかりしてください!!!
心の声は――きちんと風の精霊王に届いていた。
そう、その凛々しいお顔。
その毅然とした王としての風格。
そして、わたしにだけ見せて下さる優しい笑顔。
大好きですよ、旦那様。
向き合いましょう?
もう、夫婦なんですから、二人で未来に。
わたしは心でそう語り掛けていた。
「はあ――‥‥‥っ!!!
わかった!
アリア、わたしの負けだ。
もう、言葉で話そう。
お前になにも伝わらんのにわたしだけが知るのは不公平だ‥‥‥」
出た!
そう、それですよ、旦那様!!
わたしが欲しかった言葉は!!!
「不公平、そうですよね。
なら、旦那様。
アズオル様。
旦那様はもちろん、悪友のアズオル様の御心配をしながら全部話されていると思いますけど‥‥‥」
わたしはチラリとアズオル様を盗み見る。
あちらもばつの悪そうな顔をされていた。
「やっぱり、ご存知だったんですね。
御二方とも。
アズオル様、お怒りだったんではないのですか?
これまでの大神官の予言を出すときになぜ、精霊王だけが信仰されるのか、と。
自分がこの土地にまで導いて庇護してきたのに、王族すらそれを大事にしようとしていない。
ただ、神殿を立て、そこに神官を置いておくだけ。
国民すら、はるかな過去の事は忘れている。
違いますか?」
おい、どうにかしてくれ。
そんな顔つきで旦那様を見るアズオル様。
神様にも、人間のような感情はあるのね。
東の土地からこの北の大地まで守り、導いてきたんだもの。
アズオル様はその間で多くの民が死に、悲しむ様を見てきたはず。
わたしにはわからないけど、その時にはもう、アズオル様には地上に干渉する力が足りなくなっていたんだろう。
だから、旦那様を頼ってここに来た。
「アズオル様。
合ってますよね?
いまのわたしの考え、聞こえていらしたのではないですか?」
「聖女殿‥‥‥神に問いかけるものでは――」
アズオル様の声を遮ってわたしは質問を続けた。
これは――とても大事なことだから。
「アズオル様。
不公平、その意味、ご理解されていますか?
旦那様も」
お二人の人でない方々は不思議そうに顔を見合わせた。
何が不公平なのか。
それすら、わからない。
そんな顔つきだった。
「旦那様はラーナが聖女では足らない。
わたしに鞍替えをし、王の補佐をさせることでもしかしたら、未来が変わるかもしれない。
そう思われた。
そこまではわたしも理解出来ます。
アズオル様。
アズオル様は予言が覆ったことで、もう予言すらすることを嫌になられた。
一番不公平なことは、いつの時代の聖女にでも構いません。
真実を。
民に、本当の神は誰かを教えるように伝えてこなかったお二人の考え方。
人間に干渉してはならない。
旦那様はそう言われました。でも、すでに干渉しているではありませんか。
このアリアにも、教えて頂くべきでした。
そうすれば――」
「未来が少しでも、変わっていたかもしれない、か」
アズオル様はそう理解されたように呟かれた。
旦那様はなにか嫌な予感がするのかあさっての方向を見ている。
視えたんですよね、旦那様?
この数分先の、御自身の御姿が。
わたしには何となくそれが理解できたから、そっと旦那様の腕を引き寄せていた。
「逃がしませんよ、旦那様。
便利ですよね、時間の風を視るのその能力。
視えたんですよね、旦那様には、あの未来が?」
ぎゅうっと抱き着いてもう離しませんよ、旦那様。
わたしはそうささやいた。
「ねえ、旦那様?
もしかしたら、変わらない未来だったんじゃありませんか?
わたしが王妃や聖女になっても、ラーナがなっても‥‥‥。
ショーンがアズオル様の神殿を無くす未来は――」
その言葉にまた黙り込む旦那様。
エバース!!
夫ならしっかりしてください!!!
心の声は――きちんと風の精霊王に届いていた。
そう、その凛々しいお顔。
その毅然とした王としての風格。
そして、わたしにだけ見せて下さる優しい笑顔。
大好きですよ、旦那様。
向き合いましょう?
もう、夫婦なんですから、二人で未来に。
わたしは心でそう語り掛けていた。
「はあ――‥‥‥っ!!!
わかった!
アリア、わたしの負けだ。
もう、言葉で話そう。
お前になにも伝わらんのにわたしだけが知るのは不公平だ‥‥‥」
出た!
そう、それですよ、旦那様!!
わたしが欲しかった言葉は!!!
「不公平、そうですよね。
なら、旦那様。
アズオル様。
旦那様はもちろん、悪友のアズオル様の御心配をしながら全部話されていると思いますけど‥‥‥」
わたしはチラリとアズオル様を盗み見る。
あちらもばつの悪そうな顔をされていた。
「やっぱり、ご存知だったんですね。
御二方とも。
アズオル様、お怒りだったんではないのですか?
これまでの大神官の予言を出すときになぜ、精霊王だけが信仰されるのか、と。
自分がこの土地にまで導いて庇護してきたのに、王族すらそれを大事にしようとしていない。
ただ、神殿を立て、そこに神官を置いておくだけ。
国民すら、はるかな過去の事は忘れている。
違いますか?」
おい、どうにかしてくれ。
そんな顔つきで旦那様を見るアズオル様。
神様にも、人間のような感情はあるのね。
東の土地からこの北の大地まで守り、導いてきたんだもの。
アズオル様はその間で多くの民が死に、悲しむ様を見てきたはず。
わたしにはわからないけど、その時にはもう、アズオル様には地上に干渉する力が足りなくなっていたんだろう。
だから、旦那様を頼ってここに来た。
「アズオル様。
合ってますよね?
いまのわたしの考え、聞こえていらしたのではないですか?」
「聖女殿‥‥‥神に問いかけるものでは――」
アズオル様の声を遮ってわたしは質問を続けた。
これは――とても大事なことだから。
「アズオル様。
不公平、その意味、ご理解されていますか?
旦那様も」
お二人の人でない方々は不思議そうに顔を見合わせた。
何が不公平なのか。
それすら、わからない。
そんな顔つきだった。
「旦那様はラーナが聖女では足らない。
わたしに鞍替えをし、王の補佐をさせることでもしかしたら、未来が変わるかもしれない。
そう思われた。
そこまではわたしも理解出来ます。
アズオル様。
アズオル様は予言が覆ったことで、もう予言すらすることを嫌になられた。
一番不公平なことは、いつの時代の聖女にでも構いません。
真実を。
民に、本当の神は誰かを教えるように伝えてこなかったお二人の考え方。
人間に干渉してはならない。
旦那様はそう言われました。でも、すでに干渉しているではありませんか。
このアリアにも、教えて頂くべきでした。
そうすれば――」
「未来が少しでも、変わっていたかもしれない、か」
アズオル様はそう理解されたように呟かれた。
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