4 / 87
第一章 悲しみの聖女と精霊王
精霊王様に溺愛を受ける聖女になりました。
しおりを挟む「‥‥‥で、祈るのはやめにするのか。この国は凍土の上にある。わたしの結界魔法がないと人々は凍え死ぬことになるが、いいのか」
そしていま。
わたしはショーンの配下に追われ殺されかけそうになったところを、転移魔法で何とか脱出を果たし‥‥‥精霊王様の王宮に逃げ込み、彼に説明した。
祈り、ね。
もう、死にたくない。
そう思えて仕方がなかった。
あんな、王太子が王になる国なんて。
守りたくもない。
命をかけて結界魔法を維持しようなんて意志は、さらさら無かった。
「それは・・・・・・困ります、精霊王様。あの時、わたしはラーナが死なないようにと思って、交代を願いにきたのにあんな勘違いをされるなんて。わたしにも落ち度はありますけど‥‥‥」
思い返せば、少しでも話し合うべきだった。
自分で考えて行動する前に親友と、いえ、元親友と愛したあの人と。
もっと話し合えばいまの現実は回避できたかもしれない。
そう思った時だ。
「変わらんよ、アリア」
「え‥‥‥? また、わたしの考えを読んだんですか!? エバース様?」
風の精霊王様。
エバース様は緑色の髪に紅い瞳の、少しだけ遊び人風の悪戯心が豊富な人格。
意地悪もよくなさるのだ。
「違うよ、たまたま、意識の風に乗ってきたのを読んだだけだ」
ほら、こんなうまい言葉でいつも言いくるめられる。
本当に意地悪な精霊王様なんだから。
でも、今回はその言葉がありがたかった。
「助けて頂いてありがとうございました‥‥‥祈りたいです、本当はみんなを助けたいし、結界魔法を維持したいです。でも‥‥‥死ぬのが怖い。そう思ったら何もかもが嫌になりました」
あー嫌だなあ。
また涙が溢れてきちゃう。
あれだけ泣いたのに。
ショーン‥‥‥あんなに愛していたのに。
あの気持ちはーーどこに消えたんだろう。
もう、自分だけの人生を生きたい。
わたしは心からそう思っていた。
「そうか、ならあの王の在位期間だけは少しばかり冬を与えてやるとしよう」
「‥‥‥えっと、どういうことですか?」
エバース様は不敵な笑みを浮かべて言われた。
「大神官様に『神は新王が嫌いだから冬を続けることにした。退位させれば終わる』と、予言させればいい。ラーナは、平民に格下げさせて、愛人にしろ。側室は認めない。わたしがそう告げれば、復讐は遂げられる」
なんてことを言いだすんだろう、この精霊王様は!
まるでわたしの為に?
いいえ、そんなことがあるはずがない。
偉大な精霊王様が、こんな、単なる人間の娘の為に何かをして下さる。
そんなことはあってはならないことだ。
「残念だが、あるのさアリア。もちろん条件も存在する」
「そんなっ! だって、わたしにだって落ち度が!」
お前はどこまでも馬鹿だな?
そう、エバース様は笑って言われた。
その慈愛の深さが、わたしの聖女として相応しい、と。
「ところで条件だがな。もうこの数千年、わたしは臣下はいるが妻も恋人も愛人もいないのだ」
「それが、何か‥‥‥?」
「ああ、ずっと独り身でだ。どうにも、寂しくて仕方がない。お前がわたしの王妃となり、永遠に生きる精霊の女王となるのはどうだ? ちょうど、水の精霊王が二万年の寿命を終えて死去した‥‥‥という建前だが、退位したばかりでな。普通、精霊王は永遠に生きるのだが、一度に使える力には限界があってな。彼は全ての力を注ぎ込み、存在を確保する分まで捧げてしまった。いずれは再生はするだろうが、今は消滅したのと変わらない。その席が空いている。どうだ、わたしと結婚してくれないか? 愛しいアリア?」
とんでもない条件が飛び出してきて、空いた口が塞がらなかった‥‥‥わたしが水の精霊の女王?
しかも‥‥‥エバース様は妻に、と求婚までしてくるなんて。
「返事は決まっているな? 心の声はよく聞こえる。心地よいものだ」
「エバース様は本当に意地悪ですね‥‥‥」
はい、と。
その返事は不要だった。
抱きしめられ、優しいキスがわたしに贈られる。
わたしは、生きていて本当に良かったとそう思った。
そして、エバース様は言うのだ。
「ああ、そうだ。王が退位する時に、二人で行って祝ってやろうではないか。浮気者の愚王め、ざまあみろ、とな?」
それは――本当はいけないのだけど。
でも、少しだけしてみたい野望になった。
こうしてわたしは、精霊王様の溺愛を受けるようになった。
人生は‥‥‥必ず、良いことがある。
そう思える始まりの瞬間だった。
0
お気に入りに追加
3,168
あなたにおすすめの小説
私は幼い頃に死んだと思われていた侯爵令嬢でした
さこの
恋愛
幼い頃に誘拐されたマリアベル。保護してくれた男の人をお母さんと呼び、父でもあり兄でもあり家族として暮らしていた。
誘拐される以前の記憶は全くないが、ネックレスにマリアベルと名前が記されていた。
数年後にマリアベルの元に侯爵家の遣いがやってきて、自分は貴族の娘だと知る事になる。
お母さんと呼ぶ男の人と離れるのは嫌だが家に戻り家族と会う事になった。
片田舎で暮らしていたマリアベルは貴族の子女として学ぶ事になるが、不思議と読み書きは出来るし食事のマナーも悪くない。
お母さんと呼ばれていた男は何者だったのだろうか……? マリアベルは貴族社会に馴染めるのか……
っと言った感じのストーリーです。
心の声が聞こえる私は、婚約者から嫌われていることを知っている。
木山楽斗
恋愛
人の心の声が聞こえるカルミアは、婚約者が自分のことを嫌っていることを知っていた。
そんな婚約者といつまでも一緒にいるつもりはない。そう思っていたカルミアは、彼といつか婚約破棄すると決めていた。
ある時、カルミアは婚約者が浮気していることを心の声によって知った。
そこで、カルミアは、友人のロウィードに協力してもらい、浮気の証拠を集めて、婚約者に突きつけたのである。
こうして、カルミアは婚約破棄して、自分を嫌っている婚約者から解放されるのだった。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが
マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって?
まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ?
※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。
※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。
【完結】婚約破棄にて奴隷生活から解放されたので、もう貴方の面倒は見ませんよ?
かのん
恋愛
ℌot ランキング乗ることができました! ありがとうございます!
婚約相手から奴隷のような扱いを受けていた伯爵令嬢のミリー。第二王子の婚約破棄の流れで、大嫌いな婚約者のエレンから婚約破棄を言い渡される。
婚約者という奴隷生活からの解放に、ミリーは歓喜した。その上、憧れの存在であるトーマス公爵に助けられて~。
婚約破棄によって奴隷生活から解放されたミリーはもう、元婚約者の面倒はみません!
4月1日より毎日更新していきます。およそ、十何話で完結予定。内容はないので、それでも良い方は読んでいただけたら嬉しいです。
作者 かのん
婚約者の浮気をゴシップ誌で知った私のその後
桃瀬さら
恋愛
休暇で帰国中のシャーロットは、婚約者の浮気をゴシップ誌で知る。
領地が隣同士、母親同士の仲が良く、同じ年に生まれた子供が男の子と女の子。
偶然が重なり気がついた頃には幼馴染み兼婚約者になっていた。
そんな婚約者は今や貴族社会だけではなく、ゴシップ誌を騒がしたプレイボーイ。
婚約者に婚約破棄を告げ、帰宅するとなぜか上司が家にいた。
上司と共に、違法魔法道具の捜査をする事となったシャーロットは、捜査を通じて上司に惹かれいくが、上司にはある秘密があって……
婚約破棄したシャーロットが幸せになる物語
婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる