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第八章 エイジスの蒼い髪

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 そして、アルフレッドはやるべきことを始めていた。
 すうっと一息。 
 アルフレッドは膝を抱えて俯いたままのナターシャに静かに近付いた。
「はい、お姫様。
 ごめんよ、乱暴で」
「ちょっと、いきなりなにを!?」
 本当にお姫様を抱えあげるように、彼は軽々と自分と同じほどに背があるナターシャを抱えあげてしまった。
「軽いね。
 ちゃんと食べてる、ナターシャ?
 こんなに細くなって、まあ、最初からそうだったけど」
「そんなこと、あなたに‥‥‥関係ないじゃない。
 おろしてください。
 わたしは――」
 ナターシャはアルフレッドから顔を背けてしまう。
 やれやれ、素直じゃないよね、本当に。
 アルフレッドはあきれながらそっとナターシャにささやいた。
「ちゃんと、ナターシャの幻の記憶は‥‥‥俺は全部、見ていたよ」
「あなた、何を言って‥‥‥!?」
 ふふふ、とアルフレッドは微笑んで見せる。
「怨霊たちの会話も、彼とも会話もさ。
 でも、だからといって何かを求めたり強いたりはしないよ。
 ただし、俺は帰らない。
 一度は助けられたんだから。
 次は俺が、ね?
 一緒に行こうよ、俺のお姫様?」
「あ、あなた‥‥‥あれを全部!?
 なんてひどいっ!!
 わたしの心の中まで見るなんて‥‥‥」
 呆れてナターシャはため息をついていた。
 彼の、いや、彼への想いまで知られていたなんて。
 でも、強引には誘わないってこと?
 なんでだろう、貴族社会は男性が優先で、女は家の持ち物。
 女性に決定権なんてあり得ないのに。
「ごめんな、ナターシャ。
 知りたくてそうなった訳じゃなんだ。
 でもさ‥‥‥いまは、ここを離れない?
 静かに寝たい人もいるだろうし」
「そこまでー‥‥‥???」
「うん、そこまでだよ。
 彼はあの神殿の中のことを全部、視ているって言っていたから。
 まあ、あれに入らないと目が覚めないからそれ以前はわからないって言っていたけどね」
 そう言うアルフレッドは悪戯っぽく微笑んでいた。
 墓所は静かに去ろう?
 そう言われ、ナターシャは、
「なら、おろして‥‥‥?
 恥ずかしい」
「うん?
 嫌だよ。
 これからは俺が抱いて移動するさ。
 そうすれば、トラブルにあっても一緒に巻き込まれる」
 あははっ、アルフレッドはそう軽く笑い、ナターシャを更にしっかりと抱き上げた。
 ナターシャは恥ずかしいし、でも嬉しい。
 それ以上に、彼に甘えていいかわからない。
「いつかまた、嫌になるわ。
 あなたも、彼等のようにー‥‥‥」
 顔を再び伏せてしまう少女は、自分は呪われている。
 その思いから抜け出せずにいた。
「そう、ならそれでもいいよ。
 君がさきに行けば、俺はおいかけるさ。
 生きてればそれができる。
 彼等のように死んだら‥‥‥それでも怨霊になればできるかもね?」
「あなた‥‥‥本当に馬鹿ね。
 こんなどうしようもない女なんて、関わるべきじゃないのに。
 なぜ、わたしに付き合ってくれるの、アルフレッド?」
 やれやれ、抱き上げても視線の高さは変わらないだね。
 俺ももう少し、身長があればいいのに。
 アルフレッドは仕方ないお姫様だなあ、そう苦笑していた。
「貴族様って、女性は男性に従うんじゃなかったっけ、ナターシャ?」
「‥‥‥?
 そうだけど、それが何?」
「いまのナターシャは俺にはお姫様だけど、世間的にはどうなの?」
 どうなのって、それは罪人で、逃亡者で‥‥‥誉められた存在じゃない。
 ナターシャは静かに首を振る。
 彼を拒絶するように。
 そして、アルフレッドは彼女を優しく抱きしめて言った。
「俺も逃げようと思っていたよ?
 この神殿を出て、エイジスに付いたら飛空艇で戻ろうって」
「そう‥‥‥なの?
 なぜ、変わったの??」
「彼に会ったから。
 時間は俺たちには短い、有限なものだって知ったから、かな。
 君は受け入れなくてもいいよ。
 俺がそばにいたい、それだけだから」
「アル、でも‥‥‥それじゃあなたまでまた――」
「また、は何度もあったろ?
 今回で七回目。
 ドジで抜けている竜王様と不思議な水の精霊女王様。
 不器用な炎の魔神様に、全てを背負おうとして、ひとり悲しみに暮れるお姫様。
 俺は騎士でもなんでもないけどね。
 よっと」
 ただの少年だけど、まあ、抱き上げるくらいはできるんだよ。
 だから、行こう。
 エイジスへ。
 アルフレッドはナターシャにそう促す。
 自由を掴むことは罪じゃないよ、と。
 ナターシャはそれを納得できないまま、うなづいていた。
 
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