80 / 90
第八章 エイジスの蒼い髪
4
しおりを挟む
そして、アルフレッドはやるべきことを始めていた。
すうっと一息。
アルフレッドは膝を抱えて俯いたままのナターシャに静かに近付いた。
「はい、お姫様。
ごめんよ、乱暴で」
「ちょっと、いきなりなにを!?」
本当にお姫様を抱えあげるように、彼は軽々と自分と同じほどに背があるナターシャを抱えあげてしまった。
「軽いね。
ちゃんと食べてる、ナターシャ?
こんなに細くなって、まあ、最初からそうだったけど」
「そんなこと、あなたに‥‥‥関係ないじゃない。
おろしてください。
わたしは――」
ナターシャはアルフレッドから顔を背けてしまう。
やれやれ、素直じゃないよね、本当に。
アルフレッドはあきれながらそっとナターシャにささやいた。
「ちゃんと、ナターシャの幻の記憶は‥‥‥俺は全部、見ていたよ」
「あなた、何を言って‥‥‥!?」
ふふふ、とアルフレッドは微笑んで見せる。
「怨霊たちの会話も、彼とも会話もさ。
でも、だからといって何かを求めたり強いたりはしないよ。
ただし、俺は帰らない。
一度は助けられたんだから。
次は俺が、ね?
一緒に行こうよ、俺のお姫様?」
「あ、あなた‥‥‥あれを全部!?
なんてひどいっ!!
わたしの心の中まで見るなんて‥‥‥」
呆れてナターシャはため息をついていた。
彼の、いや、彼への想いまで知られていたなんて。
でも、強引には誘わないってこと?
なんでだろう、貴族社会は男性が優先で、女は家の持ち物。
女性に決定権なんてあり得ないのに。
「ごめんな、ナターシャ。
知りたくてそうなった訳じゃなんだ。
でもさ‥‥‥いまは、ここを離れない?
静かに寝たい人もいるだろうし」
「そこまでー‥‥‥???」
「うん、そこまでだよ。
彼はあの神殿の中のことを全部、視ているって言っていたから。
まあ、あれに入らないと目が覚めないからそれ以前はわからないって言っていたけどね」
そう言うアルフレッドは悪戯っぽく微笑んでいた。
墓所は静かに去ろう?
そう言われ、ナターシャは、
「なら、おろして‥‥‥?
恥ずかしい」
「うん?
嫌だよ。
これからは俺が抱いて移動するさ。
そうすれば、トラブルにあっても一緒に巻き込まれる」
あははっ、アルフレッドはそう軽く笑い、ナターシャを更にしっかりと抱き上げた。
ナターシャは恥ずかしいし、でも嬉しい。
それ以上に、彼に甘えていいかわからない。
「いつかまた、嫌になるわ。
あなたも、彼等のようにー‥‥‥」
顔を再び伏せてしまう少女は、自分は呪われている。
その思いから抜け出せずにいた。
「そう、ならそれでもいいよ。
君がさきに行けば、俺はおいかけるさ。
生きてればそれができる。
彼等のように死んだら‥‥‥それでも怨霊になればできるかもね?」
「あなた‥‥‥本当に馬鹿ね。
こんなどうしようもない女なんて、関わるべきじゃないのに。
なぜ、わたしに付き合ってくれるの、アルフレッド?」
やれやれ、抱き上げても視線の高さは変わらないだね。
俺ももう少し、身長があればいいのに。
アルフレッドは仕方ないお姫様だなあ、そう苦笑していた。
「貴族様って、女性は男性に従うんじゃなかったっけ、ナターシャ?」
「‥‥‥?
そうだけど、それが何?」
「いまのナターシャは俺にはお姫様だけど、世間的にはどうなの?」
どうなのって、それは罪人で、逃亡者で‥‥‥誉められた存在じゃない。
ナターシャは静かに首を振る。
彼を拒絶するように。
そして、アルフレッドは彼女を優しく抱きしめて言った。
「俺も逃げようと思っていたよ?
この神殿を出て、エイジスに付いたら飛空艇で戻ろうって」
「そう‥‥‥なの?
なぜ、変わったの??」
「彼に会ったから。
時間は俺たちには短い、有限なものだって知ったから、かな。
君は受け入れなくてもいいよ。
俺がそばにいたい、それだけだから」
「アル、でも‥‥‥それじゃあなたまでまた――」
「また、は何度もあったろ?
今回で七回目。
ドジで抜けている竜王様と不思議な水の精霊女王様。
不器用な炎の魔神様に、全てを背負おうとして、ひとり悲しみに暮れるお姫様。
俺は騎士でもなんでもないけどね。
よっと」
ただの少年だけど、まあ、抱き上げるくらいはできるんだよ。
だから、行こう。
エイジスへ。
アルフレッドはナターシャにそう促す。
自由を掴むことは罪じゃないよ、と。
ナターシャはそれを納得できないまま、うなづいていた。
すうっと一息。
アルフレッドは膝を抱えて俯いたままのナターシャに静かに近付いた。
「はい、お姫様。
ごめんよ、乱暴で」
「ちょっと、いきなりなにを!?」
本当にお姫様を抱えあげるように、彼は軽々と自分と同じほどに背があるナターシャを抱えあげてしまった。
「軽いね。
ちゃんと食べてる、ナターシャ?
こんなに細くなって、まあ、最初からそうだったけど」
「そんなこと、あなたに‥‥‥関係ないじゃない。
おろしてください。
わたしは――」
ナターシャはアルフレッドから顔を背けてしまう。
やれやれ、素直じゃないよね、本当に。
アルフレッドはあきれながらそっとナターシャにささやいた。
「ちゃんと、ナターシャの幻の記憶は‥‥‥俺は全部、見ていたよ」
「あなた、何を言って‥‥‥!?」
ふふふ、とアルフレッドは微笑んで見せる。
「怨霊たちの会話も、彼とも会話もさ。
でも、だからといって何かを求めたり強いたりはしないよ。
ただし、俺は帰らない。
一度は助けられたんだから。
次は俺が、ね?
一緒に行こうよ、俺のお姫様?」
「あ、あなた‥‥‥あれを全部!?
なんてひどいっ!!
わたしの心の中まで見るなんて‥‥‥」
呆れてナターシャはため息をついていた。
彼の、いや、彼への想いまで知られていたなんて。
でも、強引には誘わないってこと?
なんでだろう、貴族社会は男性が優先で、女は家の持ち物。
女性に決定権なんてあり得ないのに。
「ごめんな、ナターシャ。
知りたくてそうなった訳じゃなんだ。
でもさ‥‥‥いまは、ここを離れない?
静かに寝たい人もいるだろうし」
「そこまでー‥‥‥???」
「うん、そこまでだよ。
彼はあの神殿の中のことを全部、視ているって言っていたから。
まあ、あれに入らないと目が覚めないからそれ以前はわからないって言っていたけどね」
そう言うアルフレッドは悪戯っぽく微笑んでいた。
墓所は静かに去ろう?
そう言われ、ナターシャは、
「なら、おろして‥‥‥?
恥ずかしい」
「うん?
嫌だよ。
これからは俺が抱いて移動するさ。
そうすれば、トラブルにあっても一緒に巻き込まれる」
あははっ、アルフレッドはそう軽く笑い、ナターシャを更にしっかりと抱き上げた。
ナターシャは恥ずかしいし、でも嬉しい。
それ以上に、彼に甘えていいかわからない。
「いつかまた、嫌になるわ。
あなたも、彼等のようにー‥‥‥」
顔を再び伏せてしまう少女は、自分は呪われている。
その思いから抜け出せずにいた。
「そう、ならそれでもいいよ。
君がさきに行けば、俺はおいかけるさ。
生きてればそれができる。
彼等のように死んだら‥‥‥それでも怨霊になればできるかもね?」
「あなた‥‥‥本当に馬鹿ね。
こんなどうしようもない女なんて、関わるべきじゃないのに。
なぜ、わたしに付き合ってくれるの、アルフレッド?」
やれやれ、抱き上げても視線の高さは変わらないだね。
俺ももう少し、身長があればいいのに。
アルフレッドは仕方ないお姫様だなあ、そう苦笑していた。
「貴族様って、女性は男性に従うんじゃなかったっけ、ナターシャ?」
「‥‥‥?
そうだけど、それが何?」
「いまのナターシャは俺にはお姫様だけど、世間的にはどうなの?」
どうなのって、それは罪人で、逃亡者で‥‥‥誉められた存在じゃない。
ナターシャは静かに首を振る。
彼を拒絶するように。
そして、アルフレッドは彼女を優しく抱きしめて言った。
「俺も逃げようと思っていたよ?
この神殿を出て、エイジスに付いたら飛空艇で戻ろうって」
「そう‥‥‥なの?
なぜ、変わったの??」
「彼に会ったから。
時間は俺たちには短い、有限なものだって知ったから、かな。
君は受け入れなくてもいいよ。
俺がそばにいたい、それだけだから」
「アル、でも‥‥‥それじゃあなたまでまた――」
「また、は何度もあったろ?
今回で七回目。
ドジで抜けている竜王様と不思議な水の精霊女王様。
不器用な炎の魔神様に、全てを背負おうとして、ひとり悲しみに暮れるお姫様。
俺は騎士でもなんでもないけどね。
よっと」
ただの少年だけど、まあ、抱き上げるくらいはできるんだよ。
だから、行こう。
エイジスへ。
アルフレッドはナターシャにそう促す。
自由を掴むことは罪じゃないよ、と。
ナターシャはそれを納得できないまま、うなづいていた。
0
お気に入りに追加
446
あなたにおすすめの小説
めんどくさいが口ぐせになった令嬢らしからぬわたくしを、いいかげん婚約破棄してくださいませ。
hoo
恋愛
ほぅ……(溜息)
前世で夢中になってプレイしておりました乙ゲーの中で、わたくしは男爵の娘に婚約者である皇太子さまを奪われそうになって、あらゆる手を使って彼女を虐め抜く悪役令嬢でございました。
ですのに、どういうことでございましょう。
現実の世…と申していいのかわかりませぬが、この世におきましては、皇太子さまにそのような恋人は未だに全く存在していないのでございます。
皇太子さまも乙ゲーの彼と違って、わたくしに大変にお優しいですし、第一わたくし、皇太子さまに恋人ができましても、その方を虐め抜いたりするような下品な品性など持ち合わせてはおりませんの。潔く身を引かせていただくだけでございますわ。
ですけど、もし本当にあの乙ゲーのようなエンディングがあるのでしたら、わたくしそれを切に望んでしまうのです。婚約破棄されてしまえば、わたくしは晴れて自由の身なのですもの。もうこれまで辿ってきた帝王教育三昧の辛いイバラの道ともおさらばになるのですわ。ああなんて素晴らしき第二の人生となりますことでしょう。
ですから、わたくし決めました。あの乙ゲーをこの世界で実現すると。
そうです。いまヒロインが不在なら、わたくしが用意してしまえばよろしいのですわ。そして皇太子さまと恋仲になっていただいて、わたくしは彼女にお茶などをちょっとひっかけて差し上げたりすればいいのですよね。
さあ始めますわよ。
婚約破棄をめざして、人生最後のイバラの道行きを。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ヒロインサイドストーリー始めました
『めんどくさいが口ぐせになった公爵令嬢とお友達になりたいんですが。』
↑ 統合しました
乙女ゲームのヒロインとして転生しましたが、謹んで回避させて頂きます!
アズやっこ
恋愛
大好きなお母さんがこの世を去った。
月に一度やって来るお父さんは男爵って貴族だった。
私はお父さんに連れられて男爵令嬢になった。
男爵令嬢になった私は、貴族の令息、令嬢が通う貴族学園に入学した。 入学式が終わり、教室へ移動中、誰かとぶつかり倒れた私は気を失い、前世の記憶を思い出した。
友達に進められた乙女ゲーム、私には合わなくてすぐやめちゃったけど、その世界のヒロインに転生してた。
王子ルート? 時期宰相ルート? 時期騎士団長ルート? 隠れルート?
嫌嫌、全部スルーして、ヒロインを謹んで回避させて頂きます。
死に役はごめんなので好きにさせてもらいます
橋本彩里(Ayari)
恋愛
フェリシアは幼馴染で婚約者のデュークのことが好きで健気に尽くしてきた。
前世の記憶が蘇り、物語冒頭で死ぬ役目の主人公たちのただの盛り上げ要員であると知ったフェリシアは、死んでたまるかと物語のヒーロー枠であるデュークへの恋心を捨てることを決意する。
愛を返されない、いつか違う人とくっつく予定の婚約者なんてごめんだ。しかも自分は死に役。
フェリシアはデューク中心の生活をやめ、なんなら婚約破棄を目指して自分のために好きなことをしようと決める。
どうせ何をしていても気にしないだろうとデュークと距離を置こうとするが……
お付き合いいただけたら幸いです。
たくさんのいいね、エール、感想、誤字報告をありがとうございます!
妻の死で思い知らされました。
あとさん♪
恋愛
外交先で妻の突然の訃報を聞いたジュリアン・カレイジャス公爵。
急ぎ帰国した彼が目にしたのは、淡々と葬儀の支度をし弔問客たちの対応をする子どもらの姿だった。
「おまえたちは母親の死を悲しいとは思わないのか⁈」
ジュリアンは知らなかった。
愛妻クリスティアナと子どもたちがどのように生活していたのか。
多忙のジュリアンは気がついていなかったし、見ようともしなかったのだ……。
そしてクリスティアナの本心は——。
※全十二話。
※作者独自のなんちゃってご都合主義異世界だとご了承ください
※時代考証とか野暮は言わないお約束
※『愚かな夫とそれを見限る妻』というコンセプトで書いた第三弾。
第一弾『妻の死を人伝てに聞きました。』
第二弾『そういうとこだぞ』
それぞれ因果関係のない独立したお話です。合わせてお楽しみくださると一興かと。
※この話は小説家になろうにも投稿しています。
ヒロイン不在の悪役令嬢はハッピーエンドを望んでいる〜幽霊になった天然ヒロインとシスコン兄がいるのは想定外です〜
椿谷あずる
恋愛
悪役令嬢エレナ。彼女がライバル視していた少女フィーネは不慮の事故により突然の死を遂げた。これで私の邪魔をする者はいない。そう確信していたエレナの前に現れたのは、幽霊になったフィーネとその兄ルドルフだった。これまでの復讐をされるかと思いきや、フィーネはエレナに友達になって欲しいと申し出る。
これは、どストレートな悪役令嬢がハッピーエンドを目指したいのに、悪役令嬢大好き天然ヒロインとそのシスコン兄に振り回されてしまう、ほのぼのコメディファンタジーである。
懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。
梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。
あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。
その時までは。
どうか、幸せになってね。
愛しい人。
さようなら。
姿を偽った黒髪令嬢は、女嫌いな公爵様のお世話係をしているうちに溺愛されていたみたいです
鳴宮野々花@初書籍発売中【二度婚約破棄】
恋愛
王国の片田舎にある小さな町から、八歳の時に母方の縁戚であるエヴェリー伯爵家に引き取られたミシェル。彼女は伯爵一家に疎まれ、美しい髪を黒く染めて使用人として生活するよう強いられた。以来エヴェリー一家に虐げられて育つ。
十年後。ミシェルは同い年でエヴェリー伯爵家の一人娘であるパドマの婚約者に嵌められ、伯爵家を身一つで追い出されることに。ボロボロの格好で人気のない場所を彷徨っていたミシェルは、空腹のあまりふらつき倒れそうになる。
そこへ馬で通りがかった男性と、危うくぶつかりそうになり──────
※いつもの独自の世界のゆる設定なお話です。何もかもファンタジーです。よろしくお願いします。
※この作品はカクヨム、小説家になろう、ベリーズカフェにも投稿しています。
婚約破棄された令嬢は変人公爵に嫁がされる ~新婚生活を嘲笑いにきた? 夫がかわゆすぎて今それどころじゃないんですが!!
杓子ねこ
恋愛
侯爵令嬢テオドシーネは、王太子の婚約者として花嫁修業に励んできた。
しかしその努力が裏目に出てしまい、王太子ピエトロに浮気され、浮気相手への嫌がらせを理由に婚約破棄された挙句、変人と名高いクイア公爵のもとへ嫁がされることに。
対面した当主シエルフィリードは馬のかぶりものをして、噂どおりの奇人……と思ったら、馬の下から出てきたのは超絶美少年?
でもあなたかなり年上のはずですよね? 年下にしか見えませんが? どうして涙ぐんでるんですか?
え、王太子殿下が新婚生活を嘲笑いにきた? 公爵様がかわゆすぎていまそれどころじゃないんですが!!
恋を知らなかった生真面目令嬢がきゅんきゅんしながら引きこもり公爵を育成するお話です。
本編11話+番外編。
※「小説家になろう」でも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる