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第五章 神々の山脈
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その朝。
人斬りと異名を取る子爵は、王宮外縁にある与えられた執務室にいた。
罪人の首を刎ねるその仕事柄、彼は御不浄役。
そう呼ばれ、忌み汚い者として王宮への登城は許されない。
そんなしきたりになっていた。
「フラン公爵令嬢サーシャ様が、学院の塔より落ちて自殺‥‥‥???
なんだ、この報告書は!?」
彼が部下に声を張り上げるのも無理はない。
死体の後始末、現場の洗浄。
その全てが発見時に、『学院内の衛士』、によって行われていたからだ。
部下は反論の声を上げる。
「エルムンド学院は、国内外の有力貴族子弟子女の集まる養育機関の為‥‥‥。
王国の法は――まかり通りませんでした‥‥‥」
「治外法権か‥‥‥しかし、命じた者はこの国の者だろう?
誰が命じた?
学院長か、理事会か?」
いえ、それが――。
部下はそう声を濁す。
その名を口にしづらい。そんな様子だった。
「構わん、ここはどうせ、誰もやってなど来ない。
そういう場所だ‥‥‥言ったところで罪にはならん」
御不浄役だの、鮮血子爵だのと忌み汚い、穢れるからと衛士ですら避けるこの場に‥‥‥
誰が好き好んで来るものか。
そう諭されて部下は口を開いた。
「表向きではその、理事会の誰か、だと。
しかし、わたしの弟が通っておりますが‥‥‥殿下では、ないか。と――」
それはそれは。
出てくるにしてはあまりにも大きすぎる名前だ。
さて、そんな大魚をこの剣で斬れるかな?
幾人もの血を吸ってきた愛剣を、彼はそっと撫でて詳細を聞きだした。
「それはどういう理由で名が上がっているのかな?」
「はい、子爵様。
その――前夜、フラン公爵令嬢サーシャ様は第二王子エルウィン殿下と‥‥‥歌劇場にいた。
そう、幾人ものその夜に同じ場にいた貴族連中が申しておりましてー‥‥‥」
歌劇場?
まさかあの夜か?
ゼイルード卿の脳裏に、第二王子とその婚約者と言っていた少女の顔が記憶によみがえる。
「そのサーシャ様の特徴は?」
このような風体です、と部下はそれを報告する。
髪型に髪色、瞳の色‥‥‥間違いない。
あの夜だ。
第二王子め、何を考えている!?
「それと、子爵様、いえ、ゼイルード卿。
遺書が、残されておりました」
遺書?
こんな奇妙な衣装で飛び降り自殺をした上に、遺書まで??
「それは?
写しは無いのか?」
「あ、それは下の方に‥‥‥」
ああ、そうか。
まだすべてに目を通してはいなかった。
彼は反省しながら、報告書を読み解いていく。
学院の創立記念日に行われる建国王と王妃の物語。
その舞台衣装を着ての飛び降り自殺。
しかも、国王役の衣装を着て、だ。
これでは魔女とした扱われ、魔女裁判の名の下に全ての捜査は出来なくなるだろう。
(そう目論んだ者がいる。
そいうことか――)
遺書には、ナターシャに着るように周囲を煽ったのはわたしです、とそんな内容が書かれていた。
ナターシャ?
誰のことだ?
いや、待て‥‥‥あの学院で似たような事件が先週にあったはず。
ギース侯爵令嬢ナターシャ。
その名前を思い出した時、男装をした罪であの嘆きの塔に監禁したエメラルド色の髪の少女を思い出した。
警護兵たちが、さんざん言っていたからだ。
自分は無実だと泣きわめいていた、と。
「あれから何日だ!?
五日‥‥‥まだ、手足は無事なはず。
おい、馬車を用意しろ、いや馬でも構わん!!
無実の者が、犠牲になるかもしれん、急げ!!!」
その後、ゼイルード卿以下、三頭の騎馬が王宮の外縁からあの処刑場を目指して駆けだして行った。
人斬りと異名を取る子爵は、王宮外縁にある与えられた執務室にいた。
罪人の首を刎ねるその仕事柄、彼は御不浄役。
そう呼ばれ、忌み汚い者として王宮への登城は許されない。
そんなしきたりになっていた。
「フラン公爵令嬢サーシャ様が、学院の塔より落ちて自殺‥‥‥???
なんだ、この報告書は!?」
彼が部下に声を張り上げるのも無理はない。
死体の後始末、現場の洗浄。
その全てが発見時に、『学院内の衛士』、によって行われていたからだ。
部下は反論の声を上げる。
「エルムンド学院は、国内外の有力貴族子弟子女の集まる養育機関の為‥‥‥。
王国の法は――まかり通りませんでした‥‥‥」
「治外法権か‥‥‥しかし、命じた者はこの国の者だろう?
誰が命じた?
学院長か、理事会か?」
いえ、それが――。
部下はそう声を濁す。
その名を口にしづらい。そんな様子だった。
「構わん、ここはどうせ、誰もやってなど来ない。
そういう場所だ‥‥‥言ったところで罪にはならん」
御不浄役だの、鮮血子爵だのと忌み汚い、穢れるからと衛士ですら避けるこの場に‥‥‥
誰が好き好んで来るものか。
そう諭されて部下は口を開いた。
「表向きではその、理事会の誰か、だと。
しかし、わたしの弟が通っておりますが‥‥‥殿下では、ないか。と――」
それはそれは。
出てくるにしてはあまりにも大きすぎる名前だ。
さて、そんな大魚をこの剣で斬れるかな?
幾人もの血を吸ってきた愛剣を、彼はそっと撫でて詳細を聞きだした。
「それはどういう理由で名が上がっているのかな?」
「はい、子爵様。
その――前夜、フラン公爵令嬢サーシャ様は第二王子エルウィン殿下と‥‥‥歌劇場にいた。
そう、幾人ものその夜に同じ場にいた貴族連中が申しておりましてー‥‥‥」
歌劇場?
まさかあの夜か?
ゼイルード卿の脳裏に、第二王子とその婚約者と言っていた少女の顔が記憶によみがえる。
「そのサーシャ様の特徴は?」
このような風体です、と部下はそれを報告する。
髪型に髪色、瞳の色‥‥‥間違いない。
あの夜だ。
第二王子め、何を考えている!?
「それと、子爵様、いえ、ゼイルード卿。
遺書が、残されておりました」
遺書?
こんな奇妙な衣装で飛び降り自殺をした上に、遺書まで??
「それは?
写しは無いのか?」
「あ、それは下の方に‥‥‥」
ああ、そうか。
まだすべてに目を通してはいなかった。
彼は反省しながら、報告書を読み解いていく。
学院の創立記念日に行われる建国王と王妃の物語。
その舞台衣装を着ての飛び降り自殺。
しかも、国王役の衣装を着て、だ。
これでは魔女とした扱われ、魔女裁判の名の下に全ての捜査は出来なくなるだろう。
(そう目論んだ者がいる。
そいうことか――)
遺書には、ナターシャに着るように周囲を煽ったのはわたしです、とそんな内容が書かれていた。
ナターシャ?
誰のことだ?
いや、待て‥‥‥あの学院で似たような事件が先週にあったはず。
ギース侯爵令嬢ナターシャ。
その名前を思い出した時、男装をした罪であの嘆きの塔に監禁したエメラルド色の髪の少女を思い出した。
警護兵たちが、さんざん言っていたからだ。
自分は無実だと泣きわめいていた、と。
「あれから何日だ!?
五日‥‥‥まだ、手足は無事なはず。
おい、馬車を用意しろ、いや馬でも構わん!!
無実の者が、犠牲になるかもしれん、急げ!!!」
その後、ゼイルード卿以下、三頭の騎馬が王宮の外縁からあの処刑場を目指して駆けだして行った。
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