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第五章 神々の山脈

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「あ、あの竜王様?
 でも、いきなり行かれてもーーその‥‥‥。
 教会もありますし、疑いを持つ人間も多いのではないのでしょうか?」
 うん?
 竜王は不思議そうな顔をする。
 自分が本来の姿に戻り、ナターシャを乗せて王城へ乗り込む。
 それではダメなのだろうか?
 そんなことを考えていそうだな、そうアルフレッドは察した。
「竜王様、竜王様ーー」
「なんだ、アルフレッド?」
「本体に戻って、ナターシャ連れて債権回収とか安直に考えてませんよね、もしかして?」
 その言葉ずばり、その通りだったらしい。
 竜王は少しだけ、困った顔をしていた。
「それは多分、いろんな揉め事を起こすんじゃないかなーって。
 俺は思うんですよ。
 だって、竜王様の本来の御姿なんて初代のあの国の王様は見たかもしれないけど。
 絵に残っている可能性とか少なくないですか?
 ナターシャがされた魔女裁判とかの話聞いてたら、土地を借りているなんて事実すら消された可能性もあったりしたりして‥‥‥なあ、ナターシャはどう思う?」
 え、わたし?
 泣いたり怒りだの怨念だのに心がさんざん振り回された少女は困惑してしまう。
 竜王様に土地をお借りした話はーー
「竜王様‥‥‥。
 その、わたしが出る予定だった演劇は、建国王の物語なんです。
 でも、その中には竜王様から土地をお借りした。
 そういった話はそのー‥‥‥」
 言いづらいことだった。
 もう王国の歴史からその事実が消されているのだから。
 竜王はなるほど、な。
 そう寂しそうに呟くと、ナターシャが持っていた剣をゆっくりと抜き放った。

 --殺される?
 一瞬、そんな思いが頭をよぎる。
 身体が硬くなり、恐怖が心に充満されていく。 
 だが、それは単なる杞憂に終わった。
 竜王はその剣を愛おしそうに、そして、懐かしそうに眺めまた鞘に戻したからだ。
 彼は、悲し気に語り出す。
「ずっとだ。 
 あいつを王国へと戻すべきではなかった。
 もしかしたら、何かの事故か事件に巻き込まれたか。
 それとも愛想を尽かされたか。
 いや、家族でもできたのかもしれない。
 それとも、あれは高級武官だったから他国へ派遣されているのかもしれない。
 寿命を全うしたのか、元気でいたのか。
 ずっと‥‥‥六世紀も待ち続けた。
 後悔と不安と、信頼を裏切るようなことをしたのかもしれない。
 彼の信用をわたしが失ったのかもしれない。
 そう悔やんできた。
 なぜ、死んだのか。
 それはこの剣が教えてくれた‥‥‥親友のかたき討ちもわたしはしたい」
 かたき討ち?
 それはつまり、彼はあの嘆きの塔で殺された?
 教会によって‥‥‥
「魔女裁判、ですか‥‥‥?
 わたしは運よく助かったと思っていました。
 でも、大勢の死者の怨念が、どうかこの事実をしらしめてくれ。
 そう言っているような気がしています。
 彼の、その剣に出会ったのもーーもしかしたらそういった巡り合わせなのかもしれません」
 ナターシャは、いまここで竜王に会えたことを感謝していた。
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