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第四章 カヌークの番人

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「さあ、この部屋ですよ」
 そう言って案内はしたものの、どうしたものかと思案にくれた。
 ふと、竜王が呟いた。
「しかし、アーベイル神とはどんな神なのか。
 会ったことも無ければ、神の存在すら王国からは感じない。
 彼は心配していたのだ。
 魔女裁判だの、悪魔裁判だのと。
 無実の人間が、この旧街道より向こうの山に処刑場ができ、そこで処刑されている、と。
 ナターシャはそこから来たのか?」
「‥‥‥魔女‥‥‥裁判?」
 その単語にナターシャがピクリと反応した。
 涙を流しながら彼女は叫ぶように言った。
「第二王子に騙された。
 学院で建国王の舞台を毎年するの。
 その演劇の王役が第二王子で‥‥‥王妃役がわたしでした。
 創立祭を祝うために毎年されている、行事のための稽古で王子が遅れてくるからって。
 わたしの男装を見たいから王子の衣装を着て欲しいって‥‥‥周りにそうそそのかされて。
 でも、教会の教義では女性が男性の服を着るのは死罪なんです。
 魔女だと言われるの、だけど!!
 歌劇場では女性が男装をして舞台に立っていたの!
 演劇をするためなら、男装しても罪にはならないってそう、周りに言われてー‥‥‥。
 わたしがばかだったんだわ。
 後から知ったの!
 教会に申請を出して許可をえた者だけが、演劇で男装しても罪には問われないって。
 知らなかったわたしがーー愚かだった。
 そう思います‥‥‥それで、王様の衣装を着ている時に第二王子とサーシャ様が現れて‥‥‥」
 一気に叫ぶように話すから息がきれそうになった。
 大丈夫だよ、落ち着いて。
 そう、アルフレッドが声をかけてナターシャ落ち着きを取り戻した。
「あの、恥ずかしい話ですけど。
 第二王子から婚約をされて受け入れてたの。
 でも男装したわたしは魔女だから、と。
 その場で下着以外、全てをはぎ取られて衛士に連行されました‥‥‥牢屋に行く前に言われたわ」


 --やあ、元婚約者殿。
   もう君は魔女だ。婚約は破棄させてもらおう。
   これからはーーサーシャが新しい婚約者だーー


 あの声がいまでも耳の奥に残っている。
 あの悔しさ、みじめさ。
 何よりもサーシャと第二王子に騙された自分が情けない。
「婚約を破棄するって。
 一緒に連れていた王妃の変え役の公爵令嬢サーシャを婚約者にすると勝ち誇ったように言われた!!!
 あの場で、剣を奪って斬り殺せば良かった!!!」
 おどろおどろしい恨みつらみが心に闇を張っていく。
 亡者の怨念が彼女にそうさせていた。
 竜王はナターシャの手を取ると、それを退けるようにしてナターシャを落ち着かせる。
 そして、問いかけた。
「つまり、騙されたのだな?
 王族であり、未来の夫である第二王子に?」
 ナターシャは寂しそうにうなづいた。
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