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戦死者の戦利品

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「あの、エバンス様。
 ご質問してもよろしいでしょうか?」
「質問?
 構いませんが、何か?」
「彼が手に入れたあるものとおっしゃいますが、それが、犯罪捜査とどのような関係になり得るのでしょうか?
 それに、死亡したのであれば妹は婚約者を失っただけの話。
 当家においでになる理由にはならないのでは?」

 朝早いこの王都には、太陽が明るくのぼりはじめると薄もやが立つことがあります。
 その朝はまさしく、うろんな雰囲気の中に奇妙な寒気を覚えさせる。嫌な朝でした。

「いえ、それがこの手に入れたものが問題なのです。
 彼は敵国の子供を奴隷として‥‥‥あ、いえ。
 自分の戦利品として買い入れ、この男爵家の令嬢様に贈るつもりだったようなので‥‥‥」
「‥‥‥は?
 戦利品を、贈り物??
 奴隷、ですか‥‥‥??」

 一瞬、呆れた感覚に陥った私は寝ぼけたような物言いをしていました。
 しかしエバンス捜査官は貴族階級の人間の目から見れば、それもまた、奇異に映ったのだろうと思ったのか何も言いませんでした。
 ただ、これは御当主にお渡しするべきなのですが。
 そう言い、一枚の書類を私に手渡したのでした。

「譲渡契約書‥‥‥?
 これは人身売買の文言がありますが、そのような書類ということでいいのですか?
 アミュエラ宛に奴隷の少女、それを婚約の祝いの一つとして贈与する。
 そうありますが‥‥‥」

 はあ、と大きくため息を私がついたのを見て、捜査官は呆れたのだろうと勘違いしたのでしょう。
 彼もまた、感心するべき行いではないかもしれません。
 そう付け加えるように言ったのでした。

「奴隷は‥‥‥古い悪習です。我が王国では身分の差はあっても機会があれば上に立つことも許される。
 現にいまの宰相様は、近衛兵上がりの元農民ですからな。
 それも奴隷を婚約者につけるなどと‥‥‥犬や猫の子を贈るのとはわけが違いますからな」
「ええ‥‥‥まさしくそう思いますわ。
 アミュエラも喜ぶかどうか。
 いいえ、奴隷の仔細がなにも書かれていないのにどう喜べというのか頭を悩ませてしまいませんか?」
「まったく、言われる通りです。
 男爵令嬢様」
「リドルで結構ですわ、エバンス様。
 それで、彼の死に関してはなにか国から罰則でもあるのですか?」

 これは一番気になるところでした。
 彼が名誉の戦死でないと言われた時から‥‥‥いまは姉のリドルを気取っている私ですが、エバンス様が帰宅されたあとには涙にくれなければなりません。
 次の婚約相手を探すときに、不貞を働いたりもしくは、まともな女ではないかもしれないと、不安がられるからです。
 それは――お父様やお母様を著しく悲しませることになるでしょう。
 内心、踊る心臓の鼓動を抑えながら私は捜査官の返事を死の宣告を待つかのような心境で聞こうとしていたのでした。

「ああ、その件ですな。
 いいえ、罰則はありません。
 名誉の戦死ではありませんが、上層部もなるべく穏便に。
 事故死という形で報告をあげようとしてくれています。
 この件に関しては手紙などでの周知というわけにも参りませんので――
 どこで誰に検閲されるかもしれませんからな。
 ですから、本官が参った次第です。
 生前のカールを少しでも知る者として、そして事件の関連を追うものとして」
「そうですか‥‥‥。
 彼はどのような死に方を?
 事故死と言われましたが――」

 胸が高鳴りすぎて困る、片方は安心が先走り、片方はこの先に待ち受ける不安をかき鳴らし、なんどもなんども心臓は早鐘のように私の理性を揺さぶっていました。

「カールは事件当日、非番でした。
 まだ南の地では奴隷売買が盛んなのです。
 その市場に数名の士官仲間とともに出かけ、ここにある契約書の商品を購入し、アミュエラ様に届ける手続きを完了させた。
 ただ‥‥‥その帰り道、敵軍かそれとも山賊かに襲撃を受けたようなのです。
 他の士官のうち数名は死亡しました。しかし――カールと数名はまだ命を取り留めていた。
 逃げようとしたか、自軍に報告しようとしたのでしょう。
 その現場からさらに帰路に向かう途中の道で爆破による焼死体が発見されました。
 そのうちの一体が‥‥‥」
「つまり、戦死ではないけれど最後まで戦い抜いた結果、彼は死んだ、と?
 そう言われるのですか?」

 エバンス様は大きく、深くうなづかれました。
 ですから、アミュエラ様の今後については不名誉なことは起こらないでしょう、とも付け加えて。
 そして、彼は譲渡する旨の書類を私に託すと、我が家を後にしたのでした。

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