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Second Chapter...7/20
学友たち
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ひょっとするといつも通りかな、と考えていたのだが、学校に着いたのはかなり早めの時間だった。
まあ、目の調子によってはこういう日もある。
天気も良いし、視界は良好だ。
教室のドアをガラガラと開くと、室内に先客は一人しかいなかった。そいつは昨日も話題に出ていた俺のダチ、真智田玄人だ。元不良の俺とは違い、気弱で生真面目、敵を作らない優しいタイプの人間だった。
髪も黒の短髪。俺が銀髪で派手過ぎるのが悪いのだが、とても平凡な出で立ちな奴である。
「おっす、今日も早えな、玄人」
俺が声を掛けると、玄人は驚いたのかピクリと体を震わせてからこちらを向いた。
手には本。どうやら読書中で俺が来たのに気付かなかったらしい。
玄人は慌てて本を閉じながら、
「あはは……おはよう、虎牙」
と苦笑した。
「まーた難しい本読んでんのか、お前」
「難しいっていうか、単なるミステリだよ」
「それを難しいって言わね?」
「どうかなー……」
タイトルまでは分からないが、ミステリというからにはややこしい話なんだろう。物事を筋道立てて考えるというのは苦手だ。直感で動く方がやりやすい。
こういう推理小説を、玄人も龍美も好んで読むというのだから、素直に凄えなと思う。俺なんかには絶対無理だ。読めたとしても一ページで投げ出すことは間違いない。
「虎牙、今日は早いね」
本をしまうと、玄人は思いついたように言う。
予期していた質問だ。
「んー? まあ、目が冴えちまってな。寝つけたのが夜遅くで、起きたのもかなり早かったからよ」
「虎牙でもそういうことあるんだ」
「おい、もっぺん言ってみろ」
「あはは、冗談」
これも分かっていた返事だけに、俺は怒った素振りを見せつつも内心は笑う。
読みやすい奴だ、こいつは。
と、ちょうどそこでドアが開き、生徒がやってくる。
あいつも昨日話に出てきた友人、仁科龍美だ。
「あら、珍しいわね。寝坊助の虎牙がいるなんて」
こいつは中々高飛車な奴なので、開口一番にそんなことを言うのはしょっちゅうだった。
「あ、龍美。それは禁句」
「ん?」
玄人が忠告するのにも小首を傾げるだけ。上等だ。
「お前も殴られてえか?」
「乙女の柔肌に傷一つつけようもんなら、背負い投げじゃ済まさないわよ?」
「……お前の場合は冗談じゃなさそうなんだよな」
「ふふふ……」
龍美はその昔、空手部に所属していたらしい。エリートな家庭で育ち、勉強も上位を強いられる上に武術まで。文武両道を維持し続けるのはさぞかし大変だっただろう。
今では空手の経験を発揮することは難しくなってしまったが、龍美なら今の腕でも俺を一本背負いできそうな気がする。
龍美もいわゆるミステリマニアなので、玄人が読んでいた本のタイトルを目にすると興味はそちらへ移った。どんでん返しの面白さとか、ネタバレの怖さとかに花を咲かせる。
楽しそうで何よりだが、俺はちっとも入れない話題なので居心地が悪いのは確かだった。
まあ、だからと言ってミステリを読んでみるかとはならないけれども。
話が一段落したところで、俺も適当に話題を振ってようやく雑談に加わる。それから十分ほどが経ち、生徒たちがほぼ全員揃ったところでチャイムが鳴った。
「おはよう、皆。おや、虎牙くんもちゃんと時間通りにいるね。感心感心」
ドアがガラリと開き、そんな言葉とともに我が校のセンセイが入ってくる。あいつが俺たちを教える唯一の教師、杜村双太だ。
明るく気さくな性格、かつ医者と教師という二足の草鞋を履く懸命さもあり、彼は大人からも子どもからも好かれている。壁を感じさせない人間なので、俺も歳の差をあまり気にせず接することができた。本当はよくないんだろうが。
「うるさいぞ、双太」
「あのね……一応先生なんだから」
「自分で一応って言うなよ、センセイ……」
少し気弱というか、謙遜が多いのは玄人と似ているかもしれない。
からかいすぎるとかえってこっちが困るタイプなんだよな。
そんな双太さんは、いつも一人の女の子を連れてきている。彼女は別に双太さんの娘でも何でもなく――というか双太さんはまだ二十代なので当たり前だが――生徒の一人だった。
俺たちの仲間の一人、久礼満雀という子だ。
彼女は満生総合医療センターで実権を握る久礼貴獅の娘であり、院内の居住スペースで生活しているため毎日病院からここへやってくる。その付き添いとして医師でもある双太さんが一緒に来ているわけだ。
満雀ちゃん自身大病を患っており、自力で動くのも難しいし、容体が急変する恐れもある。そういう理由からずっと、この付き添い登校が続いているのだった。
「よし、じゃあ満雀ちゃん、座ろうね」
「はい、双太さん」
長年ああいう関係が続いているからか、二人はすこぶる仲がいい。特に満雀ちゃんの方は、双太さんを信頼しきっているという感じだ。
「よし、それじゃあ出席をとるよー」
満雀ちゃんを座らせた双太さんは出席簿を手に、生徒たちの出欠を取り始める。
そして今日もまた、平凡な一日が幕を開けるのだった。
まあ、目の調子によってはこういう日もある。
天気も良いし、視界は良好だ。
教室のドアをガラガラと開くと、室内に先客は一人しかいなかった。そいつは昨日も話題に出ていた俺のダチ、真智田玄人だ。元不良の俺とは違い、気弱で生真面目、敵を作らない優しいタイプの人間だった。
髪も黒の短髪。俺が銀髪で派手過ぎるのが悪いのだが、とても平凡な出で立ちな奴である。
「おっす、今日も早えな、玄人」
俺が声を掛けると、玄人は驚いたのかピクリと体を震わせてからこちらを向いた。
手には本。どうやら読書中で俺が来たのに気付かなかったらしい。
玄人は慌てて本を閉じながら、
「あはは……おはよう、虎牙」
と苦笑した。
「まーた難しい本読んでんのか、お前」
「難しいっていうか、単なるミステリだよ」
「それを難しいって言わね?」
「どうかなー……」
タイトルまでは分からないが、ミステリというからにはややこしい話なんだろう。物事を筋道立てて考えるというのは苦手だ。直感で動く方がやりやすい。
こういう推理小説を、玄人も龍美も好んで読むというのだから、素直に凄えなと思う。俺なんかには絶対無理だ。読めたとしても一ページで投げ出すことは間違いない。
「虎牙、今日は早いね」
本をしまうと、玄人は思いついたように言う。
予期していた質問だ。
「んー? まあ、目が冴えちまってな。寝つけたのが夜遅くで、起きたのもかなり早かったからよ」
「虎牙でもそういうことあるんだ」
「おい、もっぺん言ってみろ」
「あはは、冗談」
これも分かっていた返事だけに、俺は怒った素振りを見せつつも内心は笑う。
読みやすい奴だ、こいつは。
と、ちょうどそこでドアが開き、生徒がやってくる。
あいつも昨日話に出てきた友人、仁科龍美だ。
「あら、珍しいわね。寝坊助の虎牙がいるなんて」
こいつは中々高飛車な奴なので、開口一番にそんなことを言うのはしょっちゅうだった。
「あ、龍美。それは禁句」
「ん?」
玄人が忠告するのにも小首を傾げるだけ。上等だ。
「お前も殴られてえか?」
「乙女の柔肌に傷一つつけようもんなら、背負い投げじゃ済まさないわよ?」
「……お前の場合は冗談じゃなさそうなんだよな」
「ふふふ……」
龍美はその昔、空手部に所属していたらしい。エリートな家庭で育ち、勉強も上位を強いられる上に武術まで。文武両道を維持し続けるのはさぞかし大変だっただろう。
今では空手の経験を発揮することは難しくなってしまったが、龍美なら今の腕でも俺を一本背負いできそうな気がする。
龍美もいわゆるミステリマニアなので、玄人が読んでいた本のタイトルを目にすると興味はそちらへ移った。どんでん返しの面白さとか、ネタバレの怖さとかに花を咲かせる。
楽しそうで何よりだが、俺はちっとも入れない話題なので居心地が悪いのは確かだった。
まあ、だからと言ってミステリを読んでみるかとはならないけれども。
話が一段落したところで、俺も適当に話題を振ってようやく雑談に加わる。それから十分ほどが経ち、生徒たちがほぼ全員揃ったところでチャイムが鳴った。
「おはよう、皆。おや、虎牙くんもちゃんと時間通りにいるね。感心感心」
ドアがガラリと開き、そんな言葉とともに我が校のセンセイが入ってくる。あいつが俺たちを教える唯一の教師、杜村双太だ。
明るく気さくな性格、かつ医者と教師という二足の草鞋を履く懸命さもあり、彼は大人からも子どもからも好かれている。壁を感じさせない人間なので、俺も歳の差をあまり気にせず接することができた。本当はよくないんだろうが。
「うるさいぞ、双太」
「あのね……一応先生なんだから」
「自分で一応って言うなよ、センセイ……」
少し気弱というか、謙遜が多いのは玄人と似ているかもしれない。
からかいすぎるとかえってこっちが困るタイプなんだよな。
そんな双太さんは、いつも一人の女の子を連れてきている。彼女は別に双太さんの娘でも何でもなく――というか双太さんはまだ二十代なので当たり前だが――生徒の一人だった。
俺たちの仲間の一人、久礼満雀という子だ。
彼女は満生総合医療センターで実権を握る久礼貴獅の娘であり、院内の居住スペースで生活しているため毎日病院からここへやってくる。その付き添いとして医師でもある双太さんが一緒に来ているわけだ。
満雀ちゃん自身大病を患っており、自力で動くのも難しいし、容体が急変する恐れもある。そういう理由からずっと、この付き添い登校が続いているのだった。
「よし、じゃあ満雀ちゃん、座ろうね」
「はい、双太さん」
長年ああいう関係が続いているからか、二人はすこぶる仲がいい。特に満雀ちゃんの方は、双太さんを信頼しきっているという感じだ。
「よし、それじゃあ出席をとるよー」
満雀ちゃんを座らせた双太さんは出席簿を手に、生徒たちの出欠を取り始める。
そして今日もまた、平凡な一日が幕を開けるのだった。
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