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究明編
進展
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「と、その前にUSBのデータも確認しなくちゃ。もしかしたら重要な手掛かりがまた出てくるかもしれない」
「こっちは生きていてくれてるかな……」
ケーブルを挿したのとは別の端子に、真澄は箱の中から出てきたUSBメモリを挿し込む。
それからしばらく読込時間があり、やがて画面にパッと新たなウィンドウが開いた。
メモリ内のデータを認識することは成功したようだ。
「何かファイルみたいなのが一つだけ入ってるみたいです。でも……」
「む……アイコンがおかしいね。これ、破損してるのか」
中に入っていたデータは真っ白な紙のアイコンで、クリックするとファイルが破損していて読み込めませんでしたというポップアップが表示される。タイトルも無題となっており、中身の予想がつかない。
「こういうの、復元出来たらいいんだけどね……」
「ええ。データの重さからすると、単なるテキストファイルという気はするんですが」
破損したファイルはせいぜい数キロバイトのデータ量しかない。そこまで複雑なものでないなら、もしかすると復元が可能かもしれないと真澄は判断する。
「これをスマホに転送して……また仲間に頼むとしますかね」
「頼もしい限りだ、ぜひお願いするよ」
真澄はスマートフォンの充電用として持ち歩いているケーブルを接続し、破損したファイルをスマートフォンに転送する。それを仲間内の連絡用アプリに流し、解析を依頼しておいた。
「さっきの情報と同様、いい連絡が来ることを祈りましょう」
「だね。期待してる」
破損ファイルはとりあえずパソコンのフォルダにコピーしておき、USBメモリは箱の中に戻す。
それから真澄は、よしという掛け声とともに立ち上がった。
「じゃあ、充電もそこそこ出来ましたし、外に出て通信を試してみましょうか」
「そうしよう」
組み上げたパーツとノートパソコンを手に、真澄と杜村は地下室を出て、地上へと向かった。
時刻は午後九時過ぎ。これが終わったら、今日の行動は終了すべき頃合いだろう。
明乃を寝かせているベッド以外に寝床があるのか確認をとる等、今後についてのやりとりしつつ、二人は夜風の吹く病院の駐車場にやって来る。
そうしてコンクリートの上に座り込み、装置を置いてメッセージの送信準備に入った。
「メッセージは暗号化、圧縮されて送信されるんだけど、そこまで沢山の文字は送れそうにない。ソフト自体の限界もあるけど、前代未聞の通信だ。文字数が多いほど成功率は低くなると思った方がいいだろう。簡潔な文面を考えなくちゃね」
「了解です。とりあえず、明乃へ向けたメッセージと分かるようにはしましょう」
真澄はまず、明乃へという出だしの文字を打ち込む。それから幾分悩んで、
「一番に伝えるべきとすれば、やはりレッドアイのことでしょうね」
「僕もそれで異論はない。そうだな……WAWとは別の計画があるから調べるべきだと、そんな感じがいいと思う」
杜村の意見も踏まえ、文面を決定する。送信するメッセージは『アキノヘ WAWトハベツノ センノウケイカクアリ アカメヲチョウサ』というものになった。
「では、送信します」
「頼むよ」
真澄は送信ボタンを押してメッセージを飛ばす。
EME通信装置……本来ならば月面へと向かい、その反射によってもう一つの地点と通信を行う手法。
けれど今、月面に放たれたメッセージは、再びこの地に降り立って、霊界と呼ぶべき別次元へと到達する。
いや、到達するようにと、二人は願っている。
「……まあ、領域内で同じ日々が繰り返されているとしたら、仮に届いたとして返事までは無理でしょうし。今日はこれで終わりにして、明日に備えるとしましょうか」
「ああ、そうしよう。……たった一日でこれだけ進展があったんだ。六年間待ち続けた中で、一番の進展なんだから。僕にとっては十分過ぎるさ」
「そう言ってもらえると、来た甲斐があります」
真澄は微笑み、夏の夜空を見上げる。
明日は明乃と……いや、更にもう一人を加えて。この星空を見上げられればいいなと考えながら。
「こっちは生きていてくれてるかな……」
ケーブルを挿したのとは別の端子に、真澄は箱の中から出てきたUSBメモリを挿し込む。
それからしばらく読込時間があり、やがて画面にパッと新たなウィンドウが開いた。
メモリ内のデータを認識することは成功したようだ。
「何かファイルみたいなのが一つだけ入ってるみたいです。でも……」
「む……アイコンがおかしいね。これ、破損してるのか」
中に入っていたデータは真っ白な紙のアイコンで、クリックするとファイルが破損していて読み込めませんでしたというポップアップが表示される。タイトルも無題となっており、中身の予想がつかない。
「こういうの、復元出来たらいいんだけどね……」
「ええ。データの重さからすると、単なるテキストファイルという気はするんですが」
破損したファイルはせいぜい数キロバイトのデータ量しかない。そこまで複雑なものでないなら、もしかすると復元が可能かもしれないと真澄は判断する。
「これをスマホに転送して……また仲間に頼むとしますかね」
「頼もしい限りだ、ぜひお願いするよ」
真澄はスマートフォンの充電用として持ち歩いているケーブルを接続し、破損したファイルをスマートフォンに転送する。それを仲間内の連絡用アプリに流し、解析を依頼しておいた。
「さっきの情報と同様、いい連絡が来ることを祈りましょう」
「だね。期待してる」
破損ファイルはとりあえずパソコンのフォルダにコピーしておき、USBメモリは箱の中に戻す。
それから真澄は、よしという掛け声とともに立ち上がった。
「じゃあ、充電もそこそこ出来ましたし、外に出て通信を試してみましょうか」
「そうしよう」
組み上げたパーツとノートパソコンを手に、真澄と杜村は地下室を出て、地上へと向かった。
時刻は午後九時過ぎ。これが終わったら、今日の行動は終了すべき頃合いだろう。
明乃を寝かせているベッド以外に寝床があるのか確認をとる等、今後についてのやりとりしつつ、二人は夜風の吹く病院の駐車場にやって来る。
そうしてコンクリートの上に座り込み、装置を置いてメッセージの送信準備に入った。
「メッセージは暗号化、圧縮されて送信されるんだけど、そこまで沢山の文字は送れそうにない。ソフト自体の限界もあるけど、前代未聞の通信だ。文字数が多いほど成功率は低くなると思った方がいいだろう。簡潔な文面を考えなくちゃね」
「了解です。とりあえず、明乃へ向けたメッセージと分かるようにはしましょう」
真澄はまず、明乃へという出だしの文字を打ち込む。それから幾分悩んで、
「一番に伝えるべきとすれば、やはりレッドアイのことでしょうね」
「僕もそれで異論はない。そうだな……WAWとは別の計画があるから調べるべきだと、そんな感じがいいと思う」
杜村の意見も踏まえ、文面を決定する。送信するメッセージは『アキノヘ WAWトハベツノ センノウケイカクアリ アカメヲチョウサ』というものになった。
「では、送信します」
「頼むよ」
真澄は送信ボタンを押してメッセージを飛ばす。
EME通信装置……本来ならば月面へと向かい、その反射によってもう一つの地点と通信を行う手法。
けれど今、月面に放たれたメッセージは、再びこの地に降り立って、霊界と呼ぶべき別次元へと到達する。
いや、到達するようにと、二人は願っている。
「……まあ、領域内で同じ日々が繰り返されているとしたら、仮に届いたとして返事までは無理でしょうし。今日はこれで終わりにして、明日に備えるとしましょうか」
「ああ、そうしよう。……たった一日でこれだけ進展があったんだ。六年間待ち続けた中で、一番の進展なんだから。僕にとっては十分過ぎるさ」
「そう言ってもらえると、来た甲斐があります」
真澄は微笑み、夏の夜空を見上げる。
明日は明乃と……いや、更にもう一人を加えて。この星空を見上げられればいいなと考えながら。
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