上 下
144 / 176
最終部【伍横町幻想 ―Until the day we meet again―】

十四話 「事件に繋がっている気がする」

しおりを挟む
「じゃあ、僕とミイナちゃんが……というか、みんなで集めた情報の整理から始めるね」

 先陣を切ったのはミオだった。
 提案者ではあったが、彼はブレーン役としては一番年下だったから、まずは自分からと切り出したのである。

「霧夏邸、三神院、流刻園で起きた三つの事件では、沢山の犠牲者が出た。僕らの大切な人が、無残にも命を奪われることになってしまった。そして、その犠牲者の中に、何故か共通してあることが起きた人たちがいたんだね。
 まずは、霧夏邸で亡くなった河南百合香かわなみゆりかさん。次に、三神院で亡くなった流谷ながれだにあいさん。最後に、流刻園で亡くなった吉元詠子ちゃん。この三人はいずれも事件後、遺体の一部が欠損していた。ユリカさんは足、アイさんは手、エイコちゃんは胴体……というように、一部が奪い去られ、見つからなかった……」

 そこでミオが一息吐くと、後を引き継ぐようにミイナちゃんも口を開く。

「ドールがそれをした目的は恐らく、そのパーツを組み合わせ、一つの人体を作るため。……では、どうしてドールは継ぎ接ぎの人体を求めているのか。そこには……ある一人の女性が関係しているみたいです」

 その女性の名は、ミツヤとマスミたちも別な筋から知ることが出来ていた。
 だから、情報の正しさは保証されている。
 その女性の存在は、証明されている。

「女性の名前は、犬飼真美」

 ミイナの言葉に、残る五人は神妙に頷いた。

「流刻園に潜入したとき、僕は流谷めいさんから二つの情報を聞きました。一つは、ドールの計画が六月九日に行われるであろうこと。そしてもう一つが、犬飼真美という人物について調べること。……そう、恐らくドールは彼女を生き返らせたいがために、全てを計画し、実行しているんです。それは、降霊術を使って大事な人に再会しようとした僕らと、同じようなことなのかもしれないけれど……」

 ミオもかつて、最愛の女性を蘇らせようと降霊術を行使した。
 その結果が、黒木家や三神院で起きた凄惨な事件だ。
 全てはドールの思惑通りだったとは言え、生き返ってほしいという切なる思いが、確かに彼を突き動かしていた。
 そして黒幕のドールでさえも、彼と同じような思いの下に動いている。
 ミオにとってそれは、同情するに値する情報ではあった。
 かと言って、情けをかけるつもりはなかったが。

「……そして。犬飼真美について調べてみると、新たに二人の人物が浮かび上がってきた。波出守と、風見照の二人だね。どちらも波出製薬の関係者であり、犬飼真美を含めたこの三人は……いずれも数十年前に死亡している」
「波出家の研究所内で、死んでいるのが発見されたんですよね。ただ、風見照さんだけは奇跡的に一命を取り留めた……」

 マスミの説明にミオが補足を入れる。そこにミツヤも補足を重ね、

「そんで、一部じゃあ風見照のことを、悲劇のイケメン研究者とか言ってたらしいぜ。……ハルナ、そんなの持ってないよな?」
「持ってないわよ、私に振らないの」

 と、ハルナと再び漫才のようなかけ合いを始めた。

「ま、まあその通り。風見さんは一命を取り留めたんだが、その数年後に事件の古傷が原因で亡くなっている。そして、なんとその風見さんこそが……降霊術の術式を確立した人物だったんだね」

 風見照。これまでに起きた事件の中でも、その名前は登場していた。三神院にも何故か彼の著した書籍が保管されており、そのタイトルが『魂の学問的理解』だったことをマスミたちは覚えている。
 魂をエネルギーと見做し、それを操作する技術があれば医療にも役立てられる筈だとする研究論文。それを見た記憶があったから、マスミたちは風見照と降霊術との関連も、戸惑うことなく受け止められたのだった。

「これは偶然じゃない。そう思って、私たちは必死に情報を集めました。ただ、犬飼さんや波出さんに関する情報が、あんまり出てこなかったんです。二人が在籍していたらしい流刻園でも、記録が残っていなくて。多分、その記録は風見さんが残りの人生をかけて、消し去っていったんでしょうね……」

 それまで聞き手に徹していたアキノが、ここで話に加わる。彼女もまた、マスミの助手的な立ち位置でこれまで行動してきたのだ。尊敬し、思いを寄せる彼に少しでも貢献しようという気持ちがそこには表れていた。

「流刻園付近で、風見さんが目撃されてるらしいもんな。何か消したい事実があったんだろうぜ、きっと」
「……数十年前の事件に繋がる何かを消したかったんだろうね、恐らく」

 ミツヤが言い、マスミがそこから自らの推測を述べる。
 流刻園で風見照が目撃されていたというのは、つい先日学園内で起きた事件で偶然に得られた情報だが、大いに役立つ情報だった。

「……だけど、一つ収穫があった。三神院に、犬飼真美の診察記録が僅かに残っていたんだ。丸々盗んでいくと、流石に怪しまれると思ったのかな……それは不明なんだけど、犬飼真美は、幼少時に父親に酷い虐待を受け、精神に深い傷を負っていたそうだ……」
「精神に、傷……ですか」
「ああ。そのせいか、犬飼真美は周囲から少し浮いた存在だったそうなんだが、波出守は、そんな彼女の怪しい魅力みたいなところに惹かれ、交際を始めたらしい。……どうも、それが事件に繋がっている気がする」

 マスミからの情報に、ミイナは表情を曇らせる。
 ドールが蘇らせようとしている犬飼真美という人物は、そのような暗い過去を持つ女性なのかと。

「波出守を嫉んでいた誰かがいたのかもしれないし……それがドールだったという可能性は高そうですよね。私たちの事件だって、その根底にあったのは嫉みや恨みなんですし……」

 ハルナが言うと、他のメンバーたちもそれに同意した。
 複雑に絡み合う愛憎。これまでに引き起こされた事件も、自分たちの心の闇が深く関わっていた。
 全ての始まりとなる事件にも……と思ってしまうのも、無理からぬことだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

この満ち足りた匣庭の中で 二章―Moon of miniature garden―

至堂文斗
ミステリー
それこそが、赤い満月へと至るのだろうか―― 『満ち足りた暮らし』をコンセプトとして発展を遂げてきたニュータウン、満生台。 更なる発展を掲げ、電波塔計画が進められ……そして二〇一二年の八月、地図から消えた街。 鬼の伝承に浸食されていく混沌の街で、再び二週間の物語は幕を開ける。 古くより伝えられてきた、赤い満月が昇るその夜まで。 オートマティスム、鬼封じの池、『八〇二』の数字。 ムーンスパロー、周波数帯、デリンジャー現象。 ブラッドムーン、潮汐力、盈虧院……。 ほら、また頭の中に響いてくる鬼の声。 逃れられない惨劇へ向けて、私たちはただ日々を重ねていく――。 出題篇PV:https://www.youtube.com/watch?v=1mjjf9TY6Io

この欠け落ちた匣庭の中で 終章―Dream of miniature garden―

至堂文斗
ミステリー
ーーこれが、匣の中だったんだ。 二〇一八年の夏。廃墟となった満生台を訪れたのは二人の若者。 彼らもまた、かつてGHOSTの研究によって運命を弄ばれた者たちだった。 信号領域の研究が展開され、そして壊れたニュータウン。終焉を迎えた現実と、終焉を拒絶する仮想。 歪なる領域に足を踏み入れる二人は、果たして何か一つでも、その世界に救いを与えることが出来るだろうか。 幻想、幻影、エンケージ。 魂魄、領域、人類の進化。 802部隊、九命会、レッドアイ・オペレーション……。 さあ、あの光の先へと進んでいこう。たとえもう二度と時計の針が巻き戻らないとしても。 私たちの駆け抜けたあの日々は確かに満ち足りていたと、懐かしめるようになるはずだから。

この満ち足りた匣庭の中で 三章―Ghost of miniature garden―

至堂文斗
ミステリー
 幾度繰り返そうとも、匣庭は――。 『満ち足りた暮らし』をコンセプトとして発展を遂げてきたニュータウン、満生台。 その裏では、医療センターによる謎めいた計画『WAWプログラム』が粛々と進行し、そして避け得ぬ惨劇が街を襲った。 舞台は繰り返す。 三度、二週間の物語は幕を開け、定められた終焉へと砂時計の砂は落ちていく。 変わらない世界の中で、真実を知悉する者は誰か。この世界の意図とは何か。 科学研究所、GHOST、ゴーレム計画。 人工地震、マイクロチップ、レッドアウト。 信号領域、残留思念、ブレイン・マシン・インターフェース……。 鬼の祟りに隠れ、暗躍する機関の影。 手遅れの中にある私たちの日々がほら――また、始まった。 出題篇PV:https://www.youtube.com/watch?v=1mjjf9TY6Io

【恋愛ミステリ】エンケージ! ーChildren in the bird cageー

至堂文斗
ライト文芸
【完結済】  野生の鳥が多く生息する山奥の村、鴇村(ときむら)には、鳥に関する言い伝えがいくつか存在していた。  ――つがいのトキを目にした恋人たちは、必ず結ばれる。  そんな恋愛を絡めた伝承は当たり前のように知られていて、村の少年少女たちは憧れを抱き。  ――人は、死んだら鳥になる。  そんな死後の世界についての伝承もあり、鳥になって大空へ飛び立てるのだと信じる者も少なくなかった。  六月三日から始まる、この一週間の物語は。  そんな伝承に思いを馳せ、そして運命を狂わされていく、二組の少年少女たちと。  彼らの仲間たちや家族が紡ぎだす、甘く、優しく……そしてときには苦い。そんなお話。  ※自作ADVの加筆修正版ノベライズとなります。   表紙は以下のフリー素材、フリーフォントをお借りしております。   http://sozai-natural.seesaa.net/category/10768587-1.html   http://www.fontna.com/blog/1706/

ナオキと十の心霊部屋

木岡(もくおか)
ホラー
日本のどこかに十の幽霊が住む洋館があった……。 山中にあるその洋館には誰も立ち入ることはなく存在を知る者すらもほとんどいなかったが、大企業の代表で億万長者の男が洋館の存在を知った。 男は洋館を買い取り、娯楽目的で洋館内にいる幽霊の調査に対し100億円の謝礼を払うと宣言して挑戦者を募る……。 仕事をやめて生きる上での目標もない平凡な青年のナオキが100億円の魅力に踊らされて挑戦者に応募して……。

Dark Night Princess

べるんご
ホラー
古より、闇の隣人は常に在る かつての神話、現代の都市伝説、彼らは時に人々へ牙をむき、時には人々によって滅ぶ 突如現れた怪異、鬼によって瀕死の重傷を負わされた少女は、ふらりと現れた美しい吸血鬼によって救われた末に、治癒不能な傷の苦しみから解放され、同じ吸血鬼として蘇生する ヒトであったころの繋がりを全て失い、怪異の世界で生きることとなった少女は、その未知の世界に何を見るのか 現代を舞台に繰り広げられる、吸血鬼や人狼を始めとする、古今東西様々な怪異と人間の恐ろしく、血生臭くも美しい物語 ホラー大賞エントリー作品です

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

三大ゾンビ 地上最大の決戦

島倉大大主
ホラー
某ブログ管理人との協議の上、618事件に関する記事の一部を 抜粋して掲載させていただきます。

処理中です...