79 / 141
【幻影鏡界 ―Church of GHOST―】
17.5 兄と妹②
しおりを挟む
「モエカ!」
西条創平は、事件現場から逃げ出した妹の後を追っていた。既に仲間の姿は見えない。彼らは教会前の献花台近くまでやって来ていた。
ピタリと止まったモエカの背中に、ソウヘイは続けて声を掛ける。
「……なあモエカ、正直に答えてくれ。お前がミコちゃんを殺したのか」
「……違うわ」
背を向けたまま、モエカはゆっくりと首を振る。
「私が戻って来たとき、あの子はもう……死んでいたの」
「……それは、信じるよ」
心からの言葉かと問われれば、自信はない。
何故なら、ソウヘイには一つの疑念が蟠っていたからだ。
二人の関係性そのものを否定するような、疑念が。
「……じゃあ、モエカ」
意を決したように彼女を見据え、ソウヘイは訊ねる。
「お前は――本当にモエカなのか?」
「何ですって?」
流石に意表を突かれたらしく、彼女は目を丸くして驚く。
普通なら、同じ顔貌をしていれば本人であることはほぼ確実だ。相手が肉親で、双子などがいないことを知っているなら尚更に。
それでもソウヘイが、彼女を自分の妹でないと疑うには相応の理由があった。
「……俺はさ。夕方お前と話したとき、お前に嘘をついてたんだ。お前がオカルトに興味を示し始めたのは、中学生の終わりくらいのときだから……俺とそういう場所へ探検に行ったことなんて、ただの一度もないんだよ」
「え……」
失策。
一瞬でそれを理解したのか、明らかに彼女は狼狽えた。
演技の綻び。
ソウヘイはその僅かな綻びを見逃さなかったのだ。
「騙すような真似をしたのは悪かった。でもよ、分かった以上聞かせてほしい。お前は一体何者なんだ? お前の目的は……何なんだ?」
真っ直ぐなその視線と問いに。
モエカの姿をした何者かは、やがて観念したように口を開いた。
「私は――」
西条創平は、事件現場から逃げ出した妹の後を追っていた。既に仲間の姿は見えない。彼らは教会前の献花台近くまでやって来ていた。
ピタリと止まったモエカの背中に、ソウヘイは続けて声を掛ける。
「……なあモエカ、正直に答えてくれ。お前がミコちゃんを殺したのか」
「……違うわ」
背を向けたまま、モエカはゆっくりと首を振る。
「私が戻って来たとき、あの子はもう……死んでいたの」
「……それは、信じるよ」
心からの言葉かと問われれば、自信はない。
何故なら、ソウヘイには一つの疑念が蟠っていたからだ。
二人の関係性そのものを否定するような、疑念が。
「……じゃあ、モエカ」
意を決したように彼女を見据え、ソウヘイは訊ねる。
「お前は――本当にモエカなのか?」
「何ですって?」
流石に意表を突かれたらしく、彼女は目を丸くして驚く。
普通なら、同じ顔貌をしていれば本人であることはほぼ確実だ。相手が肉親で、双子などがいないことを知っているなら尚更に。
それでもソウヘイが、彼女を自分の妹でないと疑うには相応の理由があった。
「……俺はさ。夕方お前と話したとき、お前に嘘をついてたんだ。お前がオカルトに興味を示し始めたのは、中学生の終わりくらいのときだから……俺とそういう場所へ探検に行ったことなんて、ただの一度もないんだよ」
「え……」
失策。
一瞬でそれを理解したのか、明らかに彼女は狼狽えた。
演技の綻び。
ソウヘイはその僅かな綻びを見逃さなかったのだ。
「騙すような真似をしたのは悪かった。でもよ、分かった以上聞かせてほしい。お前は一体何者なんだ? お前の目的は……何なんだ?」
真っ直ぐなその視線と問いに。
モエカの姿をした何者かは、やがて観念したように口を開いた。
「私は――」
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。
木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。
彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。
こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。
だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。
そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。
そんな私に、解放される日がやって来た。
それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。
全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。
私は、自由を得たのである。
その自由を謳歌しながら、私は思っていた。
悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。
よくある婚約破棄なので
おのまとぺ
恋愛
ディアモンテ公爵家の令嬢ララが婚約を破棄された。
その噂は風に乗ってすぐにルーベ王国中に広がった。なんといっても相手は美男子と名高いフィルガルド王子。若い二人の結婚の日を国民は今か今かと夢見ていたのだ。
言葉数の少ない公爵令嬢が友人からの慰めに対して放った一言は、社交界に小さな波紋を呼ぶ。「災難だったわね」と声を掛けたアネット嬢にララが返した言葉は短かった。
「よくある婚約破棄なので」
・すれ違う二人をめぐる短い話
・前編は各自の証言になります
・後編は◆→ララ、◇→フィルガルド
・全25話完結
ハヤトロク
白崎ぼたん
BL
中条隼人、高校二年生。
ぽっちゃりで天然パーマな外見を、クラスの人気者一ノ瀬にからかわれ、孤立してしまっている。
「ようし、今年の俺は悪役令息だ!」
しかし隼人は持ち前の前向きさと、あふれ出る創作力で日々を乗り切っていた。自分を主役にして小説を書くと、気もちが明るくなり、いじめも跳ね返せる気がする。――だから友達がいなくても大丈夫、と。
そんなある日、隼人は同学年の龍堂太一にピンチを救われる。龍堂は、一ノ瀬達ですら一目置く、一匹狼と噂の生徒だ。
「すごい、かっこいいなあ……」
隼人は、龍堂と友達になりたいと思い、彼に近づくが……!?
クーデレ一匹狼×マイペースいじめられっこの青春BL!
【R18】ひとりで異世界は寂しかったのでペット(男)を飼い始めました
桜 ちひろ
恋愛
最近流行りの異世界転生。まさか自分がそうなるなんて…
小説やアニメで見ていた転生後はある小説の世界に飛び込んで主人公を凌駕するほどのチート級の力があったり、特殊能力が!と思っていたが、小説やアニメでもみたことがない世界。そして仮に覚えていないだけでそういう世界だったとしても「モブ中のモブ」で間違いないだろう。
この世界ではさほど珍しくない「治癒魔法」が使えるだけで、特別な魔法や魔力はなかった。
そして小さな治療院で働く普通の女性だ。
ただ普通ではなかったのは「性欲」
前世もなかなか強すぎる性欲のせいで苦労したのに転生してまで同じことに悩まされることになるとは…
その強すぎる性欲のせいでこちらの世界でも25歳という年齢にもかかわらず独身。彼氏なし。
こちらの世界では16歳〜20歳で結婚するのが普通なので婚活はかなり難航している。
もう諦めてペットに癒されながら独身でいることを決意した私はペットショップで小動物を飼うはずが、自分より大きな動物…「人間のオス」を飼うことになってしまった。
特に躾はせずに番犬代わりになればいいと思っていたが、この「人間のオス」が私の全てを満たしてくれる最高のペットだったのだ。
いらないと言ったのはあなたの方なのに
水谷繭
恋愛
精霊師の名門に生まれたにも関わらず、精霊を操ることが出来ずに冷遇されていたセラフィーナ。
セラフィーナは、生家から救い出して王宮に連れてきてくれた婚約者のエリオット王子に深く感謝していた。
エリオットに尽くすセラフィーナだが、関係は歪つなままで、セラよりも能力の高いアメリアが現れると完全に捨て置かれるようになる。
ある日、エリオットにお前がいるせいでアメリアと婚約できないと言われたセラは、二人のために自分は死んだことにして隣国へ逃げようと思いつく。
しかし、セラがいなくなればいいと言っていたはずのエリオットは、実際にセラが消えると血相を変えて探しに来て……。
◆表紙画像はGirly drop様からお借りしました🍬
◇いいね、エールありがとうございます!
【完結】人形と皇子
かずえ
BL
ずっと戦争状態にあった帝国と皇国の最後の戦いの日、帝国の戦闘人形が一体、重症を負って皇国の皇子に拾われた。
戦うことしか教えられていなかった戦闘人形が、人としての名前を貰い、人として扱われて、皇子と幸せに暮らすお話。
性表現がある話には * マークを付けています。苦手な方は飛ばしてください。
第11回BL小説大賞で奨励賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる